学園生活
学園生活
朝が来た。
夏の太陽光が顔に当たり朝が来たことを告げる。横からはスースーと一定のリズムを刻みながら寝息を立てているのが聞こえる。昨日は、家に帰って風呂に入って日記を書いて飯食って、太郎に飯食わして、寝た。当然ここは、一人部屋でルームメイトなんているはずはないのだ。だったら、この寝息は誰のものだ。
「………」
俺は上半身を上げようとする。…が動けない。何故か、そこにはブラとパンツにワイシャツを羽織っただけという姿の三日月がいた。
っつか、俺の腕に思いッ切り抱きついているし。動けなうと思ったら、足で俺の動かそうと思った箇所を抑えている。これは、どういう状況ですかッ?
①俺が昨日ベッドに連れ込んだ。
②これは夢だ。
③勝手に三日月が入り込んで来た。
①はない。いくら何でも俺にそんなばかげたことはできない…はず。③もないはず昨日は鍵を閉めてチェーンまで掛けて寝た。と、なると正解は②か…。よし…もう一寝入りしよ…。とにかく離させよう。俺は腕を無理やり引っ張る。
「んっ…ん~…うんんッ~」
なんかよけいに抱きついてきた。なんかいろいろ柔らかい所が腕に当たる。
「って、何で俺は自分の夢で顔赤くせなあかんねん!」
俺は抱きつかれていない方の手で頭をかかえる。
もう…あれだ…寝よう…。コレは夢だ。なんか知らんが超リアルな夢だ。現状としては、現実的ではないが今そうなっているように思えるくらいリアルだ。
俺は目を閉じる。
「んっ…あっ…んー…スー」
目を開けてはならない現実世界に戻るまでは辛抱だ。
「あっ、んん…うに…食べたい…」
俺は寝たいよ…。
「あ…んっ…うん…」
甘い吐息を俺にかけながら身をよじり、俺に貧相だが柔らかい身体を押し付けてくる。
「って、寝れるかーッ!」
俺は思わず大声を上げてしまった。やはり、抜け出せないというのか!
「んっ……?」
俺の叫びに三日月が目を覚ます。三日月はヌクッと起き上がりゆっくりこちらを見て。
「……………。おはようございます…です」
頭を下げる。
「おはようございます」
つられて俺も頭を下げる。朝、起きてすぐおはようございますなんて、何年振りだろう。なんか平凡なかんじがいいな。
「って、いいのかそれで!」
「いいも何もないです」
何をいきなり叫んでるんですか?的な視線を向けられる。まるで、俺が間違っている気分になってくる。
「何でお前がここにいんだよ!」
「それはここが僕の部屋だからです…」
三日月は今にも眠ってしまいそうな目をしながら、頭をユラユラと揺らしながら話す。
「いや、意味わからんし!」
「だからですね……。この部屋は僕の部屋なんです……」
……………?
「ハァ~~ッ⁉」
俺は叫んだ。
「相変わらず五月蝿いです。もう少し静かな朝を実現出来ないものですか?です」
「いやいや、お前のせいだからね!」
「ハァ~…。何でもかんでも人のせいにするです。コレだから最近の若者は…です」
「いや、明らかお前のせいだろ!」
「僕、朝は食パンにベーコンエッグをのせたのに、サラダとホットミルクでいいです。あっ、卵は半熟でお願いです」
「誰が朝食作ってやるっつったよ」
「秘書なのでそのくらいするのが普通かと…です」
「明らかプライベートタイムだろ!今ッ!」
「だからこそです」
「だからこそって…」
「それともあれですか、私の私物にまみれた、本当の君の部屋で私がいないことをいいことにハァ~ハァ~したいんですか?」
「何故、俺の部屋にお前の私物が⁉」
「僕の部屋を君が使っているからに決まっていますです」
「理由になっているようでなってないし。まず、俺の部屋ここだろ入学許可証と一緒に部屋番号送られてきたし。あっているし」
「大丈夫、そこは抜かりなく偽造させてもらいましたです」
「何も大丈夫じゃねーよ‼っつか、どうやって⁉」
「職権とは、濫用するためにあるのです」
「生徒会長権限強過ぎだろ!どんだけ生徒会長の地位はスゲーんだよ!」
「合い鍵は8個造りましたから無くしても平気です」
「なんの対策だよ!」
「後、君は今、僕に逆らえない状況だというかとを理解していますか?です」
…………。
「はっ!」
数秒の思案のうち俺はある解答にたどり着いてしまった。ここはもともと彼女の部屋…。若い男女が一つ屋根のした。人前には出られないような彼女の格好…。
