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月見が丘小学校 1年1組は妖怪教室  作者: 梨香


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15/50

15  それぞれの夏休み

「やっぱり、小雪ちゃんはお迎えに来てもろうたんやなぁ」


 ちびちびコンビの豆花ちゃんが、一緒に帰りたかったなぁと溜め息をつく。いつも、習い事が多い豆花ちゃんは、珠子ちゃん達とのんびりお喋りしながら下校できないのだ。


 真夏の太陽がギラギラしている帰り道で、珠子ちゃんと緑ちゃんは、これでは無理やわと肩を竦める。


「なぁ、こんど霙屋にかき氷食べに行かへん?」


 珠子ちゃんの提案に、緑ちゃんと豆花ちゃんが賛成する。


「霙屋なら、家の近所やから、お母ちゃんも許してくれるわ!」


 小豆洗いの夫婦は、細かい所にも気がつき過ぎるのが欠点だと、お母ちゃんも言っていた。珠子ちゃんは少し過保護過ぎると内心で呆れた。


「小雪ちゃんは、お店の手伝いで、あんまり遊ばれへんみたいやねぇ」


 緑ちゃんは、プールに通ったりもしているが、家が近い小雪ちゃんと遊べないのが不満だ。豆花ちゃんは、夏休みも習い事で忙しそうで、近所に女の子の遊び相手がいないのだ。


「毎日、霙屋の前はえらい行列やもんなぁ~」


 霙屋のかき氷は、ふわぁとしていて美味しいと評判なのだ。それに、シロップや餡子も自家製で、大阪だけでなく、近畿圏内、いや他の地域からでも食べに来る客が店の前に行列を作っている。豆花ちゃんは、少し羨ましく感じる。


「家のお菓子も美味しいのになぁ~霙屋の小豆も家のを使っているんやで……ほんまは餡子を売ったらええんやけど……」


 雪女のお母ちゃんは、かき氷は得意だが、コンロの前に立つのは苦手だ。餡子を仕入れたいと思っていたのだが、橘屋の秘伝の餡子を外に出せないと、頑固な小豆洗いのお父ちゃんに断られた。


 しかし、それが幸いした。和菓子の甘い餡子より、橘屋の上等な小豆をあっさりと炊いた餡子の方が霙屋のかき氷にはピッタリだったのだ。


「ほな、豆花ちゃんの都合がええ日に行こうな!」


 招き猫おばさんの宝くじ売り場の前で、珠子ちゃんは別の道に別れる。豆花ちゃんと緑ちゃんは、お互いの都合の良い日を話し合いながら家に帰った。女の子達は、宿題、家の手伝い、習い事、プール通いと充実した夏休みをおくっている。




 しかし、ここに厄介事を巻き起こしそうな男の子がいた。


 1年1組には、だいだらぼっちの大介くんや河童の九助くんなど、両親とも妖怪の子ども達とはちがい、半分妖怪とか、祖父母が妖怪の子ども達もいる。そんな子ども達は、妖怪の両親を持つ子ども達より問題を起こすことは少ないのだが、約一名問題児がいた。


「良ちゃんは、夏休みにお祖父ちゃん家に行くの?」


 天の邪鬼のお祖父ちゃん家になんか行きたく無いのだが、ねずみ男の忠吉くんに、何故か心にも無い返事を良くんはする。


「そやで! 今から楽しみなんやねん」


 忠吉くんは、大阪に居着いたねずみ系の妖怪なので、田舎のお祖父ちゃん家など無いのだ。


「良いなぁ! 羨ましいなぁ!」


 天の邪鬼の血が、大嫌いなお祖父ちゃんの事を褒めたくなる。良くんは、どれほど田舎が楽しいか、都会育ちの忠吉くんに自慢する。


「そや! 忠吉くんも一緒にお祖父ちゃんの家に行こう!」


「えっ! ええの?」チュウと飛び上がる忠吉くんを、後ろからついてきていた座敷わらしの血を引く詫助くんが心配そうに眺める。


 1年1組でも、詫助くんがいるのを忘れがちになるほど存在感が薄いが、座敷わらしの血を引いているからか、クラス全員がにこにこ笑って過ごせれば良いなと心から願っている。


『良くんは、悪い子じゃないけど……時々、反対の事を言うもんなぁ。良くんのお祖父ちゃんって、天の邪鬼かぁ。ねずみ男の忠吉くんなんかが遊びに行ったら、きっと酷い目にあうんやないかなぁ』


「ねぇ、僕も一緒に行ってもええ?」


 良くんと忠吉くんが、お祖父ちゃん家に行く相談をしていると、後ろから声がかかって、チュウ! と驚いて飛び上がる。


「わぁ! なんや、詫助くんかぁ! いや、後ろに居たのは、知ってたで!」などと虚勢を張るが、ドキドキしている。座敷わらしと天の邪鬼は相性が悪いので、なんとなく苦手なのだ。


「ねぇ、一緒に行っても良いか、聞いてくれる?」


 大人しそうな詫助くんなのに、黒目がちの目で見つめられると、強い押しを感じる。良くんは、できたら連れて行きたくないと思ったが、だからこそ「一緒に行こう!」と答えてしまう。自分の中の天の邪鬼の血が憎い。


 こうして、奈良の天の邪鬼の元に、孫の良くんと、ねずみ男の忠吉くんと、座敷わらしの血を引く詫助くんが遊びに行くことになった。天の邪鬼のハーフの良くんのお母ちゃんは、何か悪い予感がしたが、やはり反対の事を口にしてしまったのだ。


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