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衝動と悔恨

衝動と悔恨



「儂は海に出るぜよ」

「いきなりどうしたよ。洋一。坂本龍馬みたいなこと言って」

「龍馬さんビバやべーよ。かっきーよ」

「へー」

これは夢だ。とても懐かしい夢。

「世界では未だ戦争を続けてる国がある。戦争の痕跡に吹き飛ばされる人がいる。俺はそんな人々を救ってみせる」

いつ壊れてもおかしくない脆い夢。世界の在り方に嘆くかもしれない。非道な人間に嫌気がさすかもしれない。その前にこの世界から消えるかもしれない。

「もしお前が行くんなら俺も付き合ってやるよ」

「そんなんあたりまいだべ」

そういって、洋一はガキみたいに無邪気に笑う。そして、夢は唐突に赤とともに終わりを迎える。

ズドッ。

頭の渦巻きに何かが当たる。

「痛ッ!」

俺は痛みから飛び起きる。

最悪の目覚めだよ。ちくしょー。気持ちわりー。

コロッと言う音を立てながら赤いチョークが頭から落ちる。チョークって頭に当たってズドッとか言うしろものなのか?俺はチョークをつまみながら当たったところをさする。

「おーい、高波~。私の授業で寝るとはいい度胸だな。おい」

見ると我らが担任、(はな)(ぐさ) (かなめ)が立っていた。現在は物理の時間。俺は立ち上がる。

「先生、怒るとせっかくの美しい顔に皺ができますよ。後、赤沼君が先生のこと年増の癖に…とかほざいてましたよ」

俺はいなりに指を指す。

「えっ、俺?なーに、言ってんだお前。俺はお前の前では言ってねーぞ」

「ほー。他では言っているとー」

要の顔が歪に歪み笑顔を創り出す。笑顔とは裏腹にどす黒いオーラのようなものが背中から立ち込める。そのオーラが般若の様相を…。

「そんな…まさか…こ、言葉のあやですよ。そんなの事実無根もいいところです。こんな綺麗で若々しい先生に向かって年増だなんて言える訳ないじゃないですか」

「そうだよな。赤沼~」

「先生それは違う」

國明が立ち上がる。どこかの裁判所かここは…。

「これを聞いて欲しい」

國明が携帯電話を取り出した

[クソー、あの年増ババー。漢字の跳ねがないだけで罰つけやがってー。だから皺だらけになるんだよ]

と、いなりの声が流れる。これはこれは、ストレートなお言葉で俺でもこんなこと言え

ねーぞ。

 あれ?でも、これ言ってたの国語の担当の先生にじゃなかったか?

「赤沼~これはどういうことかなー。説明してもらおうかー」

地中深くから這い出たトイレの花子さんのような声がいなりにのしかかる。実際、トイレの花子さんに会った覚えはないがそんな感じだろう。その声にいなりの顔は引きつる。冷や汗が尋常じゃない。溢れんばかりに出ているよ。

「ひッ、ひえーっ。ごめんなさーい」

いなりは速攻で教室から逃げ出し、それを先生が追いかける。これでこの時間は潰れたな。俺はもうひと眠りする事にした。だが、数秒後、ボコボコのいなりと対面することになる。その後は先生の美についての定義などチャームポイントなどを学ばされた。ちなみに次のテストに五十点分でるらしい。授業を受けるのが馬鹿馬鹿しくなるぞ。


昼休み。

ピーンポーンパーンポーン。

[一昨日、午後六時 海原 天美 が処罰されたことをお伝え致します]

ピンポンパンポン。

あっけない終焉。だがそれは、ここでは日常のことのように、耳を傾けるものすらいない。傾けているのかもしれないが。そのことで、誰も眉一つ動かすこともない。怯える者も呆気にとられるものもいない。他人は他人、自分は自分。何もしなければ死ぬことはない。それだけだ。