「気づいたようですね。つまり僕がこの格好で叫べば君は晴れて変態さんの仲間入りです」
脅迫は犯罪です…。
俺はやむを得なく朝食を作るのだった。
そして食後。
「早くしてくださいです」
俺は早くしろと急かされる。まだ、六時半と言うホームルーム開始二時間前。登校時間十分を入れてもかなり余る。そして、俺は眠い。
「早くしろって…。まだ6時半だぞ…」
「叫びますよ。です」
「……」
アナタは鬼ですか…。俺は支度をしながら玄関に急ぐ。今、思ったら、どんな格好、状況だとしても女性に叫ばれるだけで捕まるよな…。と思ったが心に留めておくことにした。
「……」
鍵は合鍵としてチェーンは、どうしたのかと考えていたが玄関には切り裂かれたチェーン。それを、切り裂いたであろうチェーンソーが置いてあった。俺はどんだけ深い眠りに入っていたのだろうか。それよりも、こういうのは十三日の金曜日だけにしてもらいたい。
俺は気にせず登校することにした。
「そういえば秘書日記はしっかり持ちましたですか?」
「鞄の中に入ってっけど」
それがどうかしたか?という風に答える
「そうですか…」
そして、三日月は唇に人差し指を当てて数秒思案して、何かを決意したように軽く頷いて。
「では…、貸してくださいです」
三日月は小さな手を俺の前に出してくる。俺は鞄の中を探り、日記帳を取り出し、三日月に手渡す。
「ほら」
三日月は「ありがとです」と言って日記帳を開く。
「…」
そして閉じる
「短いです…」
彼女は短い感想を漏らした。俺は「五月蝿い!」と悪態を付こうとしたがやめて置いた。彼女は大事そうに日記帳を抱き締めていた。そしてまた、日記帳を開いて何遍も何遍も読み返していた。コレは束縛心が強いのか?それとも自己顕示欲の現れか?どちらにしろストーカーに発展しなきゃいいが…。ってか、同じベッドで寝た時点ですでに遅いのか…。などと我ながら馬鹿な事を考えていると。
ドンっ。
曲がり角で少女とぶつかった。
「痛ッ!」
少女は尻餅をついた。
どんだけベタなシチュエーション…。
「転校初日に誰かとぶつかるため全速力で通学路を爆走する事がこんなに大変だったなんて」
少女は尻餅をついたまま肩で息をしていた。俺は、「わざとかよ!」とツッコミを入れるのを耐え俺はその場を後に…。…させてもらえなかった…。「何故こんな美少女を無視するんですか…」と半泣き状態ですがりつかれたからだ…。
何故?答えは簡単だ。誰がどう見ても不審者以外の何者でもないからだ。とにかく、関わり合いになりたくない…。確かに肩にかかるか、かからないかくらいの薄紅色のショートヘヤー、整った顔立ち、か弱そうな清楚な感じのする美少女ではあるのだが、明らかに不審者だ。
「何ですか?急いでいるのですが…」
ひきつりそうになる顔を必死で抑え、冷静に返す。言い終わると同時に三日月が「時間にはまだ余裕がありますです」などと余計なことを言ったが無視した。
「冷たいです…。でも、私めげません!アナタの彼女にしてください!」
「めげてください!」
なんかとても唐突な申し出がきたが、迷うことなく正直に即答した。
「嫌です!今日はアナタの家まで着いて行きます!」
「ストーカー宣言ッ‼」
どんな思考回路を持っていたらこんな発言ができるのだろうか。
「違います!病的なまでに執拗に迫っているだけです」
「そういう人を世間一般ではストーカーと言うのです」
何故か三日月が話しに入ってきた。
「そして高波君は今日、彼の家に帰らないのでアナタが高波君の家まで着いて行くことはできませんです」
いつもの無表情で淡々と語る。
「おいッ」
そんなこと言ったら、と思ったが。
「あなた様は高波と言うのですね!」
想像以上に想像力がなく、変態らしい…。これはまた…変なのに絡まれたな~…。ハァ~…。
「少女A、交渉だ」
「私は吉川 七香。数字の七に香りの香でなのか。七香って呼んでください」
「じゃ~七香、交渉だ」
「何なりと」
七香は這いずるように笑顔を近づけてきた。その笑顔が変態そのもので一瞬ドキッとしてしまった。言わなくともわかると思うが恐怖を感じたというだけで、礼愛感情など芽生えない。
逃げちゃだめだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃ駄目だ!てか、逃げられない!
