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月見が丘小学校 1年1組は妖怪教室  作者: 梨香


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18/50

18  盆踊り大会は妖怪大集合!

「ねぇ、にあってる?」


 雪女の小雪ちゃんは白地に青い朝顔柄の浴衣をお母ちゃんに着せて貰って、お父ちゃんの前でクルリと回って見せる。


「めちゃくちゃ可愛いで!」


 雪男のお父ちゃんは、小雪ちゃんを軽々と抱き上げて、頬づりする。


「お母ちゃんらは、盆踊り大会の会場でかき氷を売ってるから、気分が悪くなったらすぐに来るんやで」


 霙屋は、町内会に頼まれて、盆踊り大会でかき氷を売ることになったのだ。他にも町内会は、居酒屋さんにおでんの屋台、焼き鳥の屋台なども頼んでいた。それだけでなく、役員さん達は、スーパーボールすくい、ヨーヨーすくい、輪なげ、綿あめ売り、ラムネ売りなどもする。


「友だちにかき氷をあげるから、踊りで喉がかわいたら連れておいで」


 日頃、暑くて気分が悪くなったりした時に、保健室へ連れて行って貰ったりしているので、小雪ちゃんは喜んだ。


「珠子ちゃんと、緑ちゃんと、豆花ちゃんを連れて行くわ!」


 お父ちゃんとお母ちゃんは、かき氷の屋台の準備で早目に行くが、小雪ちゃんは緑ちゃんと豆花ちゃんと珠子ちゃんのお母ちゃん達と一緒に連れていって貰った。


「緑ちゃんの浴衣、可愛いなぁ」


 薄いピンク地に白や黄色の花がついた浴衣は、お洒落な緑ちゃんによく似合っている。その上、髪もアップしているので、豆花ちゃんは、少し眩しく感じる。


「その髪は、お母ちゃんに結って貰ったん?」


 珠子ちゃんは紺地に花火がついた元気が良さそうな浴衣だ。


「ノノコちゃんの美容院でしてもろうたんよ」


 同じクラスの髪切り婆の血を引くノノコちゃんのお母ちゃんは、『ムーンライト美容院』をしている。


「わぁ、よう髪を切られんかったなぁ」


 珠子ちゃんは、驚いた。腕は良いのだが、時々髪切り婆の血が騒ぎ、ベリーショートにしてしまうのが玉の傷だ。珠子ちゃんも前にパツンパツンにカットされたことがあった。それは、それで似合っていたので珠子ちゃんは平気だったが、お洒落な緑ちゃんなら泣いていただろう。


「絶対にハサミに触らへんと約束して貰ったんや。セットだけ!」


 豆花ちゃんは、そんな強気なことを言える緑ちゃんが羨ましい。同じ妖怪のよしみでムーンライト美容院に通っているのだが、いつもショートヘアーにされてしまう。まるで小豆みたいだと、お母ちゃんが選んだ小豆色の浴衣と丸い頭が恨めしい。


「緑ちゃんは美人だから、強気なことを言えるんや。私なんか、いつも短く切られてしまう」


 愚図りだした豆花ちゃんに、珠子ちゃんと緑ちゃんは困った顔をする。珠子ちゃんみたいに、どちらだっていいなら、美容師さんにお任せしたら良いのだし、緑ちゃんみたいに髪の毛を伸ばしたいなら、そうはっきりと言えば良いだけなのだ。いくら髪切り婆の娘でも、お客さんが嫌がることはしない。それでは商売にならないからだ。


「私もムーンライト美容院に行ってるけど、雪女は髪の毛が長くないと格好がつかんから、毛先しかカットせんといてと言ってるんや。豆花ちゃんも、髪の毛を伸ばしたいと言ったら、きっと大丈夫や!」


 豆花ちゃんは、今月はそう言ってみると頷いたが、毎月行ってたら、髪の毛が伸びる暇が無いのではと、三人は首を傾げた。


 子ども達の後ろから付き添っているお母ちゃん達は、女の子は子どもの頃から大変だと苦笑する。


 何時もは商店街の駐車場が、今夜は盆踊り会場に変身していた。真ん中の櫓には大太鼓や三味線や笛などのお囃子連や、マイクで音頭を歌っている人などでいっぱいだ。


「あっ、あれは大介くんや!」


 どうも櫓が窮屈そうに見えるのは、だいだらぼっちの大介くんが大太鼓を叩いているからだ。緑ちゃんは、大介くんが好きなので見つけるのも早い。大太鼓の前の銀次郎くんなど目に入ってないみたいだ。


「私も三味線を習おうかなぁ」と緑ちゃんは、一緒に練習できたら良いなと妄想を膨らませる。


「あっ、あそこに皆いてるわ! 一緒に踊ろう!」


 級長の珠子ちゃんは、クラスメイトを見つけるのも早い。はしゃいでいる九助くん達を見つけて合流する。


 付き添いの保護者は、踊っている人もいたが、会場に置いてある長椅子に座って、子ども達の躍りを見物していた。


「おやまぁ、銀次郎くんも踊りだしたわ。忠吉くんときたら、あんなに飛び跳ねて疲れないのかしら?」


 珠子ちゃんのお母ちゃんは、自分の子どもだけでなく、月見が丘小学校の生徒全員、そして卒業生にも目を光らせている。中学生や高校生になると、こそっとビールや酎ハイなどを飲む子も出てくるので、注意が必要なのだ。


