なに見てはねる
400文字小説です。
「うーさぎうさぎ、なに見てはねる。十五夜お月さま見てはねる」
ぼくは目前の光景に、我知らずそんな歌を口ずさんでいた。
この地で新たにできた友人が、耳をそば立てる。
「なんだい、その変な歌は」
小柄な友人は、ぼくを見上げると訊ねた。
「童謡だよ。ぼくの故国の」
「なんで月を見て、うさぎがはねるのさ」
「うーん……地球のうさぎがさ、満月の中に仲間を見つけて喜んで跳びはねてるんだと思う……たぶん」
「ふうん」
「気に入らない?」
「まあね。だいたいさ……」
友人がふと言葉を切った。
すると目の前に広がる灰色の地平線から、ビー玉のような青い球体が、黒い虚空へと浮かび上がった。
表面をうっすら覆う雲海は、さざ波のように形を変える。
日の出ならぬ、地球の出だった。
ぼくらは殺風景な月面の上で、その様をぼんやりと眺めていた。
「だいたい……なに?」
「なんでもないよ」
そう言うと友人は、長く白い耳をぴくぴくと器用に動かし。
ぴょんとはねた。
400文字小説でした。