「よしっ…俺の名前を教えてやる」
「マジですか⁉ドキドキワクワク」
七香は花開くように笑顔を輝かせる。
「いえ、聞きたくありませんし、知ってますです」
三日月が入って来たので「うるさい」と頭を小突き、話を先に進める。
「その替わり手を離してくれ」
「うーん…。しょうがありませんね…」
七香は渋々、俺から手を離す。作戦成功。俺は、頭の中だけで勝ち戦をする大佐のように高笑いを浮かべる。そんな大佐なんて見たことないが…。
「俺は高波 夕。じゃ、また学園で」
俺は言い終わる前に学園へ走り出す。
「あ、は、はいッ」
七香の元気な声が返ってきた。
夢、幻影
「七香さん」
兄が学園へ向かって走った後、僕はここに残った。頬を少しだけ染めた七香を見ていた。彼女はいったい何を考えているのか僕には全くわからない。
「は、はい」
不意を突かれたのか。彼女は少し慌てた。
「僕は生徒会長の月野 三日月です。よろしくです」
僕は軽くお辞儀をする。社交辞令というやつだ。
「こ、こちらこそ、よろしく」
彼女は笑って答えた。ただ少し翳りがあるものの、両親を数十箇所も刺して殺した人間の顔には、見えない。
「アナタは夕君の彼女さん?」
「いえ、生徒会長とその秘書です」
僕は半分正直に答えた。
「生徒会にそんな役職あるんだ」
「昨日作ったです」
「職権乱用?」
「いえ、ただ脅迫しただけです」
確かに秘書という役割を作ったのは職権乱用かもしれないが兄を入れる事が出来たのは、あの脅迫あっての事だろう。
「ハハハハハ…」
彼女は僕の答えに関して渇き笑いで返してきた。
「こちらも一つ、お尋ねしていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
僕にはどうしても確認しておきたいことがあった。もちろん兄のことだ。僕にはこの学園に通うすべての人間の罪状やその身辺のことなどが詰まっている。俗に言う、絶対記憶能力だ。その記憶で言うと彼女は殺人犯。危険ランクB(ランクはABCDEの五つに分かれ、Aは国際問題級、Bは強盗や二人以上の殺害、テロ行為など、Cは一人の殺害、麻薬売買など、Dは窃盗、万引きなど、Eは、自殺未遂や殺人未遂など罪状によって分かれる)。
「高波君をどうしたいのですか?」
「お婿さんに!」
彼女は元気よく答えた。
「それだけですか?」
「うん」
「その言葉信じますですよ」
彼女はその言葉に少し驚いたあと、優しく微笑んで。
「うん…」
弱々しく頷いた。僕らはその後、無言で学園へ向かった
一限は英語だった。
「アナタは死ねばいいと思うよ」
「嫌です」
英語の担当の先生に言われて順番に和訳していく。
「そんな事聞きたくない」
「これが僕の正直な気持ちだ」
「リアリー(本当に)」
この英文は教育上どうかと思う。後、最後の一文は英語のままだし。
二限は現代社会。
「現在、サブカルチャーとしてオタク文化があります」
確かに現代だけども。
「萌っていいですよね。先生は今ヤンデレが大好きです。そして、先生のおすすめのエロゲーは…」
一応、女性教師です。
三限は日本史。
「信長萌~」
この学園はなんなのだ!
