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日常と非日常

日常と非日常



朝。

自分一人が部屋の中に浮いているように感じた。久し振りの静かな朝…静か過ぎて自分の存在が世界に溶けそうだ。

「なーてな…」

「独り言ですか?淋しい人です」

「うわっ」

俺はベッドから落ちる。

「何やってんです?」

三日月がガラガラと音を鳴らしながらしながらベッド脇の窓ガラスを開ける。

「お前こそ何やってんだよ」

「いえ、鍵無くしまして、君の部屋で一夜過ごしましたです」

人の部屋の鍵はいくつも造ってるの?いや、無くすから作ってるのか?

「で、何で窓からお帰りに」

「驚かさないためにです」

「窓の方が驚くわッ!」

まったく、どんな育ち方をしたらこんなになるのかってくらい常識外れである。

「まぁ~、人それぞれですけどね…です」

「驚かん人の方が珍しいわッ!。いつも思ってたが、それにそのですって何だ。ですって」

「萌ポイントです」

…お前はいったい何を目指してるんだ。何を…。

ガチャッ。

玄関の鍵が開く。

「ヤッホー。先輩ッ」

「何でお前までくんだよ」

「私はストーカーですから」

「帰れッ‼」

「それはないっすよ先輩~」

まだまだ、こんな関係が続くのか…。

「たり~」

「あっ先輩。これ、お返しです」

七香の手からそれを受け取る。男もののパンツ。しばらくの思考の末。

「何のお返しだよッ!」

「イヤー、あれですよあれ。あれ~」

七香は言えないことなのか、目をあからさまに逸らす。何か探るとヤバそうなので気にしないような気がするので触れないでおこう。

俺達はいつも通りの朝食を取って

「お前、それは塩だから!」

「私としたことがまたホットミルクに塩を‼」

「またっていつもかよ‼」

「家では大抵そうです…。はい…」

「だから、七香は手伝わないで下さいとお願い下です」

「そんなこと言われたら、したくなっちゃうじゃないですか‼女の意地です!」

着替えを七香と三日月に見られないようにすませ…。

「先輩のヌ~ド~かっくしどり~」

「何ほざきながら人の着替え見てんだよ‼」

「愛です‼」

「高波君ですから。です」

「脈絡がわからない!」

何で男である俺が隠れなきゃいけないんだ…。なんて考えながら、俺達は今、学園生専用の寮の多い通りを通っている(考えてるのは俺だけだが)。

「あれ何ですかね?」

公園の前を指差しながら七香は尋ねてくる。

「七香…。君が見てるのは幻像だ」

「いや、先輩でも…」

「だから薬物にだけは手を出すなといったんだ。後遺症は怖いぞ。フラッシュバックとか依存症とか」

「出してませんからッ!先輩は今日も変わらず、いじわるですね!」

「それが、俺と言う人種なんだ」

「どんな人種ですか!そんな人種いませんし、私は人種差別をしない子なんです」

そして、公園前に。

「潰れた蛙はただの人ですニャ」

人は蛙以下のようです。

「あの先輩話しかけられてますよ」

「幻想だ」

このボケ以前に今のは、話しかけられたうちに入るのかが疑問なのだが?

「何故言い切りますかッ⁉」

服の袖を引っ張られる。俺はかまわず進む。

「せ…先輩?」

「幻覚だ」

ガシッ。

脛を蹴られた。

「何すんだッ⁉」

俺は抱きかかえるように脛をさすりながら現実と向き合う。

「私、こう言う者ですニャ」

小学校くらいの無駄に元気のいい可愛い女の子(栗色の髪に猫耳とボンボンの付いたニット帽をかぶった)がダンボールの切れ端を差し出してきた。

[いい子です。名前は()()。可愛がって下さい 母より]

ここはどこからツッコミを。

「まず俺は「何すんだ」と聞いたはずだが?」

「その後五十六秒後に来るであろうアナタの質問に答えたまでですニャ。お礼なんてしなくてもいいでし…」

噛んだな。

「お前は未来人か…」

一応ツッコミを入れておく。これ、ツッコミの常識。テストにはでないけどな。

「未来人じゃないのニャ。一般人ニャ」

ダンボールの中で正座し、通りすがりの俺達(俺以外なんか少し離れた場所にいる)を足止めしてる時点で普通の一般人(普通の人)ではないと思うのだが…。とてもマイペースな子だ。きっと頭のネジの一本や五本くらい落ちているのだろう可哀想に。

「じゃ~、お前は捨て子か?」

「違うにゃ。いい子ニャ」

何が違うのか皆目見当もつかない答えだ。

「捨て犬?」

「どちらかというと猫ニャ」

「さいですか…」

さっきから「にゃ~にゃ~」言ってるしな。そういうことにしてやろう。

「瑠屡」

「馴れ馴れしいニャ。瑠屡っちと呼ぶニャ」

そっちの方が馴れ馴れしいだろ。なんてツッコミはしない。なぜなら、時間を無駄にしたくないからだ。

「瑠屡、結局お前は俺に何のようだ」

「瑠屡の提案は完全無視にゃッ?いいドキ○ちゃんニャ」

どんな○キンちゃんなのだろう。話とどういう繋がりがあるんだよ。

「二十二世紀の狸の形したロボットが出した泉にジャガイモみたいなニックネームの少年が泉にINしたみたいな感じか?」

「アナタは何が言いたいんですニャ?」

オメーが言い出した事だろ。いいドキ○ちゃん…。最後まで付き合えや!

「俺はお前と言う人間の扱い方がわからないよ」

素直なのが一番だよね人間。

「瑠屡は誰にも縛られないニャ。風になるニャ」

そうか、どうぞお好きなように、春風だろうと、北風だろうと好きになってくれ。

「そうか。走り出すのか」

「瑠屡は多忙なのにゃ」

「そうか。大変だな」

「そうですニャ。大変ですニャ。アナタみたいな低俗な猿と一緒にしないでくださいニャ」

「そうか、じゃーな」

「じゃー、ニャ~」

瑠屡は頭の上のボンボンを振りながら早速と去っていった。夏なのに熱くないのだろうか。夏といってもなぜかこの辺りは二十数度でそこまで暑くないのだが。結局、何だったんだアイツは…、と、いう疑問の方が強いわけだ。