「そういえば、夕は初めてだっけ。処分報告聞くの。ま~、生徒会に入ってんなら、もう知ってるか」

いなりが苦笑いを浮かべながら話しかけてくる。

「ああ、昨日聞いた」

「へ~、やっぱ聞いたんだ。もしかしたら、話してないのかと思ったけど」

そう言うと、いなりは俺の隣で読書に夢中になってる三日月に一瞬、目を向け。

「それでも、お前は生徒会長といる訳か…」

小さくて聞こえにくい声でいなりは呟いた。

「まぁ~、お互い死なないようにな」

いなりはそれきり、その話には触れず。いつものように馬鹿話をするかと思えば、この前の時間の先生との一騎打ちについて話し出した。ほとんどが、デマだった。


放課後。

「すまんが、高波 夕はいないかの~」

なんか変なグラサンアフロの先輩が立っていた。何故先輩とわかるかと言うとこの学園は制服の色によって学年がわかるのだ(小学生以外)。今年だと三年は白だし、二年は黒、一年は赤だ。来年は三年は黒、二年は赤、一年は白となる。中学生はブレザーだし、高校生は制服。小学生は私服である。で、この先輩は白い制服なので高校三年生よって先輩であるとわかる。とは言っても今は夏なのでYシャツだがズボンの色(中学生はグレー、高校生は黒だ)とネクタイをしているかで分かる。高校生がなぜかネクタイだ。

「俺ですが。なんすか先輩?」

「おー、君が高波君かー。どーも、どーも、いや~、なんちゅーか、奇遇やな~」

グラサンアフロ先輩が俺の手を両手で握ってくる。なんだコイツは…。

「奇遇ではありません。アナタが会いに来たんでしょう」

「いーや。奇遇や。君を探しにきて。始めて声を掛けた相手が君や。きっと宝くじの一等が当たるくらいの確率のはずや」

グラサンアフロ先輩は俺から手を離した。ゲイではないようなので一安心。

「いえ…。今日、うちのクラス31人しか来てないので確率からしたら31分の1くらいだと思いますよ。他のクラスのやつとか来ませんし」

「わりッ。わい数学、苦手やねん」

算数だよ。どんだけ馬鹿なんだよ。この先輩…。

「何しているのです。高波君」

後ろから三日月が俺に話かけてきた。

「いや、変な先輩にからまれてな」

「おや、バカ枝君じゃないですか」

「わいは(さか)(えだ) (なら)()や」

「酒枝、略してバカ枝です」

一文字も略されてないな。むしろ文字にすると増えてるし。

「なるほど」

納得したよに手をうつ。馬鹿だな。ここまで馬鹿だとむしろ微笑ましい。

「で、高波君になんのようです」

「イヤー、一昨日からうちに転校してきた転校生がな、あんさんに会いたいゆーてな。連れて来たったんよ」

「どうも」

聞き覚えのある声。見覚えのある顔。

「お前…は、海原…」

「あー。違う、違う。違わないけど違~う」

海原みたいだけど違うらしい少年がやる気、無さそうに否定する。

「俺は海原 千夏(ちなつ)。天美の双子の妹ですよ」

ジャラジャラと音を鳴らしながら頭の後ろで手を組む。首輪から両手首に直線距離に結ばれる鎖と両足首に丁度走るのに不自由しない程度の鎖の計二本で結ばれている少女は笑う。海原 天美のように汚く。

