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月見が丘小学校 1年1組は妖怪教室  作者: 梨香


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26  遅れた勉強を頑張りましょう!

 二学期の大イベントである運動会が終わると、練習で遅れた学習を進めなくてはいけない。


 鈴子先生は、1年生でこれほど学ばなくてはいけないのかと溜め息をつく。2組と3組のベテラン先生も、ビシバシ指導していかなくてはと、気を引き締めている。


「鈴子先生、二学期の期末には保護者懇談もあるさかいに、十二月の始めまでにはテストを終えてないと、成績表がつけられへんからね」


 一学期は、九助くんのプール事件で、何度も保護者会が開かれる緊急事態で、期末の個人懇談は無かったのだ。進度が遅れがちな1組を、ベテラン先生達は心配する。


「土曜も半日授業したいぐらいですわ」


 独身の鈴子先生は、週休二日制が恨めしく思うが、ベテラン先生達にはそれぞれ家庭もある。土日は、家事に忙がしいのだ。


「土日に、授業の下準備を丹念にしておくと、さくさく進みますよ」


 鈴子先生は、素直に頷いたが、もうそのくらいはしているのだ。しかし、近頃は首斬り男の気配を身近に感じて、授業の準備をしていても気が散ることがある。



「ところで、社会見学の件やけど、お菓子工場はどう? 1年生でも興味を持ちやすいし、お土産もくれるから」


 2組と3組の先生が、さくさくと工場への見学の申込や、バスの手配をしていくのを、鈴子先生は唖然として眺めていた。


「すみません、何もかもして頂いて」


 ベテラン先生達は、けたけたと笑う。


「私達も新米の頃はあったんよ。その時は、何もできへんかったわ。来年には、鈴子先生も社会見学の手配なんか目を瞑ってもできるようになるわ」


「そや、そんなことは気にせんでええねん。1年1組は、普通のクラスの数倍手間がかかるから、私らでできることはサポートさせて貰うわ」


 二人に励まして貰い、鈴子先生は頑張ろう! と張りきる。



「二学期は、真面目に勉強をする良い機会です!」


 朝の会からテンションの高い鈴子先生に、1組の生徒達は驚く。運動会が終わってから、少しだらけていたムードがピシッと引き締まった。廊下で聞いていた田畑校長は、鈴子先生らしくないなと首を捻る。


「何だか、無理しているような……ペホン!」


 言葉だけをとったら、ごく普通だし、新米の先生が張り切って勉強を教えようとしている風に見えるが、長年、大勢の先生を見てきたぽんぽこ狸の勘が、ピクンと動く。腹鼓も湿気た音しかでないと、お腹を擦りながら校長室へ帰った。


「今日は、ここまでにします。次の頁を読んで来て下さいね。これから配るプリントも宿題です」


 ひぇぇ~と悲鳴があがる。国語だけでなく、算数も、生活科も宿題が出ているのだ。


「運動会も終わったのです。真面目に勉強しましょう!」


 優しい鈴子先生に厳しく言われて、1組の生徒達は黙る。

 


 帰り道、小雪ちゃんと緑ちゃんは、近頃鈴子先生がきびしいなぁと愚痴る。


「それは仕方ないわ! 2組や3組と同じように勉強しないと、2年生になった時に私らが困るから、厳しくしてはるんや」


 級長の珠子ちゃんに言われたら、その通りなのだと二人は渋々頷く。



 しかし、後ろを歩いていた男の子達は、ぶ~ぶ~文句を大声で言う。


「土日でもないのに、こんなにいっぱい宿題なんてしたくない! 俺はせぇへんで!」


 同じ商店街で漬け物屋さんをしている河童の九助くんが、商店街を回り道して学校に近い神社まで帰るゴンギツネの銀次郎くんと話している。


「俺は、次男やから、神主にならんでええんや。だから、勉強もせぇへんで!」


 珠子ちゃんは、神主にならんのなら、余計に勉強して手に職をつけんといけないのではと溜め息をつく。


「俺も将来はお父ちゃんと一緒の大工になるねん! せやから、勉強なんかせんでもええんや」


 珠子ちゃんの我慢の緒が切れた。元々、猫系の女の妖怪の我慢の緒は丈夫ではない。日頃、鈴子先生が夜の遅くまで、次の日の授業の準備をしているのを知っているので、身勝手なことを言う男の子達に腹を立てる。