「それでもアナタは男ですかッ!」

なんか怒られた七香に。

「少なくともストーキングしてる奴には男と認められなくていい」

「お父さんと一緒にしないで下さい‼」

「お前の親もストーカーかよッ!」

冗談なのかどうかの境がわかんねーぞ。実際、ほんとにやってそうで怖い。血は水より濃いってやつだな。そんな、遺伝は社会的にやばいな。

「七香が言っているのはなんで迷子の瑠屡ちゃんを逝かせたのかって話です」

三日月が真剣な顔で俺に説明する。

「お前はまず漢字の間違えを改めるべきだ」

その逝くだとアイツが星になるぞ。

「綺麗でいいじゃないですか」

「よくわねーよ。簡単に人を殺すな!」

「些細なことです」

「殺人を些細なことなんて言わないの!」

近所のおばさん風に言ってみた。近所におばさんがいるのかは知らないが。きっといると、俺は信じる。別にいなくてもいいのだが。

「なら…、いかせた…。性的な意味です」

「俺はお前が俺をどんな風に見てるか。じっくり話し合おう」

「典型的なロリコンです」

「どんなロリコンだッ‼」

「法を犯すか、侵さない程度」

「かなり重度だぞ…。それ」

てか、どんな奴だよ。…言っとくが俺じゃねーぞ。

「まー、考えるだけなら精神の自由が認められてますしね」

七香が入ってくる。

「お前のはすでに犯罪の域に達してるけどな!」

「失礼なッ。‼私はただ天美にいつ見られてもいいようにしてただけですよ!」

「お前、今日どうやって部屋に入ってきた」

「チョロチョロっと針金で」

それは、すでに犯罪です。まず、ストーカーの域を超えてるかんが若干あるくらいだ。

「ハァ~」

俺はあからさまに大きく溜息をつく。

警察(さつ)に見られなきゃいいんですよ」

開き治りだった。軽犯罪者の言い分だ。

「ね、三日月先輩」

「犯罪はいけないと思うです」

お前は書類偽造、殺人未遂、脅迫、職権乱用、住居不法侵入など俺が見ただけでもいろいろと犯罪に手を染めているが最後の方が俺も引っかかりそうなので伏せて置こう。

俺達はどうでもいいことを話しながら学園へ向かうのだった。


とある休み時間。

「高波君ちょっといいかな?」

眼鏡をかけた髪をボサボサに下ろし、制服をきっちりと着こなしている根暗な優等生の名にふさわしいような男に話かけられた。

「何?」

「僕は真名(まな)()() (くに)(あき)。漢字は説明が面倒なので省くとして…。少し付いてきてくれないか」

一応クラスメイトなので無碍(むげ)に扱うことができず渋々ついて行くことにした。

「まー、座りたまえ」

特別塔のある一室に俺は招かれた。俺は言われるがままに座る。

「別に僕は怪しい者じゃない」

俺はそれを言う人間が怪しくない所を見た事がない。まず、この状況でその台詞を言う事自体が怪しい。

「僕が君に聞きだいことは山ほどあるのだが…。まずは…」

なんか聞いている内にイライラしてくるようなキザなしゃべり方をする奴だ。

「吉川 七香のスリーサイズを教えてくれないか」

「を」をやけに強調された。俺はジト目を國明に向ける。

「流石に教えては貰えないか…。ならば生徒会長のスリーサイズ」

「ぺったんこだ」

どこからともなく圧力を感じたが気のせいだろう。

「そうか、最後に君はどっちが本命だい」

「両方対象外だ」

俺は断言した。圧力が強くなった気がするが気のせいだ。気のせい。こんなところに誰かが来るなんてないはずだ。

「ありがとう。とても参考になった。君とは仲良くやっていけそうだな同士よ」

何のだよッ!とツッコミを入れる前に國明は教室から姿を消した。何だったんだいったい?


昼休み。

俺は自販機にポカ・ポーラを買いに体育館前の廊下に来た。

「おや、アナタは朝のさんではありませんかニャ」

朝風になった少女、瑠屡に話しかけられた。

「朝野さんみたいな言い方するな」

俺は自販機に小銭を投入しながらツッコミを入れる。

「そう言われましても瑠屡はアナタの名前知らないニャ。知る気もないニャ」

「知る気もないとは随分な言い草だな。俺はミカエルだ」

「神様ですかニャッ!」

大天使なんだが…。俺は自動販売機のボタンを押す。

「と見せかけて観世音菩薩」

「仏ニャ?」

まだ悟りは開いてません。缶ジュースを拾い上げる。

「と言いつつザピエル」

「ハゲ」

酷い言われようだ。聞く人が聞いたら殺されそうだが。俺はそのまま続ける。

「からのクレオバトラ」

「叫けんでる絵のニャ」

「ムングか?」

「それニャ」

叫びから耳を塞いでいる絵です。

「高波 夕だ」

「普通にゃ。変えニャきゃニャ」

親が考えてくれた大切な名前を普通と言うだけで改名するのはイロイロあれだと思うぞ。

「そうですニャ~。刈り上げてくださいニャ。きっと何か開ける気がしますニャ」

開けるとしても悟りくらいだよ。いったい名前と何の関係があるんですか?

「そうやってすぐに解放感を求めるから緑がなくなって。色々とやばくなるんだ」

食肉(しょくにく)爆竹(ばくちく)ですニャ」

無駄に威張りながら言う。あってねーけどな。

「確かにそれはやばいな」

森林伐採に平仮名にしても三文字しかあっていない。

神父(しんぷ)断頭(だんとう)でしたニャ」

「怖いわッ!お前は宗教にどんなに喧嘩売りてーんだよ‼」

意味的にはさっきより近くなったけど。

「おかしいニャ。この全知全能、完璧たる瑠屡がわからニャいニャンて。あっ、人身伐採ニャ?」

もうやけっぱちだな。何にもいう気になれねーよ。


放課後。

「今日は会議をします」

なんだかんだ生徒会室に連れて来られた。何がなんだかわからんが。入っていきなりナイフを突きつけられた。勿論、俺は何もしていない…。はずだ。何故かとある休み時間から三日月は不機嫌だった。なぜだろう。

「いくつかの議題がボイス・ボックスに寄せられているのです」

三日月は「ハァ~」と、溜め息をついてナイフを俺から離す。心臓がバクバクいってます。死ぬかと思いました。三日月はそんな俺を横目にボイス・ボックスから一枚の紙を取り出した。

「[好きな子の好きな子を教えてください]。うむ、これは深刻な悩みです」

知らない相手の好きな奴の好きな奴なんてわかるかッ!