「妹ッ⁉」

「何ですか?そんなに本人じゃないことが不自然ですか?」

「お前…女だったのか…?」

「酷い言われようだな~。ま、こんな格好だからしかたないけど」

つまらなそうにYシャツの裾を少し持ち上げる。

「見る」

ニヤニヤしながら俺を見てくる。

「遠慮しとく」

俺は断固としてそんな誘惑には乗らん。

「それ、男としてどうなんだ?」

なんか、海原妹に心配されてしまったぞ。何故だ。

「あれやな。Yシャツの上からだと目を凝らせばブラ見えるからやな。わざわざ、犯罪に手を染めんでもえーちゅうこっちゃな」

「なる」

「納得されても困るし。まず、見えねーし」

「俺、今日の自信ないんだよね~。先輩はどう思う」

「いいんじゃないか。俺、黒好きだし」

「おっとな~」

………………ガスッ。

三日月に爪先を踏まれました。誘導尋問だ。

「あははは。やっぱ、君、楽しいね」

海原と違って千夏は普通の女の子のようにも笑えるんだな。海原は男だが。

「バカ枝君、何故君が千夏さんを連れて来るんです?」

「あー。わい、あれやん。風紀委員長やん」

こんな奴が風紀委員長…。どいみてもどこぞのダンサーだぞ…。てかっバカだ。

「そうですね」

そうなのか…。なんだこのやるせない感は。

「こいつ今日から風紀委員に入りたいゆーてな。で、会いたい奴いるちゅーんで案内してきたっちゅーこっちゃ」

「なるほどです。でも、わかりませんね。兄の仇打ちに来たとは思えないですが。なにが目的です?」

「べっつにー。ただの暇つぶしだよ。暇つーぶしー」

「なんや、おまんら知り合いなんか?」

「そうですね。一応ですが」

「また遊びに来るよ。お兄ちゃん。キヒヒッ」

海原とはまた違う魔女のような笑い。ふと、千夏は三日月を見る。それにつられて俺も三日月を見ると三日月は向けいつもの無表情で千夏に怒りの眼差しを向けていた。

「あー。怖い怖い。まったねー。鈍感な兄ちゃんに恥ずかしがり屋のお嬢ちゃん」

千夏は全く恐怖など感じていない、あどけない笑みを浮かべながら立ち去った。酒枝先輩もその後を追っていなくなる。

「大丈夫か?」

「大丈夫なわけないです。あの子は異常です。唯一の身内を殺されて。ヘラヘラしてるなんて…。異常過ぎです。くれぐれも注意してくださいです」

俺はあいつは安全か?なんて聞いてるんじゃなく、お前に体調は大丈夫かって聞いたんだがな…。ま、いいけどな。俺達は生徒会室に向かった。


生徒会。

「もうすぐ夏休みです。なので夏休み、旅行に行く計画を建てるです」

「生徒会でやることか?」

「当たり前です」

断言したよ。この生徒会長。

「いいね。生徒会合宿ッ!暑いビーチに胸を弾ませ、夕方には真っ赤な夕日を静かに眺め、夜は砂浜で花火大会。その後、肝試しなんかしちゃったりして。これぞ定番」

ナミキが暑く語る。もう、ナミキの頭の中では海モード全開らしい。

「他に意見はないですか」

「はい」

一成が勢いよく手を挙げる。

「水着以外の試着不可とか、そんなことなら手を下ろしてくださいです」

一成は手を下ろす。お前はそれ以外ないのか。

「山で芝刈りというのは如何でしょう」

「昔話のお爺ちゃん⁉」

「お婆ちゃんですよ?ちなみにお爺ちゃんは鬼退治に」

「桃太郎に頼ろうよッ‼」

「桃に入った男の子は海辺の家族に拾われ竜宮城に」

「浦島太郎として育てられてる⁉」

「浦島太郎はその後、結婚して、森の動物達と相撲したり、熊に跨がってお馬の稽古をする。男の子を」

「金太郎‼」

「これが因果と言うものです。全ての物語は繋がっているのです」

「桃太郎が産まれたら二つの物語が消えるから‼」

「そこは、パラレルワールド」

「そんなもんねーよ。初めの物質が世界の規則に乗っ取って動いてるんだから。違う選択なんて存在しねーんだよ‼」

「ですが、初めが少しでも違えばできるでしょう」

「初めが少しでも違えば、その違いは違いを誘発し全く別の生物が産まれ、パラレルワールドではなく全く別の世界になるです。ただ単に決して交わることの平行世界と言うだけならそれでもいいのかもしれませんですが。結局、交わらないのならそれらはないのと何もかわりませんです」