 子ども向きの曲が終わったので、珠子ちゃん達は一旦はお母ちゃん達の席に向かった。色々な屋台で、食べ物を買ったり、ゲームがしたくなったのだ。


「お母ちゃんが、かき氷を食べに来てと言うてたよ!」


 小雪ちゃんに誘われて、かき氷を御馳走になった。小雪ちゃんは、忙しそうなお母ちゃんとお父ちゃんを手伝うことにして、その場に残る。


「小雪、そんなんええんやで」とお母ちゃんは、せっかく友だちと盆踊りに来ているのにと心配したが、盆踊りはもう飽きたと笑う。


 確かに、小学生達はちょこっと踊ったら、ゲームや屋台へ向かっている。


「私にはゲームより、かき氷を売ってる方が楽しいんや」


 お父ちゃんとお母ちゃんは、頼もしいなと笑った。


 小雪ちゃんと別れた三人は、輪投げをしにいく。そこには、クラスメイトが騒いでいた。


「絶体に、あのトロフィーを取るで!」


 三羽烏の血を引く旭くんが、腕を羽ばたくように伸ばして輪を一番奥に置いてあるトロフィーに投げようとしていたが、なかなか上手くいかない。


 三羽烏の血のせいか、教室でも黒羽根の孫の隼人くん、青火の孫の克己くんと何時も三人でつるんでいる。どうやら三人でトロフィーを誰が取るか? 勝負しているようだ。


「男の子はアホやなぁ! あんなトロフィーを貰っても、なんにもならんのに」


 珠子ちゃんは可愛い豚さんの貯金箱を一つ目の輪で取り、後の二つは緑ちゃんと豆花ちゃんにあげる。


「なぁ、おじちゃん。口でくわえて投げたらあかん?」


 緑ちゃんは、奥に置いてあるお人形のテーブルセットが欲しくなった。手で投げても無駄なのは、男の子達が失敗しているのでわかっているが、ろくろ首なら届きそうだ。


「緑ちゃん! ここには普通の人間もいるんやで」


 珠子ちゃんが、浴衣の袖を引っ張ってやめさせる。


「そやった!」ペロッと舌を出して、近くの髪飾りを取る。


 豆花ちゃんも、その髪飾りが欲しかったので、少し残念な顔をする。珠子ちゃんは気づいて、輪投げの番をしている町内会のおじちゃんに、よく似た髪飾りを出してもらう。


「珠子ちゃん、ありがとう!」


 近くなので、豆花ちゃんも髪飾りをゲットして喜ぶ。


「自分のしたいことや、欲しい物は、自分で言わなあかんで。小雪ちゃんは、何時もは大人しいけど、自分のしたいことがわかってる」


 お母ちゃんの言うがままに習い事ばかりしている豆花ちゃんは、何もかもパーフェクトで自信がある珠子ちゃんが眩しい。しかし、暑さが苦手な小雪ちゃんが、かき氷を売るのを手伝っているのを見て、自分ももう少し主張すべきことは言おうと思った。


「そやな、ピアノは好きやけど、バレエは苦手やねん。皆、すらっとした子ばかりやもん。習字と英会話は勉強の役に立つけど、バレエは止めさせて貰おう」


 そんなにいっぱい習い事をしていたのかと、珠子ちゃんと緑ちゃんは驚いた。どおりで下校の時に、自分たちと話しながら帰れない筈だ。


 低学年の生徒は、九時になったら保護者と家に帰った。しかし、青年団とかはこれからが本番だと元気いっぱいだ。お子さまが帰ってからの方が親の監視とかも緩くなるのだ。


「まぁ、あの子達は酔っているのでは?」


 校区内の行事のパトロールをしていた鈴子先生は、何人かの青年団が尻尾を出したり、角を出したりしているのに驚く。


「ああ、仮装盆踊りなのですよ。何人かは本性が出てしまってるようですが、仮装と混ざっているから問題にはならないでしょう」


 ぽんぽこ狸の田畑校長は、大太鼓を叩きに櫓へ登りながら、初めての盆踊りに驚いている鈴子先生に説明した。


「本当に、妖怪大集合ですわ……」


 中学生、高校生は、それぞれの学校からの見張りが来ているから、酔っ払ってはいないが、青年団やあろうことか町内会の役員まで酔っ払って、妖怪の本性が露になっている。


「これは……大阪では妖怪はこのように奔放に暮らしているのでござるか?」


 ショックを受けた首斬り男は、馬首や飛び火が舞う盆踊り会場を後にした。泣き女の鈴子先生も小学生が帰ったので、下宿先へと向かったからだ。


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