「冬馬君お願いです」

「わかりました」

できんのかよッ!成夜は紙を機械に入れそこからコードが一本繋がったノートパソコンのキーボードを叩く。

「筆跡から九十五%の確立で中二の野口さんだと判明、今ある野口さんの好きな人物は嗜好データから同じく中二の茅旗(ちがやはた)さんと断定…。茅旗さんの嗜好データから茅旗さんの好きな人は茅旗さんと同じ部活の先輩の佐藤さんと言う結果が出ました」

「わかりました。野口君のパソコンに検査結果を入れといてあげてください。次です」

なんも会議してなくね?つーか、どんなハイテク技術、生徒会に使ってんだよ。

「[貧乳の何がいけないんですか]です。国宝級の議題です」

どんな議題だよ。

「一成君、意見をお願いしますです」

「はい」

一成が立ち上がる。

「私こと山田 一成は巨乳好きです」

金属バットが唸りをあげました。一成は額から血の噴水をつくって机に突っ伏す。アニメ調じゃなきゃとても子供には見せられない映像です。

「私はミカちゃんの貧にゅ…。ぐはっ」

ナミキに金属バットのに鉄槌が下りました。鼻の折れた音が聞こえた気がする。

「僕は隠れ巨乳です」

嘘である。

キランッ。

三日月の目が光る。怒気!いや、殺気を感じる。

「何か思いましたか?」

「滅相もない」

精神の自由をください。

「アナタ達は何もわかってないようですね。そもそも貧乳はロリに欠かせない必須アイテムです」

アイテムなのか?

「高波君、それを君は「ぺったんこだ」なんてそれでも君はロリコンですか‼」

バンっ。

勢いよく扉が開かれた。

「甘いぞ。ぺったんこ会長!彼は熟女好きだッ‼」

聞かれてた!そして、俺はロリコンじゃねー!なんか出てきた!熟女好きじゃねーッ!ボケのオンパレードで思考内でのツッコミも追いつかない!

「高波君はロリコンです。新聞部部長、真名羅美 國明君。僕はぺったんこじゃありませんです。隠れ巨乳です。脱いだらすごいです」

俺はロリコンではありません。

「ふっ、やけに他人行儀だな。くーちゃんと呼んでくれ」

「真っ赤っ赤な他人です。くーちゃん」

どんな他人だ。他人の癖に赤裸々な関係なのか?

「俺の尻はそこまで赤くないのだがな」

赤くはあるのか…。

「アナタは出て行って、死んで下さいです」

出て行くだけで許されなかった。いったいどんな罪を犯したというのか。

「ま、そんなことはどうでもいいとして。同士よ」

「違う」

俺は即答する。死刑宣告をどうでもいいで割り切っていいのか!いいものなのか?

「ほら」

「ロリコンでもないけどな」

「ロリコンはみんなそう言いますです」

「それだと世界の約九十九%以上がロリコンだぞ」

「大丈夫です。日本特有ですから」

それがまかり通れば、日本はロリコン大国だ。小学生バンザーイな国になるぞ。

「国が犯罪を促進しそうだぞ」

「法は破る為にあるのです」

三日月は静かにお茶を啜る。良い子の皆、法は守るためにあるんだよ。

「その点、熟女なら法には触れんぞ。高波」

「大丈夫だ。そういう問題じゃないから」

「ならばどういう問題だ。○×か⁉」

「趣旨がちげーよ」

 閃いたとばかりにどうでもいいことを言う國明を適当にツッコミを入れる。

「種子…。遺伝情報…。性的な関係性…。男女…。行き着く先は…」

國明は考えている人的に顎に手を当てる。

「はっ!わかったぞ。いや、この場合はわかってしまった。と言うべきか…」

何がわかったのか知らないがどうせろくなことではないだろう。

「ズバリッ。ボーイズ・ラブ。略してBL」

「あっ、それは僕の分野です」

金属バットから運良くのがれた成夜が手を上げる。初日のあれは、マジだったらしい。考えただけでも鳥肌が…。

「俺は違う!」

「では、お前は何がいいというのだ」

「別に何だっていいだろ」

お前には全く持って関係ないことだ。人の趣味、嗜好に興味はないし俺はたいした性癖もないと自分自身、熟知している。

「な、なんだとッ!」

國明は驚愕の表情だけでは飽きたらず体でそれを表した。

「お前はロリコン、マザコン、ファザコン、ブラコン、シスコン、熟女好き、処女に、阿婆擦れ、箱入り、ツンデレ、ヤンデレ、デレデレ、デレツン、ツンツン、猫耳、メイド、ロリータ、セニョリータ、巫女さん、ぽっちゃり系、ずっしり系、ほっそり系、ブス、豚、SM、BLなんでもありだと言うのだな。なんという許容。なんというストライクゾーンの広さ。感服したぞ。私もまだまだだった。では、また会おう」

國明は片手を挙げた後、颯爽と去っていった。ロリコンとロリータは違うのか?セニョリータはそうゆうジャンルというか言葉ではないだろう。

「マジですか?高波君」

三日月が今までにないくらいジト目で、俺を変質者を見るような視線を俺に向ける。

「そんなわけあるか…」

俺はあきれ半分で答えた。もう半分は、それを信じられてしまう俺への情けなさだ。

「それは残念です」

成夜はとても残念そうに肩をすくめる。

「…」

俺は心の底肩を落とす。成夜にフォローをすることも、声をかけることもしたくなかった。てか、したら新たな道に足を踏み外してしまいそうだ。それそだけは、なんとしても避けねば。