四限は物理。
「まずは相手の後ろに立って手を前に突き出します。すると相手を崖から突き落とすことが出来ます。これを証明したのが、作用反作用です。そして、その高さ×(エックス)を重力加速度9.81でその人の海に落ちた時の速さが求まります。そして、衝撃は速さの二乗に比例するから…」
これは計画的犯罪者になるための授業ですか…?
昼休み。
「お前、生徒会に入ったって本当かよ」
いなりは椅子を反対に座って、購買で買ってきたのだろうパンの袋を開けながら俺に聞いてきた。
「そうらしいな」
俺は朝三日月に作らされた。自分の弁当を摘まみながら適当に答える。
「マジかよ。あっ、そうだ。今度の部活捜索の時俺ら写真部は免除してもらえね」
「なんだ?その部活捜索って」
「あぁ、そっかお前ここに来たばっかだったもんな。部活捜索ってのは抜き打ちでその部活が何をやってるかをチェックする仕事だ」
「なんだそんなことか」
「免除してくれるのか!ありがてい。恩にきるぜい‼」
「お前のとこだけ念入りにチェックしてやるよ」
「やっぱりそうなっちゃいます?」
「なっちゃいます」
どっちみち俺にどうこう出来ないし、いなりだし、生徒会長さん俺の横で俺に朝、作らせた弁当食いながらこっちガン見してるし、何がどう転ぼうと助けられない。助ける気もサラサラないが。
五限は美術。
「この腰の辺りの歪曲が実に芸術的です…。げへげへ」
鼻血出とるぞ。エロ親父(俺の親じゃない、あえてこの表現を使ったのは語呂がいいからだ)。美術担当のオッサンは参考資料いう名目でとある本を見ていた。
「全くですな~。ジュルリ」
いなり率いる何人かの男子生徒もその後ろから見ていた。
「お前ら若僧が見ていいもんじゃねー‼」
先生は生徒を睨んだ。「アンタもだよ」と心の底から俺は呆れる。
いなりは一瞬驚いた顔をするが、直後、不適に笑い、先生の前(丁度、俺や真面目に作業をしている女子の皆さんには見えない位置)、でいなりは前だけズボンを下ろす。その瞬間、教室が金色に輝いた。
「な、なんだと…」
先生が目を見開く。そしていなりは、ゆったりとした動作で股間を隠す。
「下半身だけ大人になりやがって。いいぜ。俺の秘蔵っ子を見せてやる」
「ありがたき幸せ」
いなりはナイトが姫に何かを誓うように座った。それを見て先生は「うむっ」と頷き奥の部屋に消えるそれを追うようにいなりを先頭に男子生徒が次々と中に入ってゆく。その最後尾に三日月が入る。
「…」
一時の沈黙の後、三日月が重そうなダンボール箱を抱えて戻ってきた。中身は…、まぁー、見なくてもわかるわな…。奥の部屋からは欲求不満な男達のすすり泣く声が聞こえる。
「高波君。君は、この授業が終了したらこれを焼却炉に入れるの手伝ってくださいです」
「りょ、了解…」
異様にドスが利いた声と周りの女子皆さんの視線がに俺に集中していたので了解するしかなかった。
六限は道徳。
人と向かい合って今まで言えなかったこと。聞けなかったことを言う、聞く。という課題を出された。高校生にもなって何故、道徳なんて科目が?と言う問いは受け付けない。俺も知らん。
「何で燃やしちまったんだ!」
いきなり度アップでいなりの顔が前に現れた。
「俺は命令に従ったまでだ」
「お前のその行動が世界の欲求不満な男子高校生もとい、男を苦しめてもお前は何も思わないのかっ‼」
「知ったことか…」
馬鹿すぎて見ていられない。なんて残念な奴なんだ。
俺は静かにいなりから顔を逸らす。
「夕うううぅうぅううー‼」
いなりが俺の胸ぐらにつかみかかる。
「俺はお前のこと戦友だと信じてたんだぞ!なのにお前は!お前って奴はーーーーーッ!」
「俺だってお前のこと。そう、(変態だと)…思ってたさ!」
「だったらどうして…」
いなりの俺を掴む力が緩む。なんで、コイツはアレでここまでヒートアップできるんだ。不思議でならないのは俺だけだろうか。
