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星の心をあなたに  作者: 空星月花
第1章 エルメリス王国
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第4話

 クララ様が、眉尻を下げてため息をつく。

 ほんとっ、それだけでもイイ餌ですっ!美女の困り顔たまりませんなっ!



 ………っと、自制しないと。


「私は助けてもらえると思ったから……、お父様に言われていた通りに、本名を名乗って助けてくれと要求したの………と言うか、命令したわ。その頃はそれが正しいと思っていたの。」

「まぁ、そうでしょうね。」


 サヴォイア公爵に会ったことがあるけど(もちろん王子の所にやって来た彼を、いち護衛騎士として見守らせていただいたわけだが)、なんだか偉そうだった。


「はじめは一人だったのに、だんだん何人かが部屋に入ってきて…おかしいと気づいたときには、猿ぐつわをかまされて、縛られていたの。びっくりしたし怖くて、涙が出るどころではなかったと思うわ。」

「怖かったでしょうね…」

「何を他人事みたいに言っているの?」

「へ?」


 ???

 どういうこと?

 だって、悪いけど他人事だし…。


「あのあと、貴女が助けてくれたんじゃない。」

「え、ええええ?!そうでしたっけ?」


 記憶にないなあ…そう言うことは結構してきたんだもん、いちいち覚えてないよ?


「ええっと…思い出させてくださり、ありがとうござ」

「感謝するのはこっちよ。ありがとう。」

「あ…、はい。」


 にっこり、クララ様か笑った。

 ふんわり、あったかな笑顔だ。素敵だな。


 で、これがクララ様の、私に関する記憶ってわけだ。




「…………そろそろいいかな?」

「あぁ、殿下、すっかり忘れていました、すみません。」


 ほんと、忘れてた。

 長話だったのもあるけど、興味深い話だったのもある。

 ……………殿下も聞き入ってたじゃない?


 殿下は私達の方に来ると、私の手を握った。

 やめてほしいんだけど…、婚約者の前でしょ。


「リア、ハルスィーカに留学するんだって?」

「はい。そうです。殿下、手、離していただけます?」

「いやだ。」


 ひょろひょろの第二王子アレクスとは違って、〝賢き将〟なる第一王子レイアスは体つきもガッチリしている。

 手を離そうと私の力で手を捻っても、育ち盛りの男の子の力は強い。押さえ込まれてしまった。


「……くっ。」

「ねえ、リア?僕の騎士にならない?そうしたら、この手をはなしてあげる。」


 耳元で殿下が囁いた。


「へ?!」


 何てこというんだ、この王子。

 落ちこぼれ近衛隊のしがない副隊長に、第一王子付近衛隊エリートへ行かないかって勧めるなんて。


「ねえ、良いよね?」

「え、いえ、私はもう、アレクス殿下と、留学が決まっていて…着いていかないと…」

「別にいいよね?君のような人を外の国に出してしまうのは勿体無いよ。それに、留学と言う名の左遷だよね。留学してしまえば、出世の道は閉ざされるんだよ。」


「…だから?」

「残念だけど、将来王になるのは僕だよ。あいつじゃない。」

「えーと、…その、お断り…」

「だめかな?」

「ええと、んー…」

「………分かってるよね?人望は僕の方が厚いんだ。少しくらい恩を売るとでも思っておけばいい。将来の出世に役に立つだろう?」



 だから、どう?…と第一王子殿下は言った。



 …………正直、イラッときた。

 握られている手も、その甘い笑みも、出来ることならひっぱたいてやりたい。


 出世が、何?

 左遷?

 留学して、学ぶことの、何がいけないの?

 私がやりたいようにやって、悪いわけ?


 出世出世出世出世出世って、うるさいよ。


 それに、


 あんたは、



「………アレクスなんかどうでも良いってワケ?」

「え、いや…」

「だってそうとしか思えない言葉ですよね?だいたい、立太子したって王様に確実になれる訳じゃないでしょう。偉そうに。」

「…っ…そんなことは…」

「なくないですよ。そもそも、他人の留学が決まった直前に引き抜きですか?どっちにしろ、良い返事なんか望めないと思いますけど。」

「…だが…しかし…その」



 情けなくも狼狽えて、はっきりとしない第一王子に、私の心が、ブチッと、キレた音がした。



「ねえ殿下、私、ホントは此処でこんなこと言うつもりじゃなかったんですけどね。」


 驚いている殿下の手を勢いよく振り払った。


「あっ。」

「私は別に、ハルスィーカに留学する訳じゃないですよ。」


 仁王立ちして、彼を睨み付ける。

 怒りのあまり、声が震えた。


 だって、出世のため、自分のためなら家族を見捨てる奴だって、分かったんだもの。

 アレクスを〝あいつ〟呼ばわりするなんて。

 異母兄弟ならまだしも、実弟じゃない…!