「では、次の議題に移りますです」

その声にナミキと一成が目覚める。

「花畑が見えたっす」

「私も閻魔大王と激戦を繰り広げてたよ」

本当は逝ったんではないかと少し心配になる状況だ。一名、戦闘力を疑いたくなるが。

「で、次はなんだ」

俺は天国に逝きそうになったらしい奴と閻魔様を倒そうとした奴をを横目に全く議題の意味をなさないのではないかと思っている議題を聞く。

「[虐めについて最も酷いものを教えてください]だ、そうです」

「この学園でその議題は洒落にならないだろ」

「大丈夫です。一応寄生はしてますです」

「何にだよ」

「全知全能の神、アッ○さんにです」

「○ッコは神じゃねーッ!」

「私はミカちゃんだったら寄生されてもいいよー」

「すいません。規制でしたです」

素直に謝ることが出来る子だった。

「では、本題に入りますです」

三日月が場を仕切り直す。

「虐めはいけないが。考え。それをしないようにする。ということは大切ですか…」

当然のことを言うように平然とした顔で言う。確かに当然のことなのだがその精神を少しでいいから俺にも回して貰いたいものだ。

「俺もよく無視されるんスよ」

「お前を無視することは法律で許されてるからな」

「マジッスか」

驚いていた。当たり前のことだろうに。何を驚いているのだろう、こっちがビックリだ。

「一成君、アナタは満員電車に乗る際、自分の周りだけ空いていた事があるはずです」

「そういえば、あったような…」

曖昧らしい。普通は、ないだろう。

「それはアナタが世界的にけむたがられてるからです」

他人を陥れる詐欺師のような口調で淡々と話す。

「マジッスか」

「マジです」

「時に一成君は母親に針の刺さった制服を着せられて学園に登校してませんですか?」

「いや、それどころか親がいねーッスよ」

ナミキは立ち上がり一成に近づく。

「ほら」

ナミキは一成の肩から何かをとる動作をして始から自分の手の中に入っていた針を見せる。ナイスな連携プレーである。

「マジッスか⁉」

それ以上にこんなことを本当に信じるコイツはすごいと思う。よく今まで詐欺にあわなかったことが不思議なぐらい馬鹿だった。もしかしたら、もうあってるかもしれない。

「その内、制服がアイアンメーデンになってるから気をつけてくださいです」

「拷問具ッ!」

「一成さん。あなたさっき無視を受けると言っていましたが」

成夜が悪魔だ囁くように一成に囁きかける。

「アナタ、そもそも何の為に生きてるかわかってますか?」

「知らないっすよ。そんなこと」

「ハァ~」と、成夜は溜め息をつく。

「哀れだな」

俺は哀れみと呆れの気持ちをタップリ込めた瞳で。

「お前は虐められる為だけに存在を許されているんだよ」

「やッスよ‼」

俺の言葉に抗議する。無理もない今まで気づく事もできないほど馬鹿なのだろう可哀想に。

「一成君、何故、今、世界が平和なのかわかるですか?」

「そんなの国連とかそこらへんの組織が…」

「違うよ。一成、平和に必要なのは人類共通の敵。RPGしかり、バトル漫画しかり。敵と言うものが必要不可欠なの。それが一成、アナタよ」

「嫌ッスよ」

「一成さん。見苦しいですよ」

「冬馬さんッ⁉」

「お前は世界を救ったんだ。それを誇りに思うことはあっても否定するものじゃないぞ」

「嫌ですよそんな救い方。嫌過ぎるッスよ!」

「あれだぞ。お前と言う人物がニュースになったり」

「人類共通の敵としてね」

ナミキが足りないところを補正する。ナイスアシスト。

「噂になったり」

「「あんな人になるんじゃないよ」と子供に学ばせるためですが。確かに噂になっていますね」

成夜。

「女の子にだって」

「「きもーい。マジなくなーい」的にです。さすがにこれは知っていて欲しいです」

三日月。

「歴史の教科書に…」

「もう…辞めてくださいッス…。死にますッス!死ねばいいんでしょ」

一成は窓からダイブを決め込んだ。

「それは出来ませんです。自殺出来ないように色々、手はまわしてあるです」

一成は窓からビデオで言う巻き戻しをするように帰ってくる。

「生き地獄ッス」

一成は勢いよく顔をあげ絶叫する。いったい表で何があったというのだろう。

「ところで一成君。アナタが[虐めで最も酷いものは何ですか]」

三日月が一成に議題の回答を尋ねる。

「虐めに大小はないッス。人に名前を呼ぶ回数を人為的に減らされる事だって虐めッス」

「と、掛けまして、助けが欲しい仕事場と解きますそのこころは」

話題を振って見た。

「えっ、えっ。虐めと掛けるんすか…。えーとわかんないっす…」

みんなが「しっかり締めろよ」と、ジト目で一成を見る。

「な、なんスか。みんなして。出来るんスか」

「出来るよなナミキ」

全く考えてなかったのでバトンを押し付ける。

「出きるよね。成夜」

「出来ますよね。会長」

二人とも考えることすらなく、バトンを渡していく。

「虐めをする人と掛けまして、助けが欲しい仕事場と解きますそのこころは人で(手)無しです」

「「「ほら」」」

全員で一成を見る。そこまで「おお」とはならないが確かにあった。

「…虐めだーーーッ‼」

一成は泣き叫びながら生徒会室から出て行った。俺達が誰かに何故こんなことをしたかと問われれば皆、口をそれろえて言うであろう「悪気はなかった。ちょっとした遊び心だった」と。全ての小さな犯罪がこの一言から半分以上起きていると言っても過言ではない一言を。


その後は適当に解散した。

「俺、ちょっと行くところあるから」

俺はT字路で三日月と向き合う。

「どこに行くのですか?」

「人には言えないような所だ」

「そうですか。わかりましたです。先に帰りますです」

三日月が無表情で踵を返す。俺は少し安堵した後、俺は目的の場所に向き合う。


夢、幻聴


「怪しいです。怪し過ぎるです」

僕は兄がどこに行くのかを追いかけることにしました。

「こちらはK―101。守備はどうですか?」

僕は無線機(携帯電話)を使って仲間に連絡をとる。

「は?何のことですか?」

中内君は驚いています。全く使えない部下です。どこぞのおもちゃ屋の社長のところにいる執事くらい優秀な部下が欲しいです。

「今、僕は兄を追っています。そのくらいわかってください。前田君」

「です」を付け忘れたが気にしないでおこう。ちなみに豆知識として僕と兄について知っているのは生徒会執行部の一成君と兄以外の僕を入れて七人+一人である。ちなみになぜ一成が抜けているかと言うと彼は馬鹿だからです。

「わかりませんよ。それに僕は中内です」

「早く追ってください」

「今どこですか?」

パソコンを起動させる音が聞こえた(数回)。

「学園から僕の家に向かう道の2つ目のT字路を右に曲がったところです」

「わかりました」

キーボードを叩く音にマウスを動かしクリックする音。

「見つけました。今、お兄さんが曲がったところの二つ目の角を右に曲がりました」

「お兄さんとか馴れ馴れしいです」

僕は中内君に文句を言いながら兄の後を追う。彼はここらへんの学園の息のかかっている店舗の監視カメラや療の監視カメラを見ることや操作することも許可されている。

「お兄さんは、一つ目の角を左に曲がりました」

全く気にしていませんでした。

「予想目的置はどこですか?」

「普通に考えたらコンビニですかね…」

「そうですか」

コンビニなら僕と別れる必要性がわかりませんが…。まっ、つければわかることですね。

「やっぱり、コンビニですね…。でも、裏口から入って来ました」

「裏口から…。わかりましたです」

僕は電話を切り、ポケットにしまう。裏口からと言うことは…。




俺は目的置であるコンビニに裏口から入っていく。簡単な話、バイトの面接に来たわけだ。

「あー。緊張する」

そもそも白犬学園に入っている生徒は月につき二万ずつ、1日約666円ずつ支給される。だが、育ち盛りな為それでは身が保たないわけで。

「すいませーん」

「あぁ、お前が高波か~。待ってたよ~」

如何にもやる気の無さそうな、おっさんが出てきた。

「はい、そうっす」

「あー、履歴書持ってきた~?」

煙草をふかしながら尋ねてくる。

「持ってきました」

俺はバックの中から一枚の紙を差し出す。

「どうも~」

おっさんは煙草をくわえ、腹を掻きながら、もう一方の手で俺から紙を受け取った。


「ん~。合格」

書類審査のみ!緊張するまでもなかった。

「お前、レジ打ちできる」

「一応できますが」

「じゃ~。今すぐそこにかけてあるの着てレジ入って」

いきなりご指名だった。

「とーもちゃーん」

オッサンは奥の方に呼びかけた。俺は指定された服を着る。店長のやる気のなさに反してこっちはまともだった。

「何です?別にアンタに呼ばれたから来たんだからね」

やつれた女王様的な声が返ってきた後、黒の強い茶髪のツインテールの女性が出てきた。

「コイツ、えーと、高波 夕君だ。今日から指導よろしく」

「わかりました。別にアンタがやれよって思ってるんだけどね」

素直なツンデレ?