「俺はお前らとは違う。あんなに堂々と何てできねんだよ!(したくもねーけどな!)」
「わかった。だがな、これだけは言っておく誰だって最初は臆病なんだよ…。それでも、頑張ってそれを乗り越えて行かなきゃいけねー。それが男だ!」
そして、俺はいなりの肩に手をおく。
「わかったよ。いなり…(お前が救いようのない馬鹿だってことが)。」
俺はいなりがあまりにも哀れで目が少し潤んだ。
「わかってくれればそれでいい…」
いなりは後ろに振り返り席に座り直した。いなりは服の袖で目を擦る。きっと自分の馬鹿さ加減に今頃気づいたのだろう。いなり自身の言葉に対しての感動の涙で無いことを俺は神に祈る。
放課後。
彼ら(俺のクラスの男子生徒(半数ほど))はそこにいた。あるものは泣き崩れ、またあるものは天を仰いだ。だが、そんな中いなりは一人焼却炉の中をあさっていた。もう、燃えたであろう本を探して。
「まだだ。きっとあるはずだ。まだ燃えていない本が」
対象がエロ本じゃなければ感動的な台詞だったかもしれないがエロ本である事実は変わらない。
そして黒い墨の中からそれは見つかった。俺は携帯電話にコールを入れて切る。いなりはそれを天に掲げて。
「神は我々を見捨てなかった」
それにつられるかのように。男子生徒が、口々に「神よ!」と叫んでいる。そんな危ない男共の中に一人の少女が歩み寄る。
「燃え残りを見つけてくれてありがとうございます」
スポッといなりの手からそれは抜き取られ、ライターで着火し、焼却炉にIN。今度こそ全て焼却処理された。
そして、三日月は唖然と立ち尽くすいなり達に目もくれず。俺のところに来る。
「行きますですよ。高波君」
「ああ」
俺は一度その場を振り返る。
「悪いがこれが定めだ。成仏しろよ」
燃え尽きた彼らには届かないであろう声を残した。
「高波君。君に頼みがありますです」
生徒会室に向かって歩いてる途中、廊下で彼女はいつものように平坦な声で話し出した。
「なんだよ」
「これを作るのを手伝って欲しいのです」
彼女は一枚の紙を突き出してきた。そこには目安箱と書かれていた。
「何これ」
「目安箱です。やはり生徒会は生徒全員の言葉を聞く必要があると思うのです」
「だからって。目安箱って江戸時代じゃあるまいし」
「君もそう思いますか。そこでです。君にはこの箱に名前を付けるのを手伝ってくださいです」
何で俺なんだと、思いながらも、俺は腕組みしながら考える。
「今、出てる案としてはパンドラの箱が有力です」
ほぼ絶望の箱やん!
「ボイス・ボックス…とか」
パンドラの箱がよければこれくらいので大丈夫だろう。一応、意見は出した。これでOK。
「分かりました。それでいきますです」
なんか決定した!
そして、そんなどうでもいいような会話をしているうちに生徒会室に着く。
「席に座ってくださいです」
成夜、一成、ナミキの三人が定位置と言わんばかりに昨日と同じ席に座っていた。
「夕ちゃん。ヤッホー」
「昨日振りです」
「聞いてくれよ。昨日あのままトイレで(以下省略)」
三者三様に出迎えてくれた。そして俺と三日月も昨日と同じ席に座る。
「それでは今日の議題です。今日の議題は目安箱もといボイス・ボックスの設置場所についてです」
「パンドラの箱じゃないんすか?」
手を挙げながら、一成は不満そうに意見を口にした。きっとパンドラの箱は一成の提案なのだろう。
「あれは没にしました。生徒の言葉のほとんどを絶望と決めつけるのは生徒会としていけないと思いますです」
最もな意見で返す。
「そんな馬鹿な!そんなこと僕は思っていない…。僕が目指したのは希望ッス」
こいつは本当にパンドラの箱をわかっているのだろうか…。ただカッコいいからとかで決めてそうだ。いや、実際そうなんだろう…。なんかいなりに似てる気がした。
「では、本題に戻ります。何か提案のある人はいますか?」
