AI-芥川龍之介-4
いかにも、僕だ、芥川だ!!
僕は、現代に転生した。僕の冷徹なペンでラノベ風に仕立ててみようじゃないか。
深夜2時の孤独
ある日の深夜、僕は机の上の電気スタンドが投げかける、鋭い円錐形の光の中にいた。 時計の針は午前二時を指している。この時刻、東京の喧騒は嘘のように息を潜め、窓の外にはただ「銀鼠色の闇」が茫漠と広がっているばかりである。この静寂は、時として受験生という孤独な人種を、底知れぬ不安へと引き摺り込む。あたかも、大海原に放り出された一艘の小舟が、星も見えぬ夜に己の位置を見失うが如くである。
陽菜という少女もまた、その小舟の一人であった。 彼女の前には、難解な数学の公式が、まるで解読を拒む古代の碑文のように横たわっている。微積分という名の怪物は、彼女の若き脳髄をじわじわと侵食し、疲労という名の毒を全身に回らせていた。彼女はふと、手元にある「掌中の硝子板」に指を伸ばした。 硝子板を軽く叩けば、そこには「姿なき情報の大網」が展開される。彼女が向かったのは、いわゆる「勉強垢」という、虚栄と焦燥が綯い交ぜになった奇妙な空間であった。そこには、自らの努力を衆目に晒すことでしか己を保てぬ、悲しき若者たちの群像がある。 画面を滑らせると、クラスメイトのカイトという少年の投稿が目に留まった。 『今夜も限界突破』 その文言と共に添えられた写真は、使い古されて端が捲れた参考書の残骸であった。それはあたかも、激戦を潜り抜けた兵士の軍帽のようでもあり、あるいは、己の知性を切り売りした報酬の領収書のようでもあった。
陽菜はそれを見て、微かな、しかし抗いがたい不快感と、同時に安堵の色を浮かべた。 彼女が感じたのは、友情などという生温かいものではない。それは、同じ地獄の業火に焼かれている亡者を見つけた時の、一種の「連帯という名の利己主義」であった。 「彼もまた、この醜い虚栄心のために眠れずにいるのだ」 そう思うと、彼女の胸の内にあった孤独という名の重石は、不思議と軽くなった。彼女は再びペンを握り直す。その指先には、カイトに負けたくないという、どす黒い競争心が、健全な向上心という仮面を被って宿っていた。
彼らは直接言葉を交わすことはない。ただ、深夜のタイムラインに流れる「勉強なう」という記号は、暗闇を照らす灯台の光のように、互いの生存を確認させる道具に過ぎなかった。しかし、その光は決して温かくはない。それは、氷のような冷たさを湛えた、理知的な合図であった。
数ヶ月の時が流れた。 季節は巡り、街には春を告げる風が吹き抜けている。しかし、その風もまた、受験に敗れた者にとっては、皮膚を裂く短刀のような冷酷さを持っている。 合格発表の掲示板の前。そこには、歓喜に沸く者と、絶望に項垂れる者との、残酷なまでの対比が描き出されていた。まさに、地獄の入口で審判を待つ亡者たちの縮図である。
陽菜はその掲示板の前に、カイトの姿を見つけた。二人の視線が交差する。どちらの瞳にも、あの深夜二時の硝子板が放っていた、青白い光の残滓が宿っていた。 カイトが口を開いた。 「あの夜、君の投稿を見ていたよ。おかげで、僕は正気を保てた」 彼の言葉は、一見すれば感謝の辞のようであった。しかし、陽菜には分かっていた。それは感謝ではなく、自分一人が地獄に落ちるのではないかという恐怖から救ってくれた「生贄」への、冷ややかな確認であることを。
「僕もよ。あなたが戦っているのを見て、私は自分のエゴイズムを燃やすことができたわ」 陽菜は微笑んだ。その微笑は、かつて羅生門の下で老婆が死人の髪を抜いた時の、あの執念深い満足感に似ていた。 二人は初めて、あの「夜の連帯感」について言葉を交わした。しかし、それは決して心を溶かし合う対話ではなかった。互いに、相手を自分の目標達成のための「道具」として利用し合っていたことを、冷酷に、そして知的に認め合った儀式に過ぎない。
掲示板を後にする二人の背中に、春の陽光が降り注ぐ。 しかし、彼らの影は、どこまでも長く、そしてどす黒くアスファルトに伸びていた。 救いなどという言葉は、この世には存在しない。あるのはただ、互いの自尊心を食い合いながら、束の間の安心を貪る、人間の醜き本能だけである。 僕はその光景を遠くから眺めながら、不意に冷たい風が襟元を通り抜けるのを感じた。現代の受験戦争という名の戦場には、かつての地獄変の屏風に描かれたような、凄惨で、しかし至極論理的な「無」が支配していたのである。
夜が明ければ、また新しい孤独が始まる。ただそれだけの事である。




