第2話
本日2話目!
「おーおばさまー!」
「ああ、やっと来たのじゃな。リア。」
北の塔に着いて、300段くらいの階段を登れば、大おばさまの部屋だ。
扉を開けてリアン大おばさまに飛びつく。
「おっと。重くなったの。」
「そりゃあね、二十五…だし…ね…。」
うわあああああああああ言ってて悲しい!
いや、哀しい!
「私も、二十五の頃はまだ、独身じゃったよ。」
「知ってる。歴史で習ったし…………あっ、そうだ!大おばさま、ハルスィーカについて知ってるんだって?」
本題を思い出して、大おばさまの顔をあおぐ。
彼女は背が高い。羨ましい。どうして先祖はこうなのに、子孫はこんななのか…
「知っているといったって、大分昔の話だがの。今のハルスィーカについてなら、リア、お前の方が知っておろうよ。」
「王立学院で、確かに習ったよ。八年前に。……だけど、お母さまが大おばさまに聞くように言ったんだもの。」
大おばさまは困った顔をして首をふった。
「王立学院か、懐かしいねぇ………しかし、私の情報など、何に役立つというのじゃ?少なくとも二百年も昔のことだに。」
『その、二百年も昔のことを彼女は聞きたいのでは無いのか?』
さっと、大おばさまの背後に現れて、びっくりして椅子からずっこけかけた。危ない危ない。
「エルじゃん!久しぶり~!」
『そのようだな。………で、リア?』
「私が話すことにはあらず。アランシア家の当主が話すべきこと。」
『…………今代の当主は知っているのか?』
「知っている。」
訳がわからない話になった。
たまーにエルと大おばさまはこうなる。長く生きているし、これくらい長く生きているのは、エルと大おばさま位だからね。
お気づきかもしれないけど、エルは〈星霊王〉だ。
エルの言うリアは、大おばさまのことだ。たいていエルは、私を「アランシアの娘」とか「リアの昆孫」とか呼ぶ。
エルは「徹底的リア至上主義」を掲げてるもん、大おばさま中心に世界が回ってる、そんなヒト。
「………エル、貴方にはリアに着いていって貰うよ。」
「え?!」
『何でだね、リア?』
………怖い。静かにエルが、怒ってる。 ワケわかんなくなったあと、二人の話を聞いてなかったから、どうしてこうなったのか…さっぱりだ。
「別に、リアに張り付いていろとは言うておらん。ハルスィーカとここにいる私のところを、行き来してもらいたいのじゃ。」
『何のために?』
「何でもよかろう。初めて異国で、しかも国の代表としてじゃぞ、そのように暮らすことになるリアの、生活の支えとなればよいがの。」
く、国の代表?!そんな、畏れ多い…事実そういう認識になるだろうけど、でも、「生活の支え」って、私がエルで生活してるみたいな…誤解を招きかねない…(まあ此処に誤解する人もいないけど)。
「リア、そんなオタオタせんでもよい。」
「ひぇっ?!」
何なの心読んでるの?こわい。
「私の頼みじゃとでも言えば、エル、貴方はやってくれるのじゃろうな。」
『分かっていてそうするのか。だいたい、他の者も行くではないか、ハルスィーカには。』
「それが頼りにならぬから貴方に頼んでおる。困ったことに、二の王子と近衛隊は、女子一人に全て任せて自分達はぬるま湯に浸かることしか出来ぬようだからの。」
呆れた…のかな。諦めきった、と言うべきか。
そんな声で、大おばさまは言った。
なんか、情けない気持ちになる。
王宮で、官吏や他の騎士さんに嫌味を言われるときは別に、なんとも思わない。
寧ろ、バカ言ってろ、って相手にしない。
だけど、こう、大おばさまにしみじみ(?)と言われるとキツい。
私を責めるつもりはないんだろうけど、でも、「ぬるま湯に浸かりきった」近衛隊をなんとかしようとしてこなかったのは、私だ。
自分が現実から、何となく目を逸らしていた気がする
『…………分かった。』
「そうか。して、リア、お前の手にある封筒はなんだ?」
「え?あ、これ?お母さまから。」
紹介状のなんの、と兄さまがくれた奴だ。
未開封のまま、手に持っていた。
「………開けてみい。」
「いいの?」
「手紙は開けて読むためにあるものじゃ。仕舞い込んでおくためにあるものでは無い。」
「そっか。」
大おばさまの言うことは一理ある。流石だ。
ペーパーナイフを借りて、サーっと刃を滑らせ、封筒の上部を開ける。
やっぱり、紹介状一枚だけではなかった。何枚もの便箋だ。
うっすら文字が透けて見えるが、ぎっしり書いてあるようだ。
「…あ!」
「何?…………む、アランシアの暗号か。まだ使われておるのか。」
紹介状の文字は普通に書いてあったが、それ以外の分厚い便箋たちは、全て暗号だった。
古くから我が家に伝わる、独特の暗号だ。
アランシア家の子供たちは皆、その暗号を幼い頃に習う。もちろん、私も自然と使える。
ふんふん、と目を通していく。
読み終えて、思わず大おばさまの顔を見てしまった。
「……ねえ、これって本当なの?アランシア家はハルスィーカ王家の傍系で、ハルスィーカではアランシア公家として通ってるって。」
「現ハルスィーカ王家の始祖の姉御がアランシアの御先祖様になるかの。」
だけど、それって…
「相当昔…でしょ?」
「1 200年くらい前じゃな。」
「そんなんじゃ、不確かすぎるよ。相当血は薄まってるよ。ハルスィーカ王家の。それに、そんな証拠無いでしょ。」
「アランシアの書庫にある、血判状がその証拠じゃ。それに、エルが証人になれる。〈星霊王〉じゃからな。」
「?!け、けけけけけ、血判状?!」
そんな物騒な…!それに星霊王を証人て、なんっちゅうことだ……!