三日月は意味不明になって行く一成の叫びを無視して会議を続行する。
「はいっ」
瞳を輝かせながらナミキが勢いよく手を挙げる。
「他に誰かいないですか…」
生徒会室内は一成がエジプト文明について語り出している以外静かだ。
「はい…。ナミキ…」
三日月は嫌々と言った感じにナミキに振る。
「ミカちゃ…」
「却下です」
言い出して即、却下を食らった。きっといつもの事なのだろうと想像させるやり取りだ。
「せめて話くらい」
「どうせ僕にメイド服+猫耳で校内を練り歩けとでも言うのでしょ、です」
「それだけじゃ…」
「しかも[アナタの声を私に聞かせて、ご主人様]とでも言わせる気です」
「う…」
図星だったらしい。ナミキは押し黙った。確かにそれは、是非、やってもらいたい。
「はい」
いつもの爽やかな笑顔で成夜が挙手する。
「はい、冬馬君」
「名簿番号順に首輪を付けて自分の教室を徘徊してもらうのは…」
「却下です。顔はよくても変態は変態です。冬馬君」
こちらも、話し終わる前に却下を食らった。
「以後、精進いたします」
「何を!」
思わずツッコミを入れてしまう。
「いい意見をだせるようにですが…。なにか?(ニコニコ)」
変態になることに関してかと思ってしまった。
「いや、悪い…。気にするな」
俺は一応謝っておいた。この学園の生徒=変態という方程式が確立しつつあるな…。自重しよう。じゃないと俺まで変態だ。
「高波君、君の意見を早く出すです」
普通に生徒会室前に置いて置いてはいけないのだろうか…。ふと、一成を見る。彼は今、宇宙人に対する接客の仕方について暑く語っていた。
「そいつにぶらさげておけば…」
「採用」
言葉の途中で採用された。いいのかこれで!
「成夜、これを建築部に言って造らせていますので取ってきてくださいです。ナミキは一成にボイス・ボックスを巻き付ける為の縄を用意してくださいです」
「分かりました」
「はーい」
成夜とナミキは返事をして生徒会室から出て行く。
ずずずずずずー。
三日月はお茶を啜る。
一成は自慢げに、きっと九十九%ほど嘘だろう自分の有能さを語っている。
「高波君はこれを処分してきてくださいです。ボイス・ボックスは生徒会室前に設置することにするです」
「いいのかよ!」
俺は唐突な要望よりも、決定にツッコミを入れる。
「大丈夫。コイツが居なくなっても誰も困りませんです」
酷ッ。そして、質問の受け取り方を間違えているが面倒なのでもういいや。
一成を焼却炉に燃え尽きている、いなり達の横に置いた。
「帰りますです。高波君」
「えっ、もういいのか」
一成を置いて、生徒会室に戻ろうとしているところに三日月が声をかけてきた。
「はい、一成に巻き付ける手間が、省けましたので、そのまま鍵を閉めて紙張っといたので大丈夫です」
それに、と三日月が続けようとしたところで。
「夕先輩」
三日月の後ろから声を掛けられる。
「げッ」
その姿を見て俺は声を上げた。
「げッ、とはなんですか。げッ、とは」
「いや、なんでもない。ただ会いたくなかった奴に会ってしまって、つい声が出てしまったって、だけだから」
「正直な人ですね…。先輩は…」
七香があからさまに肩を落とす。
「正直こそ人の大事なり」
「正直で傷つく人もいるのですよ」
「そんなの俺の知ったこっちゃない」
「また、正直に返しますね」
「じゃ、俺達これから用事あるから」
後ろに回れ右したところで七香に手首を掴まれる。
「お供します」
ニッコリとした笑顔を向けられる。とても、親密になりたがるストーカーだった。
「あのな、俺達は、これからデートなの。人の恋路を邪魔する奴は股間に付いたゴールデンボールを馬に潰されるぞ」
「大丈夫です。付いてませんから。それに先輩と三日月ちゃん付き合ってないですよね?朝、聞きました」
なんて抜け目のない奴だ。確かに、俺達は一昨日、あったばかりで、恋人どころか友達ですらない。しかし、ここで、引いてしまっては元も子もない。