「会長~。ついて行けねッスよ~」

「お前はどんだけ馬鹿なんだ」

俺は一成の頭を叩く。

「だってエロくないじゃん!ッス」

一成は堂々と胸をはる。そんな話、普通の生徒会では話さない。

「お前の頭の中はそれだけなのか!」

「健全な男子たるもの当たり前ではないか」

「お前は健全をはき違えているぞ」

「健全な魂は健全な肉体からできる。そして俺のチ○コは元気にピンピンしているこれを健全と言わず何というッス」

「破廉恥、変態、セクハラ発言、ゴミ、KASUなどなどいろいろあるが」

「なんで最後だけローマ字表記なんスか」

「成り行きだ」

「二人で盛り上がらないでよ。私だって健全だよ」

俺と一成はナミキの持つ豊満な胸に息を呑む。

「こんなにサプリメント常備してるんだよ」

制服のあちらこちらからいろいろな健康食品、健康飲料、サプリメントに錠剤、粉末が山のように出てくる。

ドラ○もんの四次元ポケットですか?あれ、これ…。俺は粉末が入った袋を手にする。麻薬…と袋には書いてある。

「あっ、それ仕事で使うの。決して、私やってないから。気にしちゃダメよ」

ナミキは俺から袋を取り上げる。よしっ、見なかったことにしよう。俺は心の中で誓った。

「ナミキはこれでボンッ、ボンッ、ボンッ何ですか?」

三日月は一袋のサプリメントの入った袋を持ち上げる。

「それは喧嘩売ってるのミカちゃん。真ん中のボンッは、喧嘩売ってるの?」

ナミキは笑いながら怒りマークを額に作るという高等技術を見せる。実際に作れるものなのか。

「僕も大きくなれるですか?」

上目遣いでナミキに問う。

「…」

ナミキは黙って、そんな三日月を見つめ抱きついた。

「可愛いーーーーッ。何なのこの生物はなんて分類なのッ。種名は?属名は?生物としての根底を覆るほど可愛いーーッ。「意味がわかりませんです」まさに人類の秘宝だよ。「何故隠されるのです」あぁ、なんで私は男性として産まれて来なかったのだろう。「親に言って欲しいです」。男性ならミカちゃんを抱けたのに‼「アナタが男性でも拒否しますです」あっ、でも大丈夫だよ。「大丈夫じゃないです。離してくださいです」他国では女性同士でも結婚できるからね。「しなくて結構です」幸せな家庭を育みましょう。「家庭崩壊させてやりますです」やっぱり私が攻めよね?ミカちゃん受けでいい?」

ナミキの言動に三日月は的確にツッコミを入れていき。ポケットに手を突っ込み、ある物を取り出した。

ゴーン。

除夜の鐘並みに音をたて、金融バットがナミキの脳天に直撃した。女の子のポケットは四次元ポケットだった。どんな入れ方をしたら金融バットがポケットに入るのだろう。謎だ。