「アホなこと言わんとき!」


 振り向いて、男の子達を怒鳴りつける。


「なんやねん、珠子ちゃんには関係ないわ!」


 男の子と珠子ちゃんが一触即発になった時、天の邪鬼の良くんが通りかかった。良くんも宿題なんてしたくないが、忠吉くん達がしないと断言していると、天の邪鬼の血が騒ぐ。


「忠吉くん、銀次郎くん、九助くんは、宿題なんてしなくて良いよ。バカなままでいたらええんや。僕は宿題して、賢くなって、ばんばん稼ぐんや。それで、綺麗な女の人にモテモテになるで!」


 その前に天の邪鬼な性格をなおさなきゃ、モテモテにはならないだろうと女の子達は思ったが、単純な男の子は「ほんまや! 賢くないとモテへんわ」と騒いでる。


「でも、こんなに宿題するの面倒やなぁ。なぁ、良くん教えてぇや!」


 天の邪鬼だけど賢い良くんに、忠吉くんは頼むが、素直に頷くわけがない。珠子ちゃんは、自由研究発表会の「天の邪鬼の操作方法」を思い出した。


「忠吉くん、そんな天の邪鬼に教えて貰ったら、全問不正解になるで! 私たちと一緒に勉強せぇへん?」


 忠吉くんは天敵の猫娘の珠子ちゃんに惚れているし、九助くんは小雪ちゃんが大好きだし、銀次郎くんは緑ちゃんに片想い中だ。三人にとっては、とても嬉しいお誘いに、浮き浮きとする。


「あかんで! 僕に教えてくれと言ったやん! さぁ、ランドセルを置いたら、僕の家に宿題を持って集合や」


 天の邪鬼の良くんに命令されて、忠吉くんや九助くんや銀次郎くんは、渋々ランドセルを家に置きに急いだ。天の邪鬼だけに、怒らせると、どんな意地悪をするかわからないので、男の子達は逆らわないようにしている。


「じゃあ、僕も良くんの家で宿題をしよう!」


 いつからそこに居たんだ? と、全員が詫助くんの一声で驚いた。良くんは、座敷わらしの孫の詫助くんが実は苦手だ。しかし、苦手だからこそ「ええで!」と答えてしまう。



「珠子ちゃん、私らも一緒に勉強せぇへん? っていうか、うちの家で教えて欲しいんや」


 二学期になって、学習進度が速くなり、緑ちゃんも小雪ちゃんも、混乱してきていたのだ。


 珠子ちゃんは「ええよ」と速答する。うるさい男の子と宿題するのは御免だったので、良くんに押しつけたが、仲の良い女の子と一緒に宿題をするのは大歓迎だ。何故なら、今は家に居たくないからだ。


「もしかして、お父ちゃん、また?」


 小雪ちゃんのお父ちゃんも、時々雪男の血が騒ぐのか、山岳写真家の情熱が燃えるのか、ふらりと出ていってしまうことがあるのだ。夏場はかき氷も忙しいので家にいたが、寒くなって行列が無くなると危ない。


「そやねん! お母ちゃんのご機嫌ななめやねん。もう、諦めたらええのになぁ」


 二人は、深い溜め息をついたが、緑ちゃんの家で、楽しく宿題を済ませて、わいわいと楽しい時間を過ごした。


 しかし、この宿題会が新たな問題を引き起こすとは、この時の珠子ちゃん達は考えてもなかった。

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