「昼休みに告ったんだ」
俺は、嘘に嘘を重ねる。七香が三日月に視線を向ける。
「そんなものされた覚えは一切合切これっぽっちもございませんです」
「だ、そうです。夕先輩…。さっき先輩が言ったことによるとアナタ人間として大事なもの無くしましたよ」
「スイマセン。アナタから逃げたかっただけなんです」
「何でそういうところだけ正直なのですかッ!」
「お前こそ、きび団子あげてないのになんで付いて来ようとしてるんだ」
「先輩から見て私は何なのですか!」
「ストーカー」
「なら、いいじゃないですか」
「嫌だわ!何が悲しゅーて自分を付け狙ってる奴と一緒に帰らななならんのじゃ!」
「大丈夫です。まだ付けてません」
「まだ、…だろ」
「はい!」
力強く返された。もうどうでもいいや。俺達はキャットフードを買うためにスーパーに向かい、その後、七香を部屋まで送って三日月の部屋に向かった。
「俺の部屋を何とかしろ。できないなら俺の部屋に住め」
言っては見た。言ってはみたのだが。
「嫌です」
断言された。女の子の私物を持ってくるというのはあれだし、まず俺は自分の部屋がどこなのかわからない。面倒なので諦めることにした。俺は渋々、三日月の部屋に入った。
秘書日記
太郎は雌だった。太郎は買ってきたキャットフードを不味そうに食べた。贅沢な猫だ。
風呂から上がるとベッドの上に昨日と同じく下着(違う柄、色の物)にワイシャツという服装で三日月がいて本を読んでいた。
「おい、マジでここで寝るのかよ」
「はい、そのつもりですが」
こちらに目もくれず、せんべいをチビチビとかじりながら本を読み進める。
「ハァ~」
俺は大きく溜め息を付いて、彼女に背を向けるように床に寝転がった。
「なぜ、床で寝るのですか?」
「なぜって。お前が俺のベッドで寝てるからだろ…」
俺は適当に返した。寝返りを打つ。
「そうですか…」
パタンッと本を閉じる音がした。続いてパチンッと照明を落とす音。トテッ誰かが床に降りた音。パサッ何かが俺の上に被さる。手で掴んでそれを確認する。…毛布だ。
もぞもぞ
何かが毛布の中に入って来る。
「何だよ。三日月…」
「いえ、夏とはいえクーラーのきいたこの部屋では寒かろうと思いまして」
確かに肌寒さを感じてはいたが。これでは、逆に暑い。
「だからって、お前が入って来ることないだろ…」
俺は呆れの混じった言葉を返す。
「毛布これしかないです」
確かにこれ以外毛布を持ってきた覚えはない。
「ハァ~、好きにしろ」
何か面倒なので諦めた。どうせ何を言っても意味をなさないのならやらないに限る。
「では」
三日月は俺に片手だけで抱き付いてきた。もう片方の手は俺のパジャマを掴んでいる。
「暑い。離れろ…」
「さっきと言ってることが違いますです」
「俺、[抱き付け]なんて言ってーぞ」
「[好きにしろ]と言いました」
確かに…。
「ハァ~」
俺は本日最後の溜息を吐くしかなかった。そして意識が薄れてゆき夢の中に落ちた。
夢、幻覚
真っ暗闇の中、ずっと僕は独りだった。七年前、両親は離婚。家族はバラバラになった。母と暮らす僕、父と暮らす兄。離婚のきっかけは母の不倫。ある事件をきっかけに六年前に僕はここにきた。僕は母とその愛人を殺した。そして独り、いや家族がバラバラになった、あの時から僕は独りだった。
「兄さん…」
僕は僕に背を向けながら寝ている兄に呼びかける。答えて欲しい訳じゃない。寝ていて貰った方が都合がいい。起きていたとしても寝言だと思って貰えばいい。ただ独りじゃないと感じたかった。家族の温もりが欲しかった。
「っんーッ」
兄が唐突に寝返りを打ち。僕は兄の背中を掴んでいた手を離す。兄は、僕に抱き付いてきた。少し驚いた。そして、久し振りに感じる温もりに顔が緩む。僕は兄に廻した手を引っ込め、両手で兄の腕を掴んだ。もう離れないようにしっかりと。