「なー。お前のバットってどうやって収納してんだよ」

「ポケットに突っ込むだけです」

簡単です、と後に続くのだが…。

「無理だろッ!」

「折り畳み式なんです」

「へー。って、そんなわけあるか!」

「収納上手い~の書、的なものを」

「モンハンかッ。(もんもんハンターの略。人気アクションゲームだ。決して性関係のゲームではない)」

「実は、これは…。話すと長くなるんで辞めとくです」

「長くなってもいいから話せ」

「鼻が長くなりますですよ」

「ピノキオか⁉嘘をつく気まんまんかッ⁉」

「NOとは言えませんがYESとは言えるとだけ言っとくです」

結局のところYESじゃねーか。

「結局、僕達は何について話あっているのですか?」

こんな、感じでぐだぐだ30分ぐらい話し合いはループし続け、結局海に決定した。


「すいませ~ん」

俺と、なぜか三日月と家に帰る前に例のコンビニに来ていた。

「誰だ?お前」

店長が新聞片手にタバコをふかしながら出てきた。

「昨日入ったバイトッスけど」

忘れんの早すぎだろ。昨日の今日、入れたばっかだろうが。

「夏目漱石君だっけ」

「違うがな」

瑠屡かお前は。いや…、体型は全く違うけどさ。

「じゃ~何だっけ?」

豪快に欠伸をしながら話しかけてくる。

「自分で雇った人間の名前くらい覚えろよ!」

「悪いが。俺は人の名前を覚えるのは苦手だ。そして覚える気もさらさらねー」

ただの駄目人間じゃねーか。やる気の欠片すら感じさせねーよ。

「じゃー。友ちゃん先輩をお願いします」

「任せておけ。友ちゃんは俺が守る」

「意味ちげーよ。どこにそっちの解釈になる要因がッ⁉」

「ちげーのかよ。思わせぶりな態度とりやがって」

「俺が悪いのか⁉俺がいつそんな態度とりましたッ⁉」

「とーもちゃーん」

三日月がのっぺりとした声で先輩を呼ぶ。

「呼んだ。仕事しろよ店長。殺しますよ♡」

ニッコリとした笑顔で先輩が出てきた。

「あっ、先輩」

「どうしたの?先輩に何でも相談して。この先輩に♡。先輩だなんて、この子いい子だわ」

どんだけ先輩と言う代名詞に憧れがあったのだろう…。ちょっとコエー。

「シフト表貰いに来たんすけど」

「まぁ、偉いわね。使えない店長とは大違い。月と鼈、可愛い後輩とグズな豚ね♡」

(かげ)りのない笑顔だ。この人は人を馬鹿にする事に全く罪悪感がないな…。店長も店長だが…。

「グズな豚とは失礼だな」

店長がすい終わったタバコを灰皿に押し付け、次のタバコに火を点ける。

ザバーン。

店長の頭の上で水の入ったバケツを先輩がひっくり返すことにより一瞬にして消える。

「そうですわね。豚に失礼よね」


「俺は淫乱な豚だッ!」


店長は言い放つ。もう、あれだな。死ねばいいと思う。

「はい、これ。シフト表ね」

「ありがとうございます」

俺は先輩からシフト表を受け取る。

「明日、土曜日からだけど大丈夫?嫌なら言ってね。後輩君の相談なら乗るから」

「あくまでも先輩と言ってくれる後輩君だからよ」と、付け足される

「はい、大丈夫です。先輩」

逆にアナタの頭は大丈夫ですか?と尋ねたいが言ったら一生涯、虐められそうなので辞めておこう。

「じゃ~、また明日ね。ちゃんと先輩と言うのよ」

「はい、失礼します。先輩」

「ちょっと待った。なんで無視するんだ。君達」

「あれ、いたんですか?店長」

「いたのなら働いてください。変態」

俺達二人はゴミを見るような目で店長を見る。店長は肩を丸めて隅で体育座り。

「まぁ~、生きてれば良いこともあるです」

三日月はそんな店長を元気づける。

「お前だけだ私のことを気遣ってくれるのはッ‼」

店長が三日月に抱きつく。三日月ポケットに手を入れる。俺達は見守る。店長気絶。後には金属バットを持った三日月さん。

「用がすんだのなら行くです」

「すいません。迷惑かけまして」

「いえいえ、そんなことないんだからね。なんだかスッキリしたくらいですわ」

「また明日」

俺達は気絶している店長を横目に帰路についた。



秘書日記


今日は部屋が前の二倍になった。そして太郎に家ができた。太郎はそこで丸くなって寝ている。なんて愛らしい。


「改築でもしたのか」

「ただ、お隣さんの部屋の壁を壊して、それらしくしただけです」

「俺達はなんて嫌なお隣さんなんだろうな」

俺はあっさりとした笑いを浮かべながら、「もう、咎めるのも馬鹿馬鹿しい。つか、めんどくさい」と思う訳でして。

「お部屋を三つに分けさせては貰いました。まず一つ目がリビング。2つ目が瑠屡と太郎の部屋。三つ目が僕と高波君の部屋です」

「へー」

俺はただ相槌をうつ。

「意外です。拒否なしですか?」

「俺が拒否したらどうなる」

「全力で却下しますです」

「だったら、何言っても一緒だろ」

「でも、ちょっと物足りないです」

それが狙いだからな。実際俺がかまっているからボケるので楽しいので、やる。すなわち、物足りないとわかれば解放されるという作戦(実際にめんどくさいというのもあるが)

「ま、言うことを聞いてくれる方が助かりますし、僕用に、調達したベッドは瑠屡にあげて僕は君のベッドでいいですね」

「ああ」

「ついでに僕を愛人を包容するように抱きしめてくださいです」

「ああ」

「後、寝る前にキス…」

さすがに頬を赤らめて口を閉じ、下を向く。やっと効果がッ?後一押し?