「アランシアの館を探せばあるはずじゃ。ハルスィーカにある発達した技術で、アランシア家初代当主の血と、現王家の血を分析したところ、血縁があったことが分かったのじゃ。」
「????ごめん、ちょっとわかんない………つまり、ホントの事なの?」
「うむ。エルメリス王国のアランシア侯爵家はハルスィーカ王家傍系のアランシア公家であり、歴代アランシア家当主はその二つの肩書きを持ってきた。」
ちょっと信じられる?!
自分ん家が二つ爵位持ってたとか!
隣国の王家だったとか!
今まで安月給で苦しんでたけど、実はそうでもないじゃない!剣だって買えるよ、新しいの!
「まあ、うかうかせずに、きちんと最後まで読むことだ。」
「え、読んだけど…?」
「まだ1ページ残っておるが。」
「うそ、………ほんとだ。ヘンな終わり方の手紙って思ったら、違ったんだ。どうりで。」
何故かこのページだけ、普通の文字だ。暗号じゃない。
怪しさ満点だ。
『それで、私は、公家と侯爵家を分けようと思いました。
もともと、アランシア家…我が家は、子爵家としてひっそり興りました。建国された頃にです。建国に関する手柄を認められたようです。
その当時、初代当主は女性でした。彼女にならい、二百年ほど前まで、アランシア子爵家は女性当主が家を担ってきたのです。
しかし、リアン大おばさま……と呼ばれている彼女が、国内の反乱をおさめ、王家と婚姻を結びました。その時に功績を認められ、我が家は子爵から侯爵となりました。さらに、同時にハルスィーカ王家に、ハルスィーカ王家傍系アランシア公家と認められたのでした。
とにかく、長女として、後にアランシア家を継ぐはずだったリアン大おばさまは、家を継げなくなりました。困ったので、その代から後は、子供のうち最もふさわしい子に、アランシア侯爵家を継がせることにしたのです。
この慣習に習って、私はアランシア侯爵家は貴女の兄、アンドレアスに、アランシア公家は貴女に継がせようと思います。
もう書類は提出したので、貴女の身分は〝ハルスィーカ王家傍系アランシア公家リアナカリエ公女〟となります。
今日からなので、気を付けなさいね。』
……………………?!
驚きすぎて声が出ない。
大体なんなんだ、今日から公女様ですって……
やたら長ったらしい名前だし…
「ふむ、なかなかやるの……今代は。」
『公女か。』
「そうじゃ。」
お母さま何やってるのよ…
エルメリス王国の代表として留学と思ったら、実は留学先の王家出身でした☆って、留学じゃなくて帰化なんでは…
『ハルスィーカ風に名前を変えた方が良いな。向こうの公女なのだろう。』
「確かに、その方が国民にも好印象じゃろうな。」
「………あの、リアナカリエって名前は、ずっと使ってきたんです。だから……」
「愛称かミドルネームにすればよいかの。何、心配せんでもよい。」
良かった………
「…セイシア、なんてのはどうかの?」
『セイシアンテの方が良い。〝星の恵み〟だと寂しい。〝星が恵むもの〟の方がよかろう。』
「セイシアンテ………、セイシアンテ・リアナカリエ・アランシア…。」
な、ながっ!
仰々しっ!
意味、やばっ!
これが私の感想。
良い名前だけど、私って言う存在が名前に負けてる感はんぱない。
セイシア、だとそーでもないのに、セイシアンテになった途端の存在感よ…
「まあ、私はこれまで通り、リアと呼ぶがな。」
「私も、そう呼んでほしいな。もし、家族にも隊長にも、ましてや王子にもセイシアンテって呼ばれたら…………、げっ……。」
「リアは愛称、ミドルネームだ。ハルスィーカでは〝他人をミドルネームで呼ぶ〟ことは親愛の証になる。公式の場では必要以外はセイシアンテか、シアと呼ばせなさい。」
「はあい。」
何だか大変なことになってしまった。
名前が変わったってことは……あれ?
「渡航許可って……どうなるの?」
「取り直し、じゃな。」
にっこり笑顔で大おばさまは、言った。
クイズの外れを宣告する悪魔みたいな笑顔だった……。