「帰国です。私の名は、セイシアンテ・リアナカリエ・アランシア、ハルスィーカ王家傍系アランシア公家のセイシアンテ公女なんです。だから、貴方の心配なさってる〝留学〟なんかじゃありません。」

「……なっ…」

「だから、貴方の護衛騎士なんかになれません。私、自分のことくらい自分で出来ます。貴方の助けとか力とか、とにかく何にも必要ありません。」


 〝貴方の力なんか要らない〟。

 そう、早口で捲し立てた。

 たまった唾を呑み込む。

 息を吸って、心を落ち着かせた。


「出世なんかしなくても十分な身分です。私は、貴方の弟君を主に選びました。主が護衛を選ぶのかもしれませんが、護衛騎士も人です、〝仕えたい〟〝着いていきたい〟と思う主に着いて、当たり前でしょう。」


 裏を返せば、あんたなんかに仕えたいとは思わねえんだよと言うことだ。

 当たり前だ、家族を大切にしないんだから。


「八年前のままだったら良かったのに、殿下。次会うときは、きっと、公女としてでしょう。王子、今までありがとうございました。クラウレイラ様、結婚式の時はお願いですから、私を呼んでください。ハルスィーカ代表として参列させていただきますから。」


 微かにクララ様が頷いたのを確認してから、その場を立ち去り、黎明宮に向かう。


 スッキリした。

 もう関わらなくていい。

 覚悟も決まったし。公女として生きるっていう。


 左に角を曲がると、もう黎明宮だ。

 背後にある殿下と、クララ様たちの気配もなくなった。


 そのとき。



「リア!お前っ!」


たったったっと足音がして、左手首を捕まれた。


「…お前!」

「……シャルグラス先輩と、………ベイルート先輩。お久し振りです。」


捕まれた手首をたどった先に立つ、二人の男。

私が王立学院にいた頃の先輩だ。

彼らと私は同じ年に卒業したけど、三歳差だ。

と言うのも、私は飛びスキップを使って三年で卒業したが、普通、王立学院は六年で卒業するものだからだ。

年齢的にも経験値も上だから、私は彼らを先輩と呼んでる。


「ああ、久しいな。しかし、リア…、さっきのは何だ?」

「さっきの?」

「とぼけるなよ。」


そっとため息をつく。


「…………真実を述べたまでですが。」

「だからといって、あれはないだろう?!言い過ぎだ。それに、殿下の……」

「殿下の?」

「……いや、…」

「シャル、ちゃんと言え。で、リア、殿下が前からお前を好きだったことくらい分かってるんだろう。だな?」

「……………ええ、そうよ。」


観念して答える。

この二人には敵わないと分かってるから。


「いつ気づいた?」

「かなり最近になってから。ここ二年ほどはそうじゃないかなって思ってた。」

「遅すぎだろ…」

「だって昔と同じように接してくるから…、気持ちの変化に気付きにくいんだよ。」

「それは昔から好きだったってことだろ…」

「…え、そうなの?」

「お前なぁ…」


呆れられてしまった。

でもほんとに気付かなかったし!


「ミルカさんに言われなきゃわかんなかったんだから!」

「はぁ?本当かそれ?」

「二年くらい前に、久しぶりに城内でミルカさんに会ったの!その時に色々聞かれて、殿下が私のこと好きだって聞いたの!」

「…可哀想な殿下…。」


ミルカさん、とは王子の乳母さまだ。

王妃様は基本、子供をお育てにはならないそうで、ミルカさんが乳母としてやって来た。

今では綺麗なおばあちゃん、という感じだ。


「仕方ないでしょ、だって弟みたいな子なんだよ…見方を変えろったって…」

「つまり、お前は…」

「……………殿下の気持ちには、こたえられないよ。」



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