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キャトル・セゾン  作者: 零
6/6

春の少女 そして、

その年の春は、桜の開花予想をわずかばかり外して、穏やかな春の日に花は咲いた。

 その日から天気は穏やかな晴れの日が続き、次々と桜は咲いて、満開の頃を少し過ぎた頃の事だった。

 閉店直後、彼は現れた。

 その日は、最後のお客様が長居をしたため、そのお客様が帰ってから閉店しようとした時、日付はとうに変わっていた。

 近くの桜の木から散り落ちた花弁が、彼が明けたドアから入ってくる。私はその時、最後のお客様の食器を片付けている最中だった。彼が入ってきた時、最初、彼だと気づかず、入り口のプレートをしまい忘れたことを後悔した。だが、彼ならば構わない。長い付き合いだ。閉店時間が過ぎているとわかっていて来るなら何か訳ありだろうと察した。

 私は何事も無かったかのように、いらっしゃいませ、彼に声をかけた。すると、彼の腰のあたりからひょっこりと見知らぬ小さな女の子が顔を出した。

 年のころは五、六歳というところだろうか。おかっぱ頭の女の子だ。白いブラウスに赤い、何か模様の入ったズボンをはいている。

 どこかで転んだのだろうか。顔も服も汚れている。それ以前に何故こんな時間にこんな小さな少女が外にいるのかと不思議に思った。ことと次第によっては警察に連絡しなければならなくなるかもしれない。そう思うと私は少し緊張した。

 反して彼は、澄ました顔で店内に入ってくる。いつもと違うのは、彼が女性同伴である事、そして、その彼女を気遣い、かばうようにして歩いている事。

 やがて、カウンター席に彼が座ると、彼女はその隣の椅子によじ登った。どこか不安そうな顔をしている。それはそうだろう。親はどうしたのだろう。迷子だろうか。

 彼の身内である可能性も考えたが、それにしては不安そうだ。そして、今まで見たこともない。そもそも話もろくにしていないのだから、今回初めて連れてきた身内だと言われても何ら不思議はないが。

 特に彼が何もオーダーしなかったため、私は彼女にりんごジュースを出した。彼にオーダーを訪ねると、水、とだけ言った。珍しい。今までに無かったことだ。

 彼女はその氷の入ったジュースのグラスを見て目を輝かせている。彼がストローで氷をカラカラと回して見せると、それだけで喜んでいた。彼女が口をつけようとしないので、彼がそっと彼女の肩に手を触れ、グラスごと持って、彼女の目の前に出すと、やっと彼女はストローに口をつけた。私は単純に手が届かなかったのだろうと思った。

 彼が微笑むと彼女は微笑み返した。和やかな雰囲気が、私の疲れを癒してくれた。

そして。

私の見つめる目の前で、彼女の姿は次第に薄くなり、消えた。

ありがとう、と、幼い声を残して。

消える寸前、私の目には一瞬だけ彼女の頭に防空頭巾が見えた気がした。

気づくと彼女のジュースは全く減っていなかった。

「大丈夫。ちゃんと届いているよ。」

彼は、せつない気持ちでグラスを見つめる私にそう言った。


窓の外を、今年最後の桜吹雪が通り過ぎていった。

次の新しい生への、餞のように。


久々の長い話でした。

お付き合いくださいましてありがとうございます。

これは文學界新人賞に投稿して選外だったものです。

作中の謎の男は、実は黒猫でした、って話も考えてました。

看板猫的な黒猫が、訳アリのお客さんを少しずつ幸せにしていく、という感じで。

でもやっぱりちょっと無理があるんですよね。

話もせずに、と、なると難しい(;^_^A

そんなわけで謎の男止まりになった感じです。

喫茶店は自分でも好きな場所なのでよく出ます。

でも、なかなか雰囲気のいい喫茶店と言うものには出会えていません。

いつか出会う事を楽しみに☆


いつもお付き合いくださいましてありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

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