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≪一周目・遊楽国エルランド≫~世界の運命~

 エルランド。


 セントリア王国からやや東北にある小さな国で、セントリアの領土と比較すると十分の一も無い。精鋭の軍があるわけでもなく、攻略の困難な条件下にあるわけでもない。それでも他国に侵略されず、なおかつ≪エンドロール≫にも狙われなかったのは、ひとえにその国が娯楽のみに特化した国だったからである。


 至るところから温泉が湧き、美しい自然に囲まれている。裏を返せば、どこを掘ろうと湯水以外の資源は出ず、材にならない自然しか無いという悪条件でもあるわけだが、それでもそこに住まう人たちは、温泉と自然を活かした遊楽国としての立ち居地を確実のものとした。 旅行客達が落としていく金で他国から物資を買い、客人を持て成す技術に特化したそこは美人も多い。という設定だ。


「ダート様。私、この国、嫌いです」


 アルマと共にエルランドへ赴いたのだが、アルマは辺りを見回しながらそんな事を言った。


「綺麗な町じゃないか」


 今は紅葉に囲まれている。商店街の建物はどれも木製で漆喰や紅で彩られているため、和風、というよりも東方風というイメージか。俺の好きな雰囲気だった。いや、某プロジェクトは関係無い。


 行きかう住人達。宿の呼び込みにも何回か声をかけられているが、やはり設定を遵守してか、美人が多かった。


 その沢山居る美人達の一人を睨みながら、アルマは言う。


「あいつら、私と同じ匂いがします」


「どこが?」


 素で聞いてしまった。だってほら、アルマはどちらかとは言わずとも幼児体形だし。そこいらの美人設定のモブとは比べ物にならない。


「クズの匂いです。畜生の匂いですよ。人にたかる畜生の匂い」


「お前さっき自分と同じ匂いがするって言ってたよな」


 自分を畜生扱いするなよ、とまで言いかけて、そこで留まる。


 うろ覚えだが、確かアルマには裏設定、というか、倒した後になって初めて知る過去があった。確か、魔獣に家族を殺されて、天蓋孤独で酷い生活をしていて、誰も助けてくれず、いつしかダートに拾われたのだったか。


 記憶が曖昧なのは、そのエピソードが短い尺で、しかも口頭で伝えられただけだったからなのと、ゲームをプレイしている最中、こいつに感情移入出来なかったのが原因だろう。多分、後者がメインだ。


 だからアルマは自覚しているのかもしれない。天涯孤独で生き続けるためには、相応に汚れなければならないだろう。まっとうには生きられなかったことだろう。窃盗とかもしたんじゃないだろうか。そういう設定、というだけだが。


 だからアルマは自分をクズだと言う。


 それと同じ匂い、というと、


「どういう意味だ?」


 訪ねるがしかし、アルマはそれ以上は言わなかった。やけにリアルな気まずい反応だな、と思う。ネガティブキャラのアルマでも言えない設定ということだろう。それはアルマの過去に起因しているのだろうが、きっと、多分、アルマを倒さなければ明かされない事実、という事になっているのだろう。


 だが、解釈なら出来なくはない。何故なら俺は主人公として、レオナルドとして一度アルマを倒し、その過去を聞いている。言い訳みたいなトラウマを語られている。


 アルマが言ったクズとは、卑しい、という意味ではないだろうか。


 薄汚い手段を使って生き延びた自分を、接客という手段で客人をたぶらかし、もてなし自分を売り込み、そして存在を確立しているこのエルランドという国の卑しさと重ねたのではないだろうか。


 まぁ、深く考えたところで意味は無い。アルマは生きているわけではないのだ。ここはゲームの世界。『君と共に終わる世界』という名の架空の世界。そこに存在しているアルマもまた架空であり偽者だ。作り物。まがい物の命。現実に居る人を真似た贋作。そういう意味では、空っぽな命だ。


 感情移入するための感情が、そもそも存在していない。


 落ち着いて考えてみると酷い状況だ。俺以外は誰もが模造品。中には名前と顔だけ与えられて、決まった台詞以外は紡げないやつも居ることだろう。そんな中に放り込まれた俺という異物。


 そんな異物に、世界のシステムに抗ってまで、どうやって世界を変えろというのか。正確には、どうやって世界が辿る運命を変えろというのか。いかにしてこの世界のルートを面白くしろと言うのか。