「して…ください…です」

三日月は上目遣いで俺を見つめる。潤んだ瞳、白い、きめ細やかな肌が朱く染まり、可愛い…。

これがギャップルールかッ⁉なんと恐ろしい先日(正確には昨日の夜)も同じ状況に置かされた気がするが。どうする?ここで断っては計画が…。しかし、これを拒否せねば一線を越えてしまうぞ…。だからと言って…。そもそも一線越えてしまっても兄妹って訳でもあるまいしいいんじゃね。俺くらいの歳になれば逆にそれくらい普通。いやまて、仮にも相手は中学二年生。これでは俺がロリコン。違う。中学生だからこそ「してください」と言っといて許可したらやっぱり怖くなってやめるか。いやいや、もし本当だったらどうする責任もてるのか俺。どうするよ俺⁉

「駄目…ですか…?」

三日月は俺が黙ってるのをどう感じたのか俺のYシャツを掴んで体を密着させ、再びおねだりしてくる。

ヤバい可愛い過ぎるッ。大きな瞳、一見ロリ顔にしか見えない顔立ちと玩具を欲しがる子供のような必死な瞳でおねだりしてくる。子供っぽさと子供っぽさが合わさって逆にエロい。ってか、これ俺、玩具屋にいったら発情してそうに書いてるけど。違うからな、おねだりの方向性だよ。きっと…。

「………」

「………」

「………」

さー、そんな俺達を見つめる三つの視線一つは瑠屡、もう一つは太郎ではもう一つは誰のでしょう?はい、その通りみんなも知ってる変態さん七香さんだね。






夢、愛着


兄は今日機嫌がいいみたいです。僕の言うことをなんでも聞いてくれるみたいです。なので僕は頑張ってみることにしました。

「後、寝る前にキス…」

やっぱり駄目です。それに恥ずかしいです。顔が真っ赤になります。僕達は兄妹です。それに僕は汚いです。手を真っ赤にして今まで生きてきました。…でも。……でも、一回くらい好きな人とキス…したいです。それくらい…、いいよねお兄ちゃん…?

「して…ください…です」

僕は顔をあげて兄を見ます。兄は顔を百面相しながら迷っています。ちょっと可愛いです。そんなに僕の為に迷ってくれるのですか?こんな血で汚れた僕の為に。うれしいです。うれし過ぎてもっとキスして欲しくなります。僕を壊して欲しくなります。僕は兄にしがみつきます。

「駄目…、ですか…?」

兄の顔が朱く染まります。妹に興奮する兄。変態さんです。でも僕は兄が好きです。大好きです。僕をもっと見てください。

「嘘です。忘れてくださいです」

僕は、兄から離れる。

「えー、辞めちゃうの~」

七香が心の底から嫌がっていた。いえ、見たがっていたの方がいいのでしょうか?

