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明治妖妖記 幽霊騒動  作者: ながとみコケオ
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全てはここから始まった

 数年前に別ネーム、永富予受子で執筆させていただいておりました。

数年前のを再投稿…はしておりません。

リメイクしなおさないと完全に無理なので、明治妖妖記を投稿いたしました。


頑張ります…。

 あやかしになって、どれくらい時間が経ったのだろうか。切り立った岩の上に腰を下ろした喜助きすけは眼下に見える城下町を眺めながら、自分の記憶を辿っていた。大樹たいじゅと呼ばれる世界の柳という国で、人だった薬屋の長男として生まれて、それから。

「何してたっけかな」

 途中で、記憶を辿るのを止めた。三三〇年以上ある記憶を辿るのは、正直時間がかかって面倒だ。長く生きれば生きる程に時間の感覚はなくなり、結果として適当になってしまう。

 まあ良いかと思いながら、城に視線を向けた。大樹では、見たことのない城。煉瓦ではない、真っ白な壁の独特の形をした建造物。こちらに来て初めて見た城は、喜助にとって興味の対象となり、暇があれば間近で眺めていたものだ。城を見つけては眺めてと繰り返していたが、江戸を首都とした徳川家が治めた時代に入ると、城を間近で見るのも飽きてしまった。

「何を考えているの」

「秘密。珍しいね、小闘竜しょうとうりゅう妖利山ようりざんの主の所に、居たと思ってたけど」

「居たわよ。でも、ちょっと退屈になってきたから、貴方の所へ来てみたの」

 左肩に現れたのは、黒い炎を纏った西洋竜のような姿と、鳥のような翼を持った小闘竜だ。右肩には出来ていた影から音も無く姿を現した、鱗のない真っ黒な蛇。小闘竜も黒蛇も、霊獣と呼ばれる生き物。小闘竜達と最初に会ったのはまだ人だった頃で、もう随分昔からの知り合いだ。笑みを浮かべて、喜助はもう一度城下町を見てみた。

 徳川家が治めた時代に入るほんの一〇年程前から、喜助はこの国の人の中で過ごして今に至る。この国の民がしている髪型にはどうも馴染めずに、散切りと呼ばれた髪型のまま江戸の町を転々として二六〇年程過ごした。

 緩やかな風が、喜助の頬を掠めていく。風に乗って運ばれた臭いに、喜助はほんの少しだけ、眉を寄せた。

 徳川家の治めた時代も、終わりに近付いている。黒船の来航した嘉永六年以降、幕府の権力は弱さと脆さを露呈させてしまった。治め始めた頃は絶対的な権力を誇り、未来永劫続くように思えていたが、人も時代も変われば事情も変わってくるもので、最近は討伐だのと不穏な動きも見える。最も、喜助にしてみれば徳川家の治めた時代が終わっても、別段困ることはない。自分は放浪しているに過ぎず、移り変わる時代をただ見ていれば良いだけなのだ。

「まあ、良いか。さてと、下の村まで降りてみようか。さっきから、血の臭いがしてるんだよねえ」

 喜助が城下町を眺め出して、まだ一刻と経っていない。眺め出した頃は全くしなかったのだが、先程の風が血の臭いを運んでから、次第に強くなっている。

「そうね。ただ事ではなさそうよ。この子も、さっきから気にしているの」

「黒蛇もなんだ。あんまり好きじゃないな、血の臭いは。故郷を思い出す」

 故郷がなくなった時のことは思い出したくもないが、時間が経った今でもふと思い出してしまう。

「何が、思い出すって」

「故郷だよ。いち、何か用」

 濃い灰色の外套が視界の下に見えたと同時に掛けられた声に、喜助はちらりと見えない相手の顔を見上げた。外套に身を包み、取り付けられた頭巾を顎まですっぽりと被っている壱は、廃墟と化した喜助の生まれた町で出会った。

「下の村。面白いことになってるんで、行ってみようと思ってね」

「面白いこと」

 血の臭いがするのに、面白いのか。眉間に皺を寄せて喜助は、疑問気に壱を見た。

「村が襲われている。襲っているのは、刀取りっつう妖怪でね、無差別に切り殺していた。子供も含めて一人残らず血祭りにしてやるってさ」

 先に村まで行っていたらしい壱の言葉に、喜助は岩から腰を上げて壱の横に狙いを定めて降りると、無言のまま歩き出した。長い付き合いだ。喜助の性格を分かっている壱は、言えば助けに行くと見ていたのだろう。笑みを浮かべる雰囲気を漂わせながら、半歩後ろを歩いている。

「性格が曲がりくねってるわね」

 小闘竜の言葉にも、壱は笑んだ雰囲気を崩そうとはしなかった。

 ぐにゃりと、周りの風景が変わっていく。描かれた絵が歪むように、見えた景色は混ざり合うようにそこかしこに渦を巻き、再び戻されていく。戻された景色は先程の景色はなく、明らかに水分を吸った地面と、人気がなく荒らされたように壊れた家々が点在している景色だ。

 自分達がいた場所と、村のある場所の空間を繋げ、渡ってから繋げた空間を元に戻す。数えきれない程、使い続けている術は時に無情な場所に繋げてくれる。

「人気がない」

 否、離れた家の影に草鞋を履いたままの足が、草鞋の裏を見せたまま地面に投げ出さている。

「刀奪うだけじゃ、物足りないのかねえ」

「どうでもいいよ、そんなの。それより、生きている人を探さないと」

 周囲を見渡しながら歩き出した喜助の視界に、軽く肩を竦めている壱の姿が見えた。黒い炎を纏った翼を広げて、小闘竜が喜助の肩から言葉なく飛び立った。黒蛇も出来ていた影に自分の身体を潜らせていく。確認して、喜助は腰に差していた魔刀、相刹そうせつを鞘ごと抜きながら早足に村の中を歩きだした。

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