第1話
新連載始めてみました。
はじめは二日に一回くらいで、あとは週一のペースです。
強い女の子の痛快(?)サクセスストーリーをお楽しみいただけたら幸いですm(__)m
「アレクス、お前は〈西の国〉のハルスィーカ王国に、留学しろ。これは、王命だ。」
エルメリス王国第45代国王、エドアール1世の、その言葉が、全ての始まりだった。
……………と、信じたい。
☆☆☆
このエルメリス王国には、今のところ、三人の王子と二人の王女がいる。
それぞれが違った方面で有名で、国民にも広く知られている。
〝賢き将〟たる第一王子。
〝絵画の天才〟の第三王子。
〝美の女神〟なる第一王女。
〝音楽の精〟なれる第二王女。
え?第二王子は居ねえのかよって?敢えて第二王子を飛ばしているに決まってるでしょう。認めたくないとかそんなんじゃないから。
まあ、その第二王子だが。唯一の残念な二つ名の持ち主なのだ。
〝女誑しの落ちこぼれ王子〟
………事実である。良い得て妙だと思う。
無駄に完璧な容姿だけが取り柄で、数多の女を引っ掻けてきた。
かといって、女付き合いが良いわけでもなく、手酷くフラれた女は後を絶たない。
頭が特別よいわけでも、芸術的センスに恵まれたわけでもない。
むしろ、勉強はダメダメ。基礎の基礎は良くても、発展的なモノとなれば直ぐに拒絶反応を示す。数学なんてもってのほか。数字アレルギーを発症する。
絵を描けば、肖像画や風景画は少しも実物と似ない。じゃあ抽象画でも、と言っても、描きたいものがないのなんのと、描きたがらない。
楽器を持たせれば、楽器を壊すか弾けても音程はメチャクチャ。歌も、ダメ。音痴もここまで極めると笑えない。
運動も向かない。呆れるほど運動神経がなく、体力も無い。ダンスは仕方なく踊れるようにしたらしい。が、剣術は剣を振る力もなく、体術では体を少し捻られると悲鳴をあげ、もうやらないと言う。走るのも究極遅い。
分かっていただけただろうか。
これは、誇張ではなく本当のことである。
第二王子付き近衛隊副隊長の私が言うんだから間違いはない。
そう、その第二王子付き近衛隊も、主たる第二王子と同じく、落ちこぼれなのである。
いや、それよりひどい。
門限破りは日常茶飯事、規則はそっちのけで制服を改変し、賭け事をし、度々女を連れ込み、王宮でも乱闘騒ぎを起こし、命令はロクに聞かない…………
うん、これも真実だ。
落ちこぼれなんて優しい方で、むしろ〝問題児集団〟だ。
現に、〝王宮の恥さらし〟とか、〝汚点〟とか言われているようだ。町で第二王子付き近衛隊の噂を聞けば、十割は悪口に悪評が返ってくる。懸けても良い。
………で、私、リアナカリエ・アランシアは、腐ってもアランシア侯爵令嬢ながら、第二王子付き近衛隊副隊長を勤めているのである。
☆☆☆
「副隊長!」
「あ?」
第一王子の立太子式典で、唐突に発表された、〝落ちこぼれ王子と近衛隊〟の留学。
発表から二週間たったいま、私は超超超超超忙しかった。
理由は明白。
頼りにならないどころか進んで落ちこぼれになる隊長は、留学云々の手続きや準備を、しようともしないからだ。
「(ひ、ひっ……副隊長怖え…)…殿下がお呼びで、す……」
「は?ああ。」
ふざけんなよこんな忙しいときに!と言うのが本心だ。
イラついて、足で廊下にしかれた高級な絨毯に八つ当たりしながら、王子の私室に向かう。
「なんか用なんですか?私忙しいんですよ、とっても。どうせまた、女絡み なん……え?!」
ぶつくさ扉を開けると、
「なんで兄さまと、レオ?!兄さまは良いとしてレオはなんで?王女様どうしちゃったのよ。」
兄さまは次期侯爵だ。先の立太子式典に来ていて、ついででもおかしくはない。
けど、弟はなんでだ?!
あいつ、羨ましいことに、美の女神たる第一王女ミルゼ様に好かれてるはずだ。だからミルゼ様の近衛隊に配されたし、ミルゼ様が片時も側から離さないことで有名のはずなんだけど…
「よく逃げてこれたね?!あの王女、普通は五メートル離れれば奇声を…じゃねえわ、絶叫しながらあんたに迫っ…追い縋ってくるじゃない!」
「お前なあ………、王子、居るんだぞ。」
「居たの?てか、私を呼びつけたのってこれ?」
「ああ。」
「別れの挨拶くらいさせろよ。リア姉。」
別れの挨拶ね、はいはい…………ん?
別れ?
「なんで別れんの?私、ハルスィーカに王子届けて戻るだけだけど。」
「まさか第二王子付き近衛隊が、王子居ないのに、王宮勤務出来るとでも?」
「……………あ。」
冷や汗がダラダラ流れる。
落ちこぼれと名高い近衛隊を誰が雇うものか。
肝心の主無しのダメダメ近衛隊は、王宮でもやることはないだろう。
「…う、」
「う?」
「…ぅわあああああああああああああああああああああああああああん!」
折角、せーっかく、頑張って、隊員の渡航許可を全員分取り付けたのに!
