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月見が丘小学校 1年1組は妖怪教室  作者: 梨香


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43/50

43  犬を連れた少年と珠子ちゃん

 大阪のど真ん中にある月見が丘小学校には、少し訳ありの生徒も通っている。1年生の間に、1組に集められた訳ありの生徒達は、人間社会で生活する方法を各自の事情に合わせて学んだ。


 河童の九助くんなどは、プールの時間にクラスメイトの足を引っ張ってしまい緊急保護者会が開かれるような大騒動をおこした。しかし、他のクラスメイトもそれぞれ大きい小さいはあるが、1年生の間は何らかの失敗をしたのだ。


 1年1組の級長だった猫娘の珠子ちゃんは、2年2組になっても級長に選ばれた。ハキハキした物言いと、キュッと目尻があがったキュートな珠子ちゃんは勉強も良くできるし、誰が見ても級長になるのが当然に思える。


「2組の級長は自信ないわ……」


 2組の3分の2は人間の子どもなのだ。珠子ちゃんは、妖怪のクラスメイトには少々キツイ言葉を使っても平気だったが、人間の子どもとは遊んだこともないので戸惑っている。


「珠子ちゃんなら大丈夫や! 私らも手伝うし」


 色白で真っ直ぐな黒髪が美しい小雪ちゃんは、2組になってもアイドルだ。雪女なので夏には弱いが、冬には強い。


「おおきに! 私はがさつやから、気ぃつかへんところは、小雪ちゃんに頼んどくわ」


 月見が丘小学校に通う生徒達は、1年1組が妖怪学級であることは知っているし、珠子ちゃんが猫娘なのも何となく感じている。


 何故なら、珠子ちゃんの運動神経は人間離れしているからだ。ドッジボールなんて、絶対に当たらない! ひらり、ひらりと身をかわす。


「珠子ちゃんって、将来はオリンピック選手になれるんちゃう?」


 体育の時間にクラスメイトは噂する。何の種目なら金メダルを取れるか? なんて先の事まで話す。初めは、妖怪と同じ学級で勉強するのを戸惑っていた人間の生徒達も、珠子ちゃんには従う。



 珠子ちゃんは、面倒見も良いし、運動神経も良いし、勉強もできるし、スーパー級長なのだ。しかし、やはり猫娘には苦手な物もある。


『犬や!』


 学校の帰り道、大きな黒い犬に出くわした。髪の毛がバサァと逆立つ。思わずブロック塀に飛び上がる。


「えっ! 凄いジャンプ力だねぇ!」


 珠子ちゃんは犬しか目に入って無かったが、散歩をさせている男の子が驚いて声をかける。


「あんたの犬なん? 私は犬はかなわんねん!」


 ブロック塀の上で、ちょこんと座ってる女の子がクロを恐がっているのだと気づいた。男の子はリードを引っ張って、興味深々で見上げている犬を退かせる。


「ごめん! でも、クロは大人しい犬なのに……」


 大人しかろうが、犬を見ているだけで毛が逆立つ。


「ええから! あっちに行って!」


 シャー! と叫びそうになりながら、珠子ちゃんは頼む。


 男の子は、そんなに恐がらなくてもと思ったが、いつまでもブロック塀に女の子を居させられないので、クロと散歩を続ける。


 珠子ちゃんは、男の子と犬が角を曲がったのを確認してから、音も立てずに道に降りる。


「かなわんわ……どこの子やろ? 家の近所に引っ越して来たんかなぁ? お母ちゃんに聞いてみよう!」


 珠子ちゃんのお母ちゃんは、大阪のど真ん中に大きな蔵を持つどでかい屋敷に住めるほどの遣り手だ。元々は大阪一の米商家で蔵を護る猫として飼われていたが、百歳を越えたあたりから猫娘になった。


 情報を仕入れるのが得意で、株で儲けている。その上、月見が丘小学校のPTA会長もしているし、近所のことは何でも知っている。


「お母ちゃん、ただいま~」


 珠子ちゃんは、お母ちゃんが座ってる長火鉢の前に行く。猫娘と呼ぶには年をとった猫おばさんは、春になっても長火鉢でお茶を湧かして、猫舌なので冷まして飲んでいる。


「珠子? あんた犬臭いで!」


 珠子ちゃんも、自分の服をくんくんして、鼻にシワをよせた。猫娘は人間より嗅覚が鋭いのだ。


「ほんまや! お風呂にはいらんとあかんわ!」


 猫娘だけど、女の子なので風呂は毎日入る。それに、温かいのは大好きだ。




「なぁ、お母ちゃん? 近所に大きな黒い犬を飼ってる家あったかなぁ? 男の子が散歩をさせてたねん」


 珠子ちゃんは、その男の子は可愛らしい顔をしていたから、犬を連れていなかったら遊んでもええなぁと思って尋ねる。


「大きな黒い犬! ああ、あんたの友だちの小雪ちゃんの近所にに引っ越して来た獣医さんの犬やな! 獣医さんやからといって、犬を飼わんでもええのになぁ」


 ふうん……と髪の毛を乾かしながら、さほど興味が無さそうに聞いているが、耳がピンと立っている。


「小雪ちゃん家に行ってくるわ! 今日はぬくいから、かき氷を食べたくなってん」


 おやおやと、お母ちゃんは珠子ちゃんが口にしなかった事を見抜いて溜め息をついた。あの男の子は、ちょっとややこしいのだ。

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