≪一周目・交易町レミフィスタ≫~勇者誕生~
セントリア襲撃を終えて、数年かけて大陸を制圧していく≪エンドロール≫として行動していたが、これが意外な事に長い長い。といっても、ゲーム内ではたった二行で終わってしまった制圧情勢を体感速度で二週間かけたから長く感じた、というだけで、数年を二週間に感じるというのは、やはり異常な早さなわけだが。
俺の現状はとある町の支配者だ。政治統括を行っている。村人から税として過剰な食料を巻き上げて、それを兵糧としたり返金して武器にしたりして≪エンドロール≫の増強に努めている。町民達はみな干からびたような皮膚をしていて、やせ細っている。全ては俺の圧制のせいだ。
いやね、俺だってさ、ゲームの中とはいえこんな圧制は嫌だぜ? でも仕方ないじゃん。世界のシステムが、強制的に、俺に圧制させるんだから。
試しに「税、軽くするか」と側近であり懐刀役であり中ボスのアルマに提案いてみたところ「何故です?」と帰ってきた。これが論破できないのなんのって、この「何故」に合理的に答えない限り、俺の発言が無かった事にされるんだわ。世界のシステムが強すぎる……。
まぁしかし、所詮はゲームの中のモブ。圧制に苦しんでいるという設定があるために苦しんでいるように見えるが、実際に感情なんてありゃしない。そう考えれば、苦痛でもなんでもない。
長いプロローグを終え、ようやくゲームが始まろうとしていた。勇者が誕生するのだ。
修行を終えたレオナルドが、セントリアの王室に呼ばれ、遊軍として≪エンドロール≫討伐を目指せと命じられる。遊軍っていうならどうしてそっちでメンバーを集めてくれないんでしょうね、セントリアは。
「君一人では到底勝ち目は無いだろうから、各地に散らばっている勇敢な実力者を勧誘して仲間にしつつ≪エンドロール≫の目論見を阻止するのだ。遊軍の采配は、レオナルド、お前に一任する」とか、かっこいい言い回ししてると見せかけてただの無責任だからね? 責任をレオナルド一人に押し付けただけだからね?
ともかく今日が、レオナルドの旅立ちの日だ。レオナルドは今日中に、軍部に努めたままのリンと決別し、セントリアのすぐ近くにあるレミフィスタという交易町へ一人で行く。大きな運河が町の真ん中に流れているため、それを用いた交易に栄えた町だ。
その町から町への道をマップで彷徨い、町に着いたら着いたで、運河上流に強力な魔獣が発生したという理由で運河を渡れず、仕方なく地下水道を越えていこうという事になる。だが、その地下水道手前でとある女魔法使いと出会う。
その魔法使いはレミフィスタの交易衛兵つまりは運河を守る戦士みたいなものなのだが、これがまた不思議な事に「渡航できないのは私達衛兵の責任でもあるから、地下水道を渡るの、手伝うよ」
となり、いざ地下水道を越えれば、
「君、強いね。君と一緒に旅をしたら、より一層レミフィスタのために戦えるようになれる。よければ、私も連れて行ってよ、その≪エンドロール≫との戦いに」
という具合に仲間になる。ちょろすぎて直視できないレベルだ。この世界にあくどい商人とか居たら、騙されて護衛させられてそう。
ともかく、せっかく仲間が増える、というか最初の仲間が出来るシーンだというのに、あまりにもちょろすぎる。もう少し苦難があっても良いと思うのだ。そうでなければ、仲間としての実感が減ってしまう。ああ、やった、こいつが仲間になった、という喜びは、RPGの醍醐味のひとつだと俺は思うのだ。
だが、俺に出来る事は少ない。世界のシステムという頑固者が居る限り、何が出来るかも解らない。それでも、ただ指を加えて待っていたところでゲームを面白く出来ない。例え俺があの手この手で俺と主人公達との戦いを熱いものにしたって、たった一回の戦いでゲーム全体の評価が左右されたりはしないだろう。
だから俺が、ちょくちょくゲームに干渉して、じっくりと面白くするしか無いのだ。
この面白くする、というのが具体的にどうすればいいのかはわからない。
なにせ俺はクリエーターでは無いのだ。今から俺がやる行為は、プロが作ったものにケチをつけて初心者が改造を施す行為。慎重にやらなければより酷くなる。客観的に、エゴが入らないように留意しなければ。
となると、物語に干渉すべきタイミング、というのを、まずは知らなければならない。
敵を知れば百戦危うべからず、という言葉がある通り、状況分析というのはそれほどまでに重要なのだ。
というわけで俺は、とりあえず俺が治めている町、ドゥークドリアンを一旦アルマに任せ、レミフィスタへ向かうことにした。
馬車(といっても魔獣を駆使している車のため、馬よりは危険で、そして速い)へ乗り込み、そして、出迎えであろう、俺の元まで駆けてくるアルマを待つ。
「ダート様。どちらへ」
真っ直ぐ俺を見つめるアルマ。その大きな瞳は基本引き篭もりである俺にはちょっと刺激的だったが、努めて冷静に(でなければ世界のシステムに消されますから!)答えた。
「レミフィスタだ。三日で戻る。その間の留守は任せた」
「無理です」
「では、馬車を出……え、なんだって?」
「三日もここを開けて、まさか統治を私に託すと? ダート様は私をなんだと思っているのですか? 頭脳明晰なダート様らしくありません。この町、ドゥークドリアンを滅ぼすおつもりで?」
「……そういやあんたそういうキャラだったなぁ」
という呟きは、勿論だが世界のシステムに消された。
気を取り直し、ひとつ咳払いする。
「安心しろ。三日で町は滅びない」
対してアルマは身を乗り出し、胸元に手を当てた。
「それは三日で滅びたという前例が無いだけです! 私は、私は……その前例を、作ってしまう恐れがあります!」
どんだけネガティブに設定してんだよこのキャラ。割とめんどうなんだけど。
「大丈夫だ。俺はお前を信じている」
かっこつけて言うと、アルマは「ダート様……」と面食らったように数秒立ち尽くした後、がく、と膝を折り、地面に両手を着いた。芝生の上にダイレクトだ。
「私が、ダート様に、信頼されているなんて……。ダート様の目は、ついにお腐りになられたのですか……」
「失礼な部下だなぁお前(削除台詞)」
世界のシステムっていう設定がもうほんとめんどくさい。これ、思った以上に厄介だぞ。つーか今現在俺がレミフィスタへ行こうとしてるのだって、ゲーム原作の中でレオナルドがレミフィスタに来ている時のダートの動向が描かれていないから出来る事だ。
もしも作中で『レオナルドがレミフィスタに居る頃、ダートはセントリアへスパイ活動に赴いていた』とか出てきてたら、その通りに実行せにゃならん。それは、プロローグと一章の間に行った制圧作戦の時に確認済みだ。
「滅ぼしても構わない。滅ぼしてしまったなら次を制圧すればよい。守るべきものが無くなる以上は動き易くなるからな。……それに、どうせそのうち終わる世界だ」
これでどうだ。説得台詞としては充分だろう。とは思ったが、アルマは納得出来ないというような表情をしていた。
しかしそれでも、不承不承ながらも、小さく頷く。
「まぁ、あの……全責任をダート様が取ってくれるっていうなら、私に害が無いなら、別に……」
「お前最低の部下だなぁ!(削除確定台詞)」
その後俺が何を言ったかは覚えていないが、なんか適当にかっこいい事を行って、馬車を走らせたと思う。
こうして俺は、勇者の居るレミフィスタへと向かった。