今度は辞表を出させなきゃいけないなんて!勿論、私も書くけど。
「そんな、馬鹿な…」
「…なあ、リア姉?それってさ…」
「辞表よ!何か!?」
筆記用具と紙は常備してるんだよね。
いつも「何かの時のために」って持ってたけど、まさか辞表書くためになんて思いもしなかったよ。
「なんで辞表?」
「へ?兄さま、そりゃあ、王子を向こうに届けたらあとは私達、用無しでしょ?」
「お前、俺の護衛はどうなる?」
「…しないといけないの?」
一応、エルメリスの第二王子だもん、ハルスィーカなら護衛くらい向こうでつけてくれるでしょ?
出る幕無いじゃん。違うの?
「しないといけないもなにも、お前らだって留学だ。分かってるのか?」
「そうなの?」
「〝落ちこぼれ王子と近衛隊〟の留学だ。近衛隊も留学生になっているはずだよ。」
「兄さま…、道理で……、外務大臣に旅券は良いのかと聞かれた訳だ……。」
私が発狂しながら、渡航許可を外務大臣に取り付けにいったとき、言われたんだよね。
『旅券と駐在の届出はよいのか?』
って。
旅券は、(私の中での)予定としてはハルスィーカ国内には入る気がなかったし、駐在?は?王子のですよね?だったので変だなとは思ったけど…
「………話を戻すと、リア、制服は余分に作ってる……訳がないか。」
「いつも替えの二、三着くらいあるけど。」
「留学なんだよ、リア。もっと作っておかないと。ハルスィーカにはここと同じ洋服屋は無いんだよ。普段着も足りないだろうね。」
「普段着なんかどーでも良いよ、私、ずっと新しい剣が欲しかったのに、給料は上がらないしさ。だからそっちにお金、回してよ。」
この間、城下でちょうど、すごく良い剣見つけたんだから!
「…給料?お前、侯爵令嬢じゃないのか。」
「何でも実家に頼れば良いってワケじゃないんですー!実家が王家、って言うどら息子さんとは違うんですよっ!」
「はぁ?!油断させておけばいいようにこき下ろしやがって!それでもお前は貴族令嬢か!」
「将来は兄さまが家を継ぐんだし、私は将来的に平民ですよー、っだ!」
「まあまあ、リア。」
「リア姉。」
ふん!
どーせ十歳も年下のガキと言い争ってる(嫁に)行き遅れの落ちこぼれ近衛隊副隊長ですよっ!
鼻息も荒く、近くの椅子に座り込む。
まあこの椅子だって、無駄な出費だ。これを使うのが王族のかの優秀な方と思えばよろしいが、実際は…
「お前、失礼なことを考えていただろう!」
「だまらっしゃい。後生のくせに。」
「あー、ほらほら、アレクス殿下も!直ぐ喧嘩勃発なんですから……」
やーい怒られてやんの、ざまあ。
「………で、兄さまとレオ、他には?」
「そうそう、勿論、出来るだけ国内で服は作ってもらいたいんだけどね、留学中に必要なときもあるだろう?で、これ。」
「…………あら。」
で、出たー!
久しぶりだ、これ見んの。白くて分厚くて羊皮紙で出来てて、家紋ろ蝋で封してあるヤツ。
「……なに?お母さまから?」
「紹介状だ。リア、お前の日常品その他全ては、ハルスィーカ王家御用達の店だけで揃えるように。十分なはずだよ。その紹介状を出せば、たとい王家御用達の店にお前がみすぼらしい格好で入ろうと、店は信用してくれるだろう。」
「………………代金は?」
「請求はこっちに来るよ。それも、紹介状をハルスィーカ王家御用達の店に出した場合のみだけれど。」
「ふーん…………。」
やあね、何か変に分厚いし、紹介状だけじゃない気もするけど。封筒の中身。
「てか、まさか、兄さまとレオ、この為だけに此処に来たんじゃないでしょうね?」
「勿論。『リアン大おばさまに会っておきなさい。』って、母さんが。」
「ハルスィーカについて知っているそうだよ。聞いておいたら良いかもしれないね。」
「そうなんだ。後で行く。」
リアン大おばさま、と言ったが、彼女は別に私の大おばさまではない。
エルメリス王国の〈星騎士〉と言われる人でもなく星霊でもない存在、単純に言えば超人だ。
この世を創りたまいし〈星霊王〉に仕えている。実際の二人は親友といった感じだが。
さらにこの人、現エルメリス王家の先祖だ。第39代国王の王妃だったらしい。肖像画もある。
第39代国王テオドルシールの即位前にあった、反乱軍を滅した功績もある。
そして、その当時と今と、見た目はほとんど変わらない。寿命は五百年だそうで。
今更だが正式名はリアナカリエ・ギュート・アランシア・エルメリス…とか言う長ったらしい名前だ。
私の名前とおんなじなのは偶然だ。きっと。
私が彼女と同じく騎士になっているのも偶然だ。たぶん。
…………ただ、悲しいかな、顔はリアン大おばさまほど良くない。似てないし。髪色も目の色も同じなのにね。
「これで私達から伝えることは以上だ。気を付けて留学、行ってこいよ。」
「リア姉、普段着はちゃんと女物で作れよな。」
「一言多いわ!……ま、でもありがと。兄さまとレオに揃って会えるのなんて、もう当分無いと思ってたし。」
部下達が問題を起こしすぎるせいで、最近は休みもなく彼らの後処理…始末に追われてたから。
「ふん、お前も感謝くらいするんだな。」
「あんた人を何様だと…?!私だって人なんだからね。もう良いわよね、私、リアン大おばさまんとこ行ってくる。」
兄弟感動の別れ、かと思えばあのボンクラ王子に横槍を入れられた。
樫の木で出来た扉を蹴って開けて、私は王宮の北の塔を目指す。
リアン大おばさまはそこに住んでるから。ここ二百年は住んでると本人が言ってた。