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月見が丘小学校 1年1組は妖怪教室  作者: 梨香


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25/50

25  紅組、頑張れ!

 急いでお弁当を食べた鈴子先生は、あたりを見渡して驚く。


「かなり、大勢の人が集まるのですね」


 卒業生達も、下の兄弟達と一緒にお弁当を食べたりしている姿が目についた。それだけでなく、地域の人々も招待されている。


「まぁなぁ、月見が丘小学校は色々と地域の協力が必要やからねぇ。だから、ビールぐらいは、仕方ないんよ」


 来賓のテントでも、お弁当と共に缶ビールが配られているのに鈴子先生は驚く。流石に、教師はアルコールは飲んでいない。当たり前の事だが、何でもありの雰囲気だったので、鈴子先生は少しホッとした。


「あっ、卒業生と挨拶してくるわ!」


 ベテラン先生達が、自分の教え子達とにこやかに話している姿を見て、鈴子先生もいつの日か1年1組の皆とこうして会ったりするのだろうかと微笑む。




 午後からは、中高学年の出し物が続き、見ごたえもある。鈴子先生は、簡単なダンスすらばらばらだったので、見事に揃ったダンスに圧倒されて拍手する。


「次は保護者の皆様による綱引きです。加点競技ですので、皆様ふるって参加して下さい」


 ビールを飲んでいた保護者達も、わらわらと入場門に集まっていく。鈴子先生は、怪我などなければ、良いけれどとひやひやして眺める。


「うわぁ~!」と、だいだらぼっちの参加に、赤組からは嬉しい歓声が、そして白組からは負けが決まった悲鳴があがる。しかし、白組にも岩男がのそりと参加してきて、これなら良い勝負になりそうだと盛り上がる。


 1年1組の子ども達は「赤組がんばれ!」と大声で声援している。あまりに真剣に応援しすぎて、耳を出したり、尻尾を出したりしている子もいる。鈴子先生は、そっとその子達に注意をして回る。

 

 いつも、気をつけてくれる珠子ちゃんは、久しぶりに帰って来たお父ちゃんの応援で必死なのだ。


「お父ちゃん! がんばれ!」


 どちらかというとスマートな猫男は、さほど力が強そうには見えない。しかし、そこは妖怪なので、人間とは比べ物にならない。グッと力こぶを珠子ちゃんに見せて「まかせとけ!」と笑う。猫おばさんは、怪我をしなければ良いけどと、ひやひやする。


 ピィィ~! と笛が鳴ると、綱引きが始まった。


「そお~れ!」との掛け声で、綱が引っ張られる。岩男とだいだらぼっちは、それぞれの綱の一番後ろで踏ん張っている。少しずつ、縄の中心に結ばれた紅白のリボンが赤組の陣地に引き込まれる。