「言い忘れたが、俺は店長の(やま)(がら) 陽一郎(よういちろう)でこっちのツンデレ風味なのが女婁(める) (とも)だ。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

女婁 友にツッコミを入れていいのか悩んで結局やめ、無難に答えた。

「まぁ~、ついて来て。面倒なんだからね」

「…」

俺は無言でその後を追った。

「言っとっけど、私はアナタの先輩なんだからね。先輩って呼んでもいいんだからね」

「呼んで欲しいんだ」

「そんなわけない。何てことないんだからね。呼んで欲しいんだからね」

どうやら後ろの方に本音が出る構造らしい。馬鹿なのか狙っているのか知らないがとにかくそういう構造らしい。

「先輩はいつもそんな話し方を」

「店長に言われて嫌々よ…。別にいやじゃないんだからね」

嫌じゃないのかよ。前後の意見がばらばらだ。

「そっすか」

俺は誰もいない店内を見渡した。金の限られている生徒ばかりのこの地なら仕方ないのだが…。しかし暇だ。せめて、一人くらいいて欲しいものである。

「先輩、漫画読んでいッスか」

「いい訳ないでしょ。私だって読みたいんだからねッ!」

先輩が後輩に言っていいことじゃねー。


ウイーン。

自動ドアが開く。

「「いらっしゃいませー(面倒だから早めにすませてよね!)」」

俺達は息ピッタリに挨拶をする。先輩は最後の方になんかつけたが気にしてはいけない。

「「あっ」」

そして、お客様とも息ピッタリ息が合う。

「何でお前が」

「それはこっちの台詞です」

お客様こと、月野 三日月が驚いているようには見えない無表情で言葉を返してくる。

「こんなアダルトないやらしい店に…。ましてや働いてるなんて…。です」

相変わらず意味のわからない「です」語尾はさて置いて。

「アダルトな店って、ここ、コンビニだぞ」

「何、鶏みたいな声出してんですか」

「ここは、コンビニだぞ!」

俺は「は」を強調しながら皮肉たっぷりに言い直した。

「二回、言わなくてもわかってるです」

「………」

こらえろ!俺!仮にもお客様だ!神様だ!

