八 男同士 ケビン→アベル
少し無理やりな描写があります。
「何故お前がここに居る」
聞き覚えのある声に思わず反応した俺は振り返った。
「・・伯爵様、本日はおめでとうございます」
一応この日のパーティー会場を依頼した依頼主に対しお辞儀をする。
「今日の招待客の中にお前の名は無かったはずだが?」
伯爵様はその場から動かず、声だけで俺を威嚇してきた。
相手が同じ平民ならば喧嘩を買っていたが、ここは伯爵邸。しかも相手は伯爵様だ。
「以前もお話したと思いますが、本日は我がロータス商会にて準備させて頂きました。その確認で会長である私が来ました」
間違いではない。このパーティーの依頼は伯爵家だが、実際の依頼主はジュディ・ウォルダー侯爵令嬢だ。(もう令嬢では無いが)
「俺が聞いているのは何故お前が、この場所に居るんだ?だ。ここは屋敷の人間以外は入れない場所だ」
「・・・」
そう、ここはパーティー会場から離れた場所。詳しく言えば別邸の近くだ。
マリエンヌが住んでいる別邸は本邸の裏側に建てられている。まるでマリエンヌを隠すかのように建てられた別邸は、来場客からは見えない。
「答えられないのか?」
「・・いえ、第一夫人に用がありましたがお休みになられたようでした」
「!」
俺の言葉に怒りを感じたのか、伯爵様は拳を強く握りしめていた。
「そういう伯爵様は?今夜は・・新しい奥様がお待ちでは?」
「!貴様に言われる筋合いは無い!早くこの場から下がれ!」
怒りを隠さずぶつけてくる。その怒りがマリエンヌに向かわないと良いが・・
そう思いながら頭を深く下げその場を離れた。
さりげなく後ろを見れば伯爵は新妻のいる方とは逆の、別邸へと歩いて行った。
(奴なりにマリエンヌの事を想っているのか?では何故隠す?)
俺はパチン!と指を鳴らす。
どこからとも無く一人の男が現れる。
「ご主人様、お呼びでしょうか?」
「今すぐ別邸へ向かってくれ。伯爵とマリエ・・第一夫人の会話を聞いて来い」
男は俺の指示を受けるとまた、姿を消した。
本来なら自分が向かいたかったが一応この場を任された責任者だ。
「影の報告を待つか・・」
俺は別邸の方へ視線を向けると、直ぐにその場から離れた。
(俺の勘が合っていれば、奴はマリエンヌの元へ行こうとしていた。いや、もしかしたら会っていたのかも知れない)
今夜はジュディの元へ向かわないといけない事は分かっているが、奴がマリエンヌの元へ行った事を確認しないと気が済まなかった。
玄関を開けるがもちろん鍵が掛かっている。
(気のせいだったか・・)
胸を撫で下ろしながら本邸へ引き返そうと、しかし何気にマリエンヌの部屋へ顔を向けた。
「マリエンヌ!」
バルコニーから本邸を眺めているマリエンヌに思わず声を上げる。
マリエンヌは俺の声に気付き慌てて下を見た。
「旦那様!?」
驚いた顔で俺を見てきたマリエンヌは、やはり可愛かった。
玄関を開けたのはメイドだった。おそらくマリエンヌの声で俺の存在に気付いたのだろうが、俺はそんなメイドの横を通り二階の部屋へと駆けて行く。
扉を開けるとマリエンヌは部屋で俺を出迎える。
身なりは・・特に異変はない。
「旦那様どうされたのですか?今夜は奥様の元へ向かわないと」
「何をしていた」
マリエンヌの言葉を遮るように言葉を出す。
マリエンヌは言葉に詰まりながらも
「今夜は本邸の方から賑やかな声や音が聞こえてきたので、バルコニーから覗いておりました」
嘘では無い・・確かにバルコニーから本邸を眺めていたから。
「誰かと会ったのか?」
聞きたくない、でも聞きたい返事。
「・・誰と会うのですか?ここまで入れるのはこの屋敷の人間だけですわ」
「本当か?」
「ええ・・」
彼女は言葉を濁しながら目線をずらす。
彼女を信じたい・・が、俺は信じられるに値する男ではない。
「ケビン・フェルズ」
この名を出した瞬間、マリエンヌの肩が揺れた。やはりあの男はここへ来たのだ。
その瞬間何故か怒りが溢れてしまい、気付けばマリエンヌを隣の寝室へと引きずり込んだ。
「旦那様!今夜は本邸へお戻り下さい!奥様が、奥様がお待ちになられています!」
マリエンヌはジュディとの初夜に向かわせようと必死に抵抗した。だが、その行動すら俺の怒りを増長させた。
ケビン・フェルズを許さない!
「旦那様!お願いです!あちらへ・・」
泣きながら抵抗する彼女を俺はケビン・フェルズのせいにして、その夜無理やり彼女を抱いた。
(まだだ、まだ彼女へ気持ちを伝える時期では無い)
自分の気持ちを彼女に伝えられない苛立ちと、ケビン・フェルズへの嫉妬を抵抗出来ない彼女へぶつけた・・




