ある春の日の夜
今日は、まだ季節は春なのにまるで夏のように蒸し暑かった
俺は、眠れずベッドから起きると、タバコとライターと灰皿を持ってベランダに出た
俺は、ベランダの柵の向こうにある背景に背を向け、柵に寄り掛かるように座った
灰皿を俺の目の前に置き
そしてタバコを一本取り出し、口にくわえ
それにライターで火をつけた
そうしてぼんやりしているとなぜか昔の記憶がよみがえってきた
それも初恋の記憶が……
俺には、幼馴染がいた
幼稚園から一緒で、家も近かったこともあり
毎日一緒に学校まで行っていた
そして毎日一緒に遊んだ
お互いの家や、近くの公園
毎日楽しかったことを今でもかすかに覚えている
だが、それも続いたのは、小学校4年生までだった
今までは、ずっとクラスも一緒だったのだが、5年生になって違うクラスになったのだ
俺たちの通っていた小学校は、結構人数も多く同じクラスになれていたのは、ただ運が良かった
そしてなぜか急に、その幼馴染とは遊ばなくなった
お互いに新しいクラスに友達ができたためだったのかもしれない
俺は、男友達と遊ぶようになり、彼女は、女友達と遊ぶようになった
そして一緒に学校にも行かなくなった
あれだけ仲が良かったのに、喋りもしなくなったのだ
そして俺達が中学生になるころ
両親が離婚した
俺は不思議だった
あれだけ仲が良かったのに急に離婚するということになったからだ
きっかけは、母親が父に内緒で貯金を使い果たしてしまったためだった
そんなことかよ
と思うかもしれない
だが父にとっては、そのお金はとても大切なお金だったのだ
そして俺は、父について行くことになり
父の故郷に帰ることになった
俺は、その時幼馴染を好きだった
話さなくなっても好きだったのだ
でも彼女には、会いにいかなかった
今思っても、なぜ俺は会いにいかなかったのかわからない
結局俺は、誰にも告げず
父の故郷に行くことになった
どうやらうちの実家は、地元でも名の通った家であったらしく
父の新しい仕事先は、すぐに見つかった
最初は、大変だったようだが
5年で部長にまでなったので大したものだろう
俺はといえば、最初はなまりのある言葉に悩まされたが
次第にそれにも慣れていった
中学、高校と父の地元の学校で過ごし
いろんなことを学んだ
そしてその中で、彼女ができたこともある
だが長くは、続かなかった
俺が、その時でも幼馴染のことを忘れていなかったからだろう
そして大学に行くことにした
その大学は、俺が元々住んでいた県にあり
なかなか有名なところだ
俺は、アパートを借りた
大学の近くにあり交通の便がよかった
俺は、そこに引っ越した初日に
ちょっとした期待を込め、
俺の元の家付近くの道を散歩した
そしてなんと奇跡的に再会することができた
空が夕暮れ模様となり、お腹もすいたので
帰ろうとしていた時だった
突然肩を叩かれた
俺は、驚きながら振り向くと
彼女がそこにはいた
俺は、とても嬉しかった
久しぶりに会うことができたし、それにやはり会えないかと半ば落胆していたからだ
俺たちは、再会を喜び合うとともに
立ち話も何だからと近くのレストランに向かった
レストランでは、いろんなことを話した
俺のこれまでのこととか、彼女のこれまでのこと
今は、何をしているのかたくさん話したのを覚えている
彼女は、中学高校もここで育ち
そして将来お花屋さんになるために短大に行こうとしているらしい
合格はしているので、今は入学式待ちとのことだ
そこまでは良かった
彼女が急に俺に尋ねてきたのだ
今彼女はいるの?と
俺は、いないとだけ言って
あとは何も言わなかった
すると彼女は俺にこう告げたのだ
私には、いるのよと
俺は、まるで死刑を宣告されたような気分になった
彼女が、彼氏について必死に語っているのを
俺は聞くことができなかったのだ
そのあとのことは、あまり覚えていない
ただ覚えているのは、
アパートで号泣したこととそのあとしばらく激しい虚脱感に襲われていたことだ
こうして俺の初恋は幕を閉じた
その後俺は、無事に大学を卒業し、運よく一流企業と呼ばれるところに入社することができた
その中で、今の妻と出会うことができ、結婚し子供も2人できた
さらに一戸建ての家まで買った
そしてタバコの3分の1を吸い終わり、灰皿に捨てようとしたとき
あなた……と呼ぶ声がした
そう俺の妻だ
彼女は、俺がベランダにいるのに気付くと
何してるの?といいながらベランダに入ってきた
俺は、灰皿にタバコを押しつけながら
いや、ちょっと初恋を思い出していたのさ
といった。俺のその言葉を聞き
初恋ね……
と小さく囁くと
妻は遠い目をした
おそらく、妻にも初恋があるのだろ
俺の初恋は実らずに終わってしまった
だがそれが、良かったのか悪かったのか俺には分からない
結婚して10年
今の俺の幸せは、妻とそのあいだにできた2人の子供を守ることだ
ちなみに初恋の話なのだが、ちょっとした続きがある
俺は、結婚することになり
幼馴染に便箋の手紙を送った
内容は、こうだ
このたび俺は、結婚します
追伸 好きでした
彼女の返事が数日後に届いた
おめでとうございます
追伸 私も好きでした
俺たちはどうやら両想いでは、あったらしい
そんな彼女も俺が結婚して半年後には結婚した
俺は、立ち上がると後ろを向き
目の前の背景を楽しむ
一本だけぽつんと立っている街灯とその横にこれまた一本だけ立っている桜の木
桜の木からは、花弁が舞い落ちる
それを街灯がやさしく照らす
それを見た妻は、綺麗ねとつぶやく
俺もそうだなと同意して
タバコとライターと灰皿を持って家の中に入り
少々涼しくなった気がして
ベッドに寝そべった
そしていつの間にか眠っていた
完全にフィクションです
秒速5センチメートルというアニメに影響されて書きました
恋愛ものは、初めてなので駄文で申し訳ないです