「やったぁ! 赤組の勝ちや!」


 子ども達は、喜んで飛び上がる。校舎の二階に掛けてある紅白の得点表に20点加点される。



「でも、まだ白組に負けてる」


 珠子ちゃん達は、運動会のプログラムを見て、加点競技があと何個あるのか調べる。


「1年の大玉転がし、3年、4年のかけっこ、保護者のスプーン競走、5年と6年の騎馬戦、紅白リレー!」


 それを聞いて、男の子達も張り切る。


「まだまだ逆転できる! 大玉転がし、がんばろう!」


 一年生は、紅白リレーの選手以外は最後の演目だ。鈴子先生も「頑張りましょう!」と声をかける。低学年の出し物に、保護者達も盛大な拍手をする。


「がんばろうな!」


 先頭の小雪ちゃんは、2組の男の子に笑いながら声をかける。胸がキュンとした男の子は、真っ赤になって大玉を張り切ってバ~ンと突きすぎた。


 コロコロと保護者席にまで転がっていく。小雪ちゃんと男の子はコースアウトした大玉を追いかけて時間をロスしてしまった。


「ごめん!」謝る男の子と小雪ちゃんを、他のメンバーは「すぐに追いつく」「俺にまかせとけ!」と励ます。


「あっ! 白組もコースアウトや!」


 勝っていた白組も、校長先生がいる本部テントへ大玉を転がしている。その間に赤組は、次の子達へとタッチしていく。


 最後は、だいだらぼっちの大介くんと塗り壁の孫の堅固くんのペアだ。


「一気に行くで!」接戦になっていたが、大人と子どもの勝負みたいになった。白組の3組の担任は「あ~あ」と頭を抱えた。



「やったぁ!」白組に追いついたと喜んだのもつかの間、3年、4年のかけっこでは白組が優勢で、またリードされる。


「次は保護者のスプーン競走です。皆さん、ふるってご参加下さい」


 前の綱引きはお父さんが中心に参加していたが、今度のスプーン競争にはお母さんが大勢参加する。


「あっ、うちのお母ちゃんも参加している!」


 1年1組のお母ちゃん達は、珠子ちゃんのお母ちゃんに誘われて、ぞくぞくと入場門へと集まった。


 天の邪鬼の血を引くお母ちゃんも、今回は屁理屈を捏ねないで、すんなりと参加している。弁護士をしていて、日頃は家事をする暇もないので、息子の良に格好良いところを見せてやりたくなったのだ。


「がんばって!」と子ども達からの声援を受けて、保護者達はスプーン競走に挑む。しかし、スプーンの上のピンポン玉は、早く走るとコロコロと落ちてしまう。この勝負は白組が勝った。



「騎馬戦って、格好良いなぁ! 俺たちも早くしたいなぁ!」


 高学年の騎馬戦を、男の子達は憧れの目で見る。女の子達は「そこ! あっ、取られた!」とか、一喜一憂して観戦する。ドキドキの結果は赤組の勝ち!


「こうなったら、決着は紅白リレーやな! 珠子ちゃん、頑張って!」


 1年1組からは2人の選手が選ばれた。猫娘の珠子ちゃん、狼少年の謙一くんだ。2組、3組からも2人の選手が、クラスの応援を受けながら入場門へと急ぐ。


「これで勝負が決まるから、頑張ろう!」


 6年生に声を掛けられて、珠子ちゃんと謙一くんは「はい!」と元気よく答える。


 スタートは、1年1組の二人がいる赤組が圧倒的に速かったが、途中で追い付かれる。


「赤組、がんばれ!」


 全校生徒が、声援を送る。6年生のアンカーは、韋駄天とからす天狗の一騎打ちになった。


「オリンピックより見応えあるなぁ!」


 アンカーはトラック一周だ。保護者達もやんやと喝采をあげる。


「やったぁ! 赤組の勝ちや!」


 やはり走るのは韋駄天のものだ。からす天狗は、飛べなかったのが悔しい。



 プログラムの最後を飾るのは、6年生の団体行動だ。一糸乱れぬ行進と、交差に、全員から割れんばかりの拍手が起こった。


「さぁ、皆さん! 閉会式の行進ですよ。今回は親御さん達に手を振っても良いです」


 入場行進の時は、真っ直ぐ前を向いて歩きましょうと厳しく指導していたが、今回はのんびりムードだ。


 何人かかけっこで転んで、膝や手を擦りむいた子がいたが、貝塚先生は骨折とか無くて良かったとホッとしながら、閉会式を眺める。


「保護者の捻挫が一番の大怪我やったなぁ。やはり、アルコールは禁止した方がええんでは?」


 保健室から提案してみようかと貝塚先生は考えたが、楽しそうに帰り支度をしている保護者を見ると「まぁ良いか」と微笑む。



 閉会式では、赤組の代表に優勝旗が渡された。


「やったぁ!」と1年1組の全員が飛び上がる。しかし、白組も準優勝旗を貰い「頑張ったなぁ!」と喜んでいる。


 生徒達は椅子を教室に運び、運動会のご褒美の自由張を一冊ずつ貰うと、一緒に帰ろうと待っている保護者の元へと駆け出した。


「なんとか無事に終わりましたなぁ」2組と3組のベテラン先生と鈴子先生は、ホッと溜め息をついたが、これからPTAと共に運動会の片付けがあるのだ。


「小学校の先生って大変なんですね」


 色白の鈴子先生は、真っ赤に日焼けした顔で一言呟いた。


「ほんまに大変やで! でも、子ども達の笑顔を見ると、明日も頑張ろう! って元気が湧いてくるんや」


 鈴子先生は、今日一日の子ども達の頑張っていた姿を思い出して、涙をポロポロと溢した。その途端、ゾクッと首斬り男の気配を感じる。慌てて涙を拭くと、鈴子先生は地面に落ちた万国旗を拾ってたたんでいった。

 

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