「ここは、ツンデレコンビニではないのですか?」

「違うはッ!」「そうよッ!」

俺の否定とは裏腹に友先輩が勢いよく肯定した。

「知らないで、ここに来たの後輩君。駄目駄目ね!」

「マジかよッ‼「嘘だけどね」はないのかよッ!」

「本当だからね。ある意味」

「お金が欲しいなら言ってくれれば良かったのにです」

そう言って三日月は札束を取り出した。

「偽札ですが」

「いるかッ!」

「ちなみに僕の指紋がついた偽札はこの近辺の機械では本物と同じ価値があります」

指紋認識機能を有するようだ。なんて無駄な高機能‼

「何故」

「生徒会の力です」

「どんだけ影響力あるんだ生徒会」

三日月は「ハァ~」と溜め息をつく。いちいちイライラする動作だ。今に手が出てしまいそうだ。物理的に。

「違うです高波君。会長の力です」

「………」

近辺以外で使った人はどうなんだよ…。怖いので聞かないが。

ガタッ。

奥から店長のおっさんが出てくる。

「暇してますか~」

頭を掻き、欠伸をしながらバックヤードから出てくる。どんだけやる気がないんだこの人は、と思わせる格好だ。初めからだけど。

「あれ~。会長ちゃんじゃん。どうした」

店長は出てくるなり椅子に座りカウンターに顎を乗せた。

「ただの通りすがりです。おきになさらず怠惰の一途を辿ってくださいです」

「相変わらずだな~」

つい、さっきあった時より明らかテンション低いなこの店長。

「どうせ、競馬で給料全額ついやして負けたんでしょ。その金を給料に回して欲しいものだわ」

「何を言う友ちゃん。私がそういう人間に見えるのかね」

「見えますね。その服を脱げばホームレスに見えますね」

本来聞けるはずのない裏の声がさらに店長に追い討ちをかける。

「いっその事キャバ嬢です」

三日月が平坦な声でそれに続く。

「それもいいな」

「どこがだよッ!まずアンタ男だよッ」

いい要素もなければ、そう見える要素すらない。いったい何の会話をしてるのかすら、曖昧になるぞ。

「高波君。男はね、諦めも肝心なんだよ。嫁が怒る時しかり、娘にけむたがれる時しかりだ」

「例えが現実的だな、おい。言っとくがここは明らか場違いだぞ」

「人生って上手くいかないかないものだね~」

どうでもよさそうに店長は呟く。

「何があったんすか?」

「競馬で給料全額ついやして負けた」

返って来た答えは先輩が言ったことと一字一句違わなかった。

「………」

俺はそれの存在を否定きないものか思案してみるが面倒なのでやめた。そして「俺は他人だ」と自分に言い聞かせる。

「元気出してください。別にここで住んでるなんてホームレスよりたちが悪いなんて思ってるんだからね」

今、ちょっと聞き流しずらい一言を聞いた気がする。

「店に住んでるのか?」

俺は反射的に疑問を口にする。

「少年よ。人は働かなければ食っていけねんだ」

つまり、宿代なんて払ったら食費が出ないと。

「それは職権乱用だと思いますよ」

「乱用?それはいけませんね」

「お前が言うな、お前が」と言いたくなるが俺にも不利な発言なので三日月を睨みつつ気持ちを抑える。

「高波君、怖いです」

三日月は到底、怯えているようには見えまい無表情と平坦な声で返してくる。

「気にするな。お客様」

俺はどうせ気にしていないであろうと思いながら言っとく。

「今の一言がなければ家を焼くところです」

「気にし過ぎだろ。てかっ、俺の家どこ」

さすがに「お前の家だよッ」とは言えなかった。

「お前も家なしか。だが、この店は俺のものだ。お前にはやらんぞ」

「お前とだけは一緒にされたくない!」

「誰も君の家とは言っていません」

無差別放火。もはや、テロ行為です。

「なお、悪いだろ。世間的、社会的に」

「大丈夫です。僕には君だけがそばにいてくれればいいです」

仮面を被ったような無表情の綺麗に整った真顔で言われると俺でも本気にしてしまいそうな一言を。

「君をいたぶれるのなら僕は他に何もいらないです」

愛を語るような重みを込めて言われました。勘弁してください。偏った愛は恐怖しか産みません。

「結果論から言いますとたかだか家一件燃やしたところで僕は法にふれないです」

打って変わってどうでもいいことを語るように言葉をだした。

「なんでだよ」

俺もそれに従い適当に相槌を打っておく。どうせ生徒会の力かなんかだろ。

「家主を殺して証拠を隠滅です」

「それは犯罪だ。辞めておけ」

呆れ百%で返しておく。全く親の顔が見てみたい。罪で罪を洗い流そうだなんていけない行為です。よい子は、してはいけません。

「店員の分際でお客様にさしずしないでくださいです」

ただのクレーマーじゃん。


結局その後、客が何人かきたがそこまで忙しくはなかった。

「シフト組んどくから明日またこい。以上」

「後輩君、さようなら。ちっ、せっかくの暇つぶしが」

喜ぶべきなのかどうなのかわからない本音だ。俺となぜかずっと帰らなかった三日月は二人に挨拶をして帰路についた。

「高波君はいつも女の尻を追いかけているのですか?」

店を出てすぐ俺に話題を振ってくる。いわれのないことこの上ない内容だったが。

「それはいなりだな」

俺は冷静に返す。あいつなら本当にしてそうだ。

「あの店員さん、可愛かったですね」

「お前ほどじゃないがな」

何となく三日月をあげてみた。

「高波君は誰が本命なんですか?」

「さーな。お前みたいなやつかな」

ちょっと三日月が早口になって顔を見せないように俺の斜め前に出たので、また持ちあげてみる。

「何でですかッ?」

聞き取れないくらい早口になって振り向いた。

「可愛いからな」

面白いのでもう一押し。と三日月はキョトンとした顔をして。

「僕が可愛いの当たり前です」

冷静に言われた。目線を進む方向にむける。自分をここまで「可愛い」と断言できる人間がいたなんて。俺はただちに他人のふりをしたい…。否、他人になりたい。友達としてすら見られたくない。

「………」

「何を押し黙っているんですか?真面目に答えたこっちがバカみたいじゃないですか」

「………」

「無言で引かないで下さいです」

俺は三日月を右側を歩いていて右側に一歩遠のいていた。

「悪い悪気はなかった。無自覚だったんだ」

俺は元の位置に戻りながら謝罪する。

「逆に落ち込むです。僕は事実を述べただけなのに…です」

二歩、三日月から右側に遠のいた。

「なぜ離れるですか?」

「これは俺とお前の心の距離を現しているんだ。俺の意思通りに」

俺は正直に現状を語る。

「ならば一方的に僕が近づくです。心の壁をこじ開るです」

「お前はエヴァン○リオンか⁉A○フィールドでもこじ開けるのか⁉」

三日月がにじり寄ってくる。

「君に拒否権はありません」

「人権を返せッ!」

「君はミジンコやゴキブリ、蚊と同価です」

つまり人間じゃないから人権はないと。もっともな意見だ。ただし、俺が人間でなければの話だがな。

「そういえばなぜ、バイトなどを?事件解決から1日も経っていませんです」

確かに、あんなことがあった次の日にバイト探すとか不謹慎かな~。とも思った(実際思うようなことでもないのだが)。しかし、履歴書も書いた後だったし行ってみよう。後回しにするのも面倒だし的な感じだ。

「って、何でお前、昨日のこと知ってんの」

「女っぽい難攻不落の勘です」

三日月は無表情でピンッと白く細い指を立てる。女っぽいって、お前、女だろ。

「どんな勘だよ」

どんな、女も難攻不落って訳じゃねーよ。むしろ、一部だ。

「男っぽいおおざっぱな勘です」

「男がみんな、おおざっぱなわけじゃねーよ」

だからまず、お前は女だ。女だよな?男と同棲してたなんて洒落になんねーぞ。いや、世間体的に今の方がありえないかもしれないが。

「草食系男子ですね。全く、今の男どもは草ばかり食うからそんなことになるんです」

「昔の方が野菜は多く食ってたと思うぞ」

「そんなことはないです。これオカマのような包容力のある勘です」

「勘をつければいいって言う問題でもことでもなんでもねーよ。てか、ただかっこよく勘っていいたいだけだろ。それに、なぜにオカマに包容力を求める」

なんか疲れた。何故だ。ただどういう情報網があるか聞くだけのことなのに。結局聞き出すことができぬまま俺達は部屋に到着する。



秘書日記


太郎が友達を連れてきたよ。名前は瑠屡。とても元気な女の子だ。


「で、何でお前がここにいる」

俺は、秘書日記を閉じながら瑠屡に問い掛ける。毎日しっかり日記を書いてるあたり自分は律儀だと思う。

「友達と遊びに来たニャ。それ以上でも、それ以下でも、もしかしたらそれでもないけどニャ」

「結局なにしに来たんだ…」

「それはアナタが決めることだったりするんだニャ」

らちがあかなかった。俺が決めてなんになる。

「どうやって家に入ったんだ。鍵が掛かっていたはずだが」

俺は被告人、少女Aの首を右手で掴みながら証言を扇ぐ。

「そこのお姉ちゃんが鍵を開けてくれたニャ。とても善人には見えない、変態さんな顔で開けてたニャ」

はい。ニッコリ、あっさり実行犯確定。俺は力一杯少女Aこと吉川 七香の首を掴んでいる右手に力をこめる。「うひゃっ」と声を上げ首の痛みに七香は悶える。

「なるほど、よくわかった。帰っていいぞ」

「ああ、でもこの痛み癖になりそう」などと横から狂言を垂れている奴がいるが気にしない。

「瑠屡はこの家に住むニャ。文字通り座敷童ニャ」

「どこが文字通りなんだ?」

むしろ猫娘だ。

「言葉のあやニャ」

「色取りにも巧みな言葉使いにも、なっとらんがな」

「ところで福沢諭吉さん」

話を途中で切り替えてきやがった。どこまで自由奔放なんだよ。それに、やるなら適切な切り替えを見せて欲しかった。

「一万円札」

俺は冷静に答える。実際、こいつはワザと間違えてるのではないか。いや、絶対そうなのだが。

「格好いいにゃ。名前を聞いただけで惚れます。のキャッチフレーズ付で198ニャ。お買い得ですニャ。どうですかニャ」

やはりワザとだったらしい。しかもどこからどこがキャッチフレーズだかわからん。この名前で惚れるとかどんだけ渋い名前フェチだよ。

「改名しないからな。あと金を取ろうとするなや」

「お買い得なんですがニャ。一億九千八百万」

「高ッ。まったくお買い得じゃねー」

「人畜無害ニャ」

この場に置いてどうして出てくるか分からない四字熟語を出してきた。コイツでも一つくらい知ってるものがあったらしい。意味が分かっているかは別として。

「有害だッ!はっきり言って人権侵害だ!」

「人間失格?」

人けんしんがい・人げんしっかく。確かに似てるが間違わねーだろ!