 ……おおいかん。うつうつしてしまった。


 この憂鬱な気分にもちゃんとした理由がある。


 ――俺は懲りずに、主人公の仲間が加入する瞬間妨害に入るという作戦を実行しようとしているのだ。


 とても今更とは思うが、『君と共に終わる世界』というゲームの概要を語ろうと思う。




『プロローグ~セントリア襲撃』


 ≪エンドロール≫がセントリアを襲撃し、姫を誘拐する。


『第一章~交易町レミフィスタの悪魔』


 シルビアが仲間に入る。町の真ん中を通る運河を止めていた魔獣を倒し、それを裏で操りレミフィスタを攻略しようとしていた≪エンドロール≫が一端、ティエドーを倒す。


『第二章~産業国モノトラスタ奪還』


 ≪エンドロール≫が一端ジークリードが攻略し、治めていた小国モノトラスタを、現地で暗躍していたレジスタンス≪スタート≫と手を組む事で奪還。レジスタンスメンバーが敵の大多数を引きつけている内に城内部へ潜り込んだ主人公達(主人公達の正規メンバーはまだ二人だが、レジスタンスのメンバーが一人正規加入し、もう一人一時的に加入するため、パーティーは四人となる)がジークリードを倒す流れだ。


『第三章~エルランド戦役』


 ≪エンドロール≫には狙われていなかったはずの場所だが、そこをついに≪エンドロール≫が一端、マクシムが攻略しようとする。偶然居合わせたレオナルド達が阻止するという流れだ。主人公視点の物語で語られたかは覚えていないが、この攻略作戦の立案者はダートだったらしい。俺も昨日驚いたよ。ちなみにここでも一人、主人公の仲間が増える。そして主人公達は四人になる。


『第四章~鉱石都市グリアノス・バレー開放』


 これまた≪エンドロール≫が一端フォーカスに支配されていた鉱石の都市、グリアノス・バレーに囚われてこき使われていた民間人を解放するまでがレオナルド達の仕事だった。民間人が人質代わりでもあったため正規軍が手を出せなかったのだが、第三章までの活躍を評価された主人公達が工作員としての役割を任されるのだ。その時に共闘した二章でのレジスタンスメンバー(一度パーティーに入ってるやつ)が正規メンバーになり、パーティーは五人となる。


『第五章~ドュークドリアン制圧』


 ≪エンドロール≫の中枢として扱われている産業、工業、資材共に潤沢な街。ダートが納めているそこは、≪エンドロール≫に支配されている場所という割りには被害は最小だった。とはいえ勿論圧制はしましたがね。ともかく、そのドュークドリアンの奪還がセントリア側からすれば絶対に不可欠な≪エンドロール≫殲滅の条件だったのだろう。色んな連中の力を借りて、主人公達が城に乗り込んできて、ダートやらアルマが倒される流れだ。


『第六章~ミステリア高原作戦』


 色々なところが奪還されて憤怒した≪エンドロール≫が一端、ギアグボードが攻勢に出る。セントリアへ直接戦争を吹っかけて、進軍するのだ。殆ど全面戦争みたいな形になるが、ここでプロローグで共闘したリンがパーティーに加入するし、ギアグボードが治めていた国を別働隊が奪還するし、セントリア側が優勢となる。


『最終章~君と共に終わる世界』


 仲間が全員やられた事で自棄になった≪エンドロール≫頭領ガルダスが、魔獣やらなにやらを駆使して大陸全土に猛攻撃を仕掛ける。魔獣だのなんだのはそこら中に溢れているため、敵の数はほぼ無限という条件の戦争がそこかしこで始まり、それを止めるためにはガルダスを倒さなければならない。主人公達は大陸の最果てと呼ばれる場所へ出発そ、倒して、姫を取り返して終了。




 これが、君と共に終わる世界というゲームの大まかな流れだ。なんかこう説明すると普通に大人向けの、ステラテジーゲームに似たシナリオの本格ファンタジー風だろ? で画風も大人向けだから、こう大雑把に説明すると良いゲームなのかもしれない。


 だが残念! いつだかも思ったことだが、シナリオでは大事が起きているのに、主人公達のやる事が地味なんだ。しかも本格的に見せかけて敵キャラがあざといため、なんか中途半端な空気になる。


 画風や世界は大人向け。しかし主人公達がやってる事の範囲と敵キャラが子供向け。このアンバランスさが絶妙なクソゲーとなっている。いやね、内部工作をさせるんなら内部工作のプロにやらせろよ、とかっていうツッコミ所もあるし、なんで毎度毎度主人公達が一番良いポジションに送られるのか、っていうのに説得力が無かったりもするしね。


 ともかくして今は第三章の『エルランド戦役』が始まろうとしているところだ。≪エンドロール≫メンバーたるマクシムに作戦確認をする、という体でこちらに来た。ついでに主人公達が増えようとしているのを、適度に妨害してスリルを付け足そうという寸法である。つまり前回と一緒。


 ……の、はずだったんだけどね。


 物陰に隠れた俺とアルマが見つめる先には、男二人と女二人のグループが居まして。


 なんかいかにも東方! な着物を身に纏っている女が他の三人に近くを案内しようとか言ってるわけですがね。


 もうね、聡い方はお気づきかな。


 ――防ぐどころか出会う場面すら見逃したわ!


 あれ!? こんなにあっさり合流してたっけ!


 もう記憶が曖昧過ぎてどいつがどのタイミングで仲間になるのか解らなくなってる!

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