「七香さん、僕が高波君をとってもいいんですか?」

いつもの無表情と平坦な心の篭もらない声。自分を隠すためのポーカーフェイス。

「大丈夫ですよ。一夫多妻制のところで籍を入れればいいんですよ」

「すごい発想力です」

楽観的過ぎる発想。そんな、こと思える事が羨ましい。

「家族は多い方が楽しいです」

「ですね」

確かにそうかもしれません。でも、僕にとっては、兄だけが家族です。兄しか見えないんです。お兄ちゃんは覚えているでしょうか?あの約束を。




「俺の意見はおかまいなしかッ!」

結局、ノリでツッコミを入れてしまった。

「あるわけないニャ。この甲斐性ニャし」

「お前、意味わかって言ってんのかよ」

「二人の内、一人に的を絞れず。関係を解消できない。とかの解消」

「違うな。おしいけど。まず「かいしょう」の漢字が変わってることに気づけ」

「二人とも自分のものにしようというのならすごい甲斐性です」

「甲斐性はそんなかんじに使うものなのか文法的に」

「今の日本でそんなこと言う人はある意味、日本人じゃないです」

「なら国語になんの意味が!」

「昔の事柄を知り、未来を創るです」

「絶対的に間違ってるはずなのにもっともな答えだな。おい」

そんなどうでもいい会話の後、夕食を作り、食べる。俺が夕食を作っている間、女性陣は風呂に入っていたので夕食後はすぐに俺は風呂にありつくことができた。

風呂からあがると女性陣は見事に全員リビングで爆睡していた。時計を見ると9時半。

「ハァ~全く…。子供かよ」

俺は溜め息をついて一人ずつベッドに運ぶことにした。

「軽ッ!」

まずは瑠屡を片手で持ち上げられる重さだ。しているのはお姫様抱っこだが。ニタニタ涎を垂らしながら寝てる。

なんて幸せそうに寝るんだコイツは…。

俺は瑠屡を瑠屡用のベッドに運び。続いて七香を抱き上げる。

「重」

ズドッ。

殴られた。本当は起きてるんじゃあるまいな。疑いつつ瑠屡のベッドに入れておく。瑠屡が潰れないか不安だがしょうがない。重いと言っても瑠屡と比べてだし大丈夫だろう。まぁ~、気にしないでおこうハゲたくないしな。

「ラストッ!」

最後に三日月を運ぶ。重くもなく軽くもない重さだ。言うなればピッタリフィット。などとくだらないことを考えながら俺は三日月をもう一つのベッドに運んだ。そして、俺もそのベッドに横になる。

「ま、約束だしな…」

俺は躊躇いながら手を伸ばす。愛人を抱くようになんてわからんから普通に抱きしめる。三日月は温かくとても安心できた。いつか味わったことのあるような不思議な感覚。七年前失った、妹を抱き締めているような感覚。俺は三日月の顔を見る。どことなく妹に似た顔立ちがそこにある。今どこにいるのかすらわからない世界で一番愛している女の子。

「夢…」

俺は小さく呟いた。

「お兄ちゃん」

それに呼応するように三日月が抱きついてくる。俺は片手を三日月から離し三日月の髪をかきあげる。夢のことを考えたら。もう夢にしか見えない。鮮明になりつつある(もや)のかかった過去の記憶。どうして今までそう思わなかったのかと思うほど似ている。

でも…夢がここにいるはずない。アイツは母親と平穏な日々を送っているはずだ。

「………」

日常こそが非日常になる世界なんかにいてはいけない人間。俺みたいに汚れてはいけない人間。

「なー。お前はなんでここにいるんだ?」

答えの返ってこない質問。俺は三日月の髪をかきあげた手を頬を沿うように滑らせる。俺はもう夢にあわす顔なんて持ってない。俺は顎で手を停める。ならせめて、俺を必要としてくれるコイツと。俺は乾いた唇を三日月に近づける。それに、比例するよいに三日月の顎を右手で持ち上げる。



夢、愛夢


「夢…」

兄が僕の名前を呼んでくれる。

「お兄ちゃん」

僕はたまらず兄に抱きつく。兄は温かい、僕の冷えた心を温めてくれる唯一の存在。

「なー。お前はなんでここにいるんだ?」

僕の心臓は跳ね上がる。ねー、お兄ちゃん。それ、僕に聞いてるの?お兄ちゃんは僕の正体に気づいているの?兄が何を考えているかわからない。だから、答えることも尋ねることも出来ない僕は…、どこまで行っても弱虫だ。兄は僕の顎を持ち上げる兄の匂いが鼻先から感じる。

「兄さん…?」

僕は瞼を開く。兄さんの顔がすぐ近くにある。そして唇が重なる柔らかな感触。最初は何かわからなかった。でも、すぐに気づく。僕は目を見開く。顔が熱い。心臓が爆発しそうなほど跳ね上がる。きっと今、鏡を見たら林檎みたいに真っ赤な僕の顔があるだろう。そして、名残惜しさを残しながらその唇と顎を掴む手は離れる。そして兄と目が合う…。こともなく再び今度は目を合わせることもできないくらい抱き締められる。兄の心臓は思いのほかドキドキしてて。僕は少しホッとした。お兄ちゃんも一緒なんだって…。僕は兄の胸に顔を擦りつける。ずっと一緒にいられますように…。と、そう願いながら。


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