「俺はまごうことなき人間だ。お前は知らんがな」

「では、人間花火ですかニャ?」

「やらねーよ。俺はどこぞの芸人だ!」

「住みますニャ。変人でしたニャ。芸人じゃないニャ」

住みます?いや、きっと「すみません」を噛んだだんだろ。さっきも同じようなことほざいていたような気がするがそれはきっと聞き間違いだろ。

「人を変人扱いするな!お前の方がよっぽど変人だろ」

「それは、心外ニャ。瑠屡はいい子ニャ。アナタと一緒にしないで欲しいニャ。不愉快ニャ」

たぶん、小学生であろう女の子にここまで言われる俺ってなんなの…。ちょっとブルーになったところで七香の首を掴んでいた手を離す。「あぁ、もっと~」なんて頬を赤らめているのを無視する。

「そうか。不愉快なら帰ってくれ」

「既に帰っているので瑠屡はこれ以上帰ることは出来ないニャ」

太郎を抱くように腕を前に組む。なんて偉そうなんだこのガキは。

「ね~。ご主人様」

瑠屡は三日月を見ながら太郎の頭を優しく撫でる。

「そうです」

三日月はずっーと、俺の隣にいました。正確には七香と逆隣に静かにポトチを食べていた(ポトチとはジャガイモをスライスしてあげたスナック菓子だ)。

「…」

俺は当然のように黙る。予想外のことに対応できる能力低いんで。なんだかんだ伏線みたいのはあったよ。全て瑠屡からだがな。三日月からそんな話聞いてねーよ。今日ほぼ一緒にいたのに。この学校に来てからいつも一緒にいるような気がするがそこはスルーするとして。

「もう一度。言って貰おうか」

俺は無駄に偉そうに腕を組む。

「そうです」

普通にいつもの無表情。嘘をついているようには見えない。ただ表情が読めないだけだがな。

「マジなのか?正気か?腹減ってないか?ハンカチ持った?ティッシュ持った?」

「どこのお母さんですか」

「田舎の婆ちゃんだ。田舎って言ってもさすがにライオンやチーターはいないぞ。ゴキブリはいるがな」

「君の中ではゴキブリはライオンとチーターは同列な生き物なんですか?そもそもライオンやチーターは日本にいませんです」

「この前、遊園地で…。いや、あれはサンタさんだ。動物園で…」

「僕が言っているのは野生での話です。それより君は眼科に行くことを進めたいです」

何故、眼科を話題に出したのかは不明だが三日月にも思うところがあるのだろう。

「そんなことよりコイツがここに住むってマジなのか?」

俺は瑠屡を指差しながら言い放つ。ゴキッという音と共に瑠屡に人差し指を曲げられる。

「そんなこと呼ばわりできるほどサンタさんがライオンに見えるは軽症ではないと思うです。まぁ~、さっきの話は本当です。言い忘れてましたが、昨日から決まっていることです」

言い忘れるようなことなのか?

「段々、人数が増えてくな」

俺はあきれ混じりに言って、溜め息をつく。どこのRPGのパーティーだよ。

「大丈夫です。部屋は明日中に増築されますから」

何が大丈夫なんだよ。

「だが、七香お前は帰れよな」

「な、なんですと。そんな馬鹿なこと許されていいはずないとです。だめだっぺ。昨日倒したって言ってもいつ天美が襲ってくるかわかんないんですよ」

確かに一回ボコッたくらいで観念する性格じゃないわな。

「それは大丈夫です。海原 天美君は今日の朝、死亡が確認されました」

「えっ?」

七香が声を上げる。

「天美が死んだ…?」

信じられない、という表情をつくりながら言葉を漏らす。突然過ぎてついていけない。七香も突然すぎて喜んでいいのかどうかもわからないのだろう口を少し開けた状態で固まっている。

「拳銃で額を一発撃ち込まれたとのことです。天美は一昨日の夜。教師を一名、殺したのでそれに対する学園側からの処置です」

「それが処罰ってやつか」

学園に入る前に渡された書類に書いてあった校則を破ったものに対する注意事項。

「はい、と言いましても罪状にもよりますが…です」

単調な口調で俺達に重みを込めて話す。

「アナタ達は、処罰に合わないようにしてくださいです」

微かに悲しみの感情を込めながら三日月は話す。

「それさえできれば、普通の学園と変わりませんです。後、高波君、暴力を控えてくださいです。今回は殺してませんし、正当防衛として認められましたが…。次はどう転ぶかわかりませんです」

認められました…か。と言うことは海原を直接手を下してないとしても三日月はその処罰に対する意見を言える立場ということか。少なくとも、その情報を俺達以上に早く入手できるというわけだ。

「わかった。できるだけ、見つからないようにやればいいんだな」

「逆、とも言えませんが。正当防衛の場合などはできるだけカメラなどに映っていてくださいです。正当防衛たる証拠が必要なんです。殺したとしても僕の力で死刑だけは逃れることが出来るです」

やることに対しての注意は無いわけか…。大丈夫か生徒会。

「と、言うわけで七香さん。帰っても大丈夫です」

「そんな話聞いちゃったら帰れないじゃん。怖いじゃん。逆に!」

七香は涙目で訴える。

「逆に今あなたがここに居ることが処罰を受ける対象になるです。住居不法侵入とかで」

確かに住居不法侵入そして住居無断滞在とかで処罰されても文句は言えないな。校則にはないが。

「じゃ、じゃ~。夕先輩や瑠屡ちゃんは」

「高波君は強制的ですし、瑠屡は学園側から頼まれているです」

「強制的って、拉致じゃん!監禁じゃん!」

「拉致もしてませんし、いつでも出れるので監禁でもないです」

もっともなことを言っているが人の部屋を教えないことでここから出て帰るという選択肢をなくしているので監禁とあまり変わらないのではないのか?

