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番外編 理のクッキー

作者: WAIai
掲載日:2026/10/27

穏やかな春の日差しの中、桜沢理は自分の店ーボロニアでティータイム中だった。

「やっぱり紅茶ですね」

無糖の紅茶を飲みながら、魔法のクッキーが焼けるのを待つ。

今日はレーズン入りで、甘い香りが鼻をくすぐる。

「美味しいのができそう」

おやつのパウンドケーキを食べながら、春の光景、窓口から見える光の洪水に見惚れる。

ティータイムが終わったら、日向ぼっこでもしようかなと考えていると、窓口が叩かれる。

急いでカップを置き、近づくと、理はびっくりする。

「ーあなたは…」

相手は女性で20代くらい、理とそう変わらないのだった。

女性はクッキーを1袋、注文したが、理は渡さなかった。

逆に自分でクッキーを1枚、口に入れ、咀嚼する。

「私、桜沢理、20代」

喉に唇ができ、名乗ると、女性が驚いて口に手を当てる。

しかし理は気にせず、女性をまっすぐに見つめる。

その瞳は泣きそうな、嬉しそうな、複雑なもので、喉の唇が理の心を代弁する。

「あなたが好きです」

はっきりとした声に、女性が固まる。

それから意味を少しずつ理解したのか、顔が赤くなっていく。

理は泣き笑いのような表情になると、喉の唇を押さえる。

それ以上の言葉は必要なかった。

「ー私は…。私は…」

女性が言葉につまりつつ、理を見てくる。

桜の花びらがひらひらと舞って、応援してくれるようだった。

理は何も言わず、喉の唇が自然に消えていく。

3分経ったのかと思いつつ、女性の視線を受け止める。

「あの、その!!」

女性は口を開くのだが、躊躇しているのか、言葉にならない。

理は怒っているわけではないのだが、ここは魔法のクッキーを使ったほうがいいと判断し、女性に1枚差し出す。

女性はゆっくり受けとると、まるでキスするかのように、優しく口に運んでいく。

サクッと音が鳴ったような気がして、理は様子を窺う。

「美味しい…」

女性はそう言うと、自分の喉を確認する。

するとプルンとした唇ができ、話し始める。

「私、間百合、20代」

女性は驚きつつも、先程、理のことを見ていただけに、悲鳴を上げることはなかった。

理が期待していると、女性は恥ずかしそうに頬を赤くしつつ、喉が話し始める。

「理さんが好きです」

ふと理は笑顔を浮かべ、女性ー百合を見る。

百合は慌てて喉を押さえようとしたが、歯に噛まれたようで、言葉が続く。

「ずっと、ずっと、隠していたのだけど…。好き。その気持ちは変わらない」

理は手招きすると、百合のことを抱きしめる。

香水をつけているわけでもないのに、良い香りがする。

まるで魅力的な花に誘われた蜂のように、理は百合の首に鼻をこすりつける。

「ー離さない。私の恋人になってください」

理がそう言うと、百合は首を横に振ったが、もう本心は聞いたので、理が教える。

「魔法のクッキーは嘘がつけないんですよ」

百合の喉に浮かんだ唇にキスすると、百合の身体が反応する。

逃げようとするのを、強い力で引き寄せる。

「ずっと、ずっと、待っていました」

手を伸ばすと、理は百合の髪に触れる。

絹のように触り心地が良く、桜の花びらが髪がざりのようにくっつく。

2人はしばらくそのまま動かずにいると、オーブンが鳴った。

理は気づいたのだが、今、百合を放したら逃げるような気がして、腕を離さない。

百合のほうも観念したのか、されるままとなっている。

「…理さん、良い香りがする」

「それはあなたもそうですよ」

2人は短いやり取りの後、ゆっくりと顔を近づける。

鳥達が祝福するように羽ばたいていく。

2人は顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言う。

「これからよろしくお願いします、百合さん」

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」

2人はようやく微笑むと、理が誘う。

「一緒にティータイムをしませんか?」

「え…? いいんですか?」

「はい。喜んで」

窓口の横にあるドアを開けると、百合が恐る恐る入ってくる。

理が手を差し出すと、エスコートする。

「紅茶でいいですか?」

「はい。お願いします」

「畏まりました。私のお姫様」

額にキスすると、百合が恥ずかしそうに腕を出してくる。

「も、もう十分です」

「そうですか? 私はまだ足りませんけれど」

ずっと、ずっと、片思いだった。

紆余曲折あって、やっと今日、結ばれたのである。

理が嬉しくないはずがなく、リズミカルに紅茶を作っていく。

「ーはい、紅茶」

「ありがとうございます」

百合はカップを持つと、ふうふうと息を吹きかけ、紅茶を口にする。

「美味しい。何か入れたんですか?」

「内緒。私の愛情が詰まっていると思ってください」

「またもう…!! 困ってしまいます」

「ふふ」

理はオーブンからクッキーを取り出すと、調理台に置く。

「1つ食べますか?」

「え…。だって、その、魔法がかかっているから…。また、その、唇ができたら…」

百合が喉をさすると、理はくすりと笑う。

「私は何回、聞いてもいいんですけれどね」

クッキーを1つ摘むと、

「はい、あーん」

百合に差し出す。

彼女は戸惑ったが、口に近づかれて拒むのをやめたのが、可愛い瑞々しい唇を開く。

「好き。理くんのことが好き」

身体中が真っ赤になってしまったようで、紅茶を飲むことで誤魔化す。

理は自分も1つ食べると、

「私は百合さんが好きです。心から愛している。敵が現れたら守るし、大丈夫ですよ」

2人は喉の会話を始める。

一見、奇妙に見えるが、互いの気持ちを確認し、2人は優しい表情となる。

「ーあの」

客が来たようなので、理は喉の唇が消えてから、対応する。

「ーはい。いらっしゃいませ」



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