「わかりました。帰ります。帰ればいいのでしょ。帰りますとも」

「うー」と、いう声を漏らした後、七香は突然、立ち上がりまくし立てる。

「さようならです。そして、また明日です」

「元気でやっていけよ。嫌なことあっても自分で解決しろ」

「さようニャら。いやらしい目つきのお姉ちゃん」

俺達は座った状態で手を振る。これで、変態を一人、世に送り出す事に成功した。これは、平和な学生生活を送る為の偉大なる第一歩となるだろう。

「誰も私を止めてくれないッ!」

七香は俺達の反応を見て嘆いた。

なにを嘆いているんだか。この反応は当たり前だと思うのだが。どうでもいいが早よいけ。

「しょうがないです。高波君、七香さんを自宅まで送って行ってくださいです」

まぁ~、夜の一人歩きは危険だしな。しょうがない…。はっきり言って早く帰って頂きたいだけなのだが。本音も建前も言わないのが男ってもんだ。

「行くぞ。七香」

俺は「うー、うー」うなっている七香の襟首を掴んで玄関まで連れて行く。

「靴、履けよッ!」

「嫌です。靴履いたら、なんかいらいろ終わりな気がします」

「靴履いたくらいで終わる人生なら今すぐ辞めた方がお前の為になる。よし、履け。今、履け。すぐに、履け」

「うえー…。すいません先輩。お腹がすいて吐けません」

「そっちのはけじゃねーよ」

「わ、私、何もやってませんよ。無実です。パンツなんて盗んでません」

「そっちでもないから‼」

てか、お前はパンツ盗んだのか返してこいよ。

「じゃ~、先輩履かしてください。もし履かせることが出来たら。私、吐きます」

「吐くなッ!」

七香は玄関に腰を下ろし、俺に向かって足を突き出す。自分で靴が履けないとかお前はガキか。「ハァ~」と俺は盛大に溜め息をついて、七香に靴を履かせることにした。このままじゃらちがあかない。

「えへへ。こういうのもいいですね。先輩、足舐めてもらってもいいですか」

「嫌だわッ‼お前はどこぞの女王様か!」

「どちらかというと雌豚と罵られたいです」

「変態にもほどがあるは‼お前にはSとMの境界にNはないのか」

「Nってノーマルですか?先輩…普通に生きることに意味なんてあるんですか?個性があってこその人間でしょ?」

確かにもっともな意見と言えばもっともな意見だが、なにか違うような気がするのは俺だけでしょうか?「そうだ」と答えたアナタは変態です。表に自分を出さないよう注意しましょう。

「だから先輩は私の足を舐めてくれればいいんですよ」

バシッ。

なんやかんや話してるうちに靴を履かせ終わったのでとりあえず七香の頭を叩いておいた。

「お前は俺をどんなキャラにしたいんだよ」

「決まっているじゃないですか。私に快楽を与える忠実なる下僕です」

「お前は家に帰って糞して永遠に寝ろ」

「糞はしません。女の子ですから」

「女でも糞はするだろ。お前そりゃ人間じゃねーよ」

まず、反応する場所そこじゃねーだろ。いちいち、ずれた奴だ。

「よくわかりましたね。私、男の子です」

俺は無言で玄関の扉を開き、外にでる。言っておきますが男の子は人間です。

「あ、待ってくださいよー!」

七香はヒョコヒョコと俺の横に並んだ。ヒョコヒョコという効果がどのようなものなのかは皆さんの想像力にまかせるとして。

「あの…先輩…手…繋いでもいいですか」

七香が上目遣いで俺を見上げる。潤んだ瞳、長い睫毛、キメ細やかな肌、薄紅色の唇。俺はそれらを一瞥し「やだ」と答えた。

「………!なんでですかッ‼こんなに、可愛い子が上目遣いで頼んでるのに!」

少し間を置いて七香が驚愕した。三日月に毒されてきたのか。自分で自分のことを可愛いと豪語している。まったく変なとこだけ似るなよ。

「この状況で断る主人公とか私初めて見ました」

「世の中には色んな主人公がいるんだ。人生、誰もが主人公だ。お前が知らないだけで俺みたいのはいっぱいいるんだ」

「いいこと言ったみたいな顔しないでくださいよ。女の子の願いを聞かない主人公がいっぱいいるなんて嫌なだけじゃないですか⁉」

「勉強になっただろ。満員電車で痴漢するオッサンしかり、エアーガンで小動物を虐める少年しかり、男子には考えられないような惨いジメジメした虐めをする女の子達しかり、みんなみんな主人公だ」

「嫌ですよ。そんな物語。陰険過ぎます。年齢制限かなり高そうです」

「ここから学べることは、人の人生なんてみんな同じようなものだってことだ」

「一緒にしないでください。私は襲われる側であって襲う側じゃありませんし、むしろ動物愛好家ですし、虐めなんて逆にされてましたし」

「俺、いつだったかお前に襲われかけたけどな」

詳細にいうと初めて七香が部屋にきた日の朝ですよ。

「あれはあれ、それはそれです。そして無理矢理、私は先輩の手を握ります」

「お前…」

「俺へのストーキングは芝居じゃなかったのかよ」と続けようとして呑み込んだ。あまりにも七香が無邪気に笑うので言う気が削がれた。言葉などなくただ手から体温だけがお互いが存在する事をしめす。暑いと言うほどではないが。夏休みまで一週間ちょいという蛙げこげこ、蝉はミンミン鳴くような夏まっしぐらだ。まだ夜なだけ涼しいが。

「ここです。ここの三階の端の部屋です。って言っても一回来たことありますので知っていると思いますが」

学園指定のどことも変わらない外装の三階建てのアパート。

「普通だな」

「あたり前ですよ。みんな同じじゃないですか」

確かにその通りなのだが…普通だ。

「入っていきますか?お茶くらい出しますよ。お望みとあらばベッドの中まで」

「そー、言えばあれだよな。前、お前の部屋に入った時思ったけど、お前の部屋狭いよな」

七香のボケを軽やかにスルーする。確か七香の部屋は三日月の部屋の二分の一ほどだった

「三日月先輩の部屋が大きいんですよ。私のお隣さんとかも部屋の大きさ一緒ですし」

「そうなのか」

それもまた生徒会長の特権か…?

「で、どうします?入っていきますか?それとも私を食べますか?」

「俺は帰る」

「そうですか…。ではまた学園か、ご自宅で」

ご自宅ってどんな選択肢だよ…。七香は大きく手を振りながら、建物の中に姿を消した。

「かったりー」

俺は一人呟き帰路についた




七香、ストーカーへの道8


先輩と別れた後、私は玄関のドアにもたれ掛かかっていた。私は笑顔だった。笑顔で泣いていた。嬉しさで笑ってるんじゃない、寂しさで泣いてるんじゃない。自分の汚さに笑ってる。もう天美に虐められることのないことに安堵して泣いている。天美の死を喜んでる私がいる。醜く汚い。

「私は…、ただ…、逃げ出しただけ…」

ただの逃亡者みたいに、私には関係ない。私は何もしてない。天美が勝手に追いかけてきて勝手死んだ。ただそれだけ…。喜んでも誰にも咎められないし。むしろ喜ばない方が異常だ。でも人は簡単に人の死を喜ぶ。そんなの天美と一緒じゃん。私はその場に座り込んだ。


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