ラスト ジュディ
マリエンヌ様の領地から戻られた旦那様は、あの日から人が変わってしまった。
それはとても良い方へと変わった。
今までも後継者としてカリスの事は目にかけてくれていたが、今ではまるで本当の我が子のように接している。
その余りにも真逆な変わりように、屋敷の人間をはじめ私も少し戸惑っている。
なぜなら旦那様との契約は
① 第一夫人を立てる
② 私が産んだ子には相続権は与えないが、教育はする
③ 第一夫人が産んだ子を男女関係なく後継者とする
④ 私が産んだ子は伯爵家の子として籍を入れるが、決して伯爵自ら手は出さない。
カリスが伯爵の子でない事は、私と伯爵しか知らない。そう、私は愛するカリストールの子を守るためにアベル様と契約結婚したのだ。
旦那様のマリエンヌ様への愛情は知っていたから、決して二人の邪魔をする事なくマリエンヌ様を立て、伯爵家の表の夫人として社交界にも顔を出した。
なのに・・
そのマリエンヌ様はお産の最中に命を落とされたと聞いた時胸が締め付けられた。
本邸にマリエンヌ様のお部屋も用意したのに・・
あれから二年、今日も旦那様はご自身の手でカリスへ乗馬の練習をしている。
「奥様、お手紙が届いておりますが」
「?ありがとう」
郵便屋が届ける時間より早い。少しだけ違和感を感じた私だったがその差出人を見て納得した。
ケビン・フェルズ
この男もまた旦那様と負けないくらい、マリエンヌ様への想いが強い男だった。
そう言えばケビンからの連絡はマリエンヌ様がお亡くなりになって初めてね。
マリエンヌ様がこの屋敷に住んでいる頃は、旦那様の目を盗んではマリエンヌ様へ接触し、手を掛けていたが・・
私は従僕から手紙を受け取ると人払いをし読み始めた。
ジュディ・ロースタイン様へ
まずは第一夫人になられた事、お祝い申し上げます。直接お祝いの言葉をお伝えできない事お許しください。
そして今まで連絡しなかった事お詫びいたします。
マリエンヌ様がお亡くなりになった日、私はその国を出ました。
マリエンヌ様のいない国へ何の未練も無くなったからです。
今は遠い国で商会を立ち上げ、妻と子の三人で楽しく暮らしております。
妻もジュディ様にお会いしたいと言っておりますが、とにかく遠すぎる為いつかは叶えてあげたいと思っています。
カリス様が後継者教育を受け始めたと聞きました。
ロースタイン家にとってもカリス様以上の後継者はいないと思っております。
これからも遠い国からジュディ様、カリス様のご多幸とご繁栄を願っております。
ケビン・フェルズ
マリー・フェルズ
(どうしてケビンの妻がわたくしに会いたいと願っているのかしら・・
マリー・フェルズ。
お会いした事なんて無い・・?
あの男が意味のない手紙を寄越したことなんて無いはずだわ。)
私はもう一度手紙を読み返す。きっと何か理由が・・
(妻と子・・)
あんなにマリエンヌ様へ執着していた男が、こんなにもアッサリと他の女と結婚なんてするかしら・・
マリー・フェルズ
マリー・・!!
私は震える手で口元に手を当てた・・
一番最後の文に この手紙を読まれた後は誰の目にも触れる前に、必ず処分してください。
そう、そう言うことだったのね・・
きっとこの事は三人の秘密なのでしょう。
もちろん私も今の幸せを壊すつもりなど毛頭ない。
私は最後にもう一度ケビンからの手紙を読むと、そのまま手紙と封筒を暖炉の中へ投げ込んだ。
一瞬にして灰となった手紙は跡形もなく消えた。
これで良かったのね、マリエンヌ様・・
「お母さま!僕一人でケリーに乗れました!」
私の部屋をノックも無しに入れる男はただ一人、愛する我が子だ。
「こらカリス。いくら母とは言えちゃんとノックしてから部屋へ入りなさい」
「はい父上!申し訳ありません母上!でもね、父上のおかげでケリーに乗れたんです!」
ケリーは先週のカリスの誕生日に、旦那様からいただいた仔馬だ。
「それは良かったですね!旦那様もありがとうございます」
「いや、カリスの筋がとても良いから。きっと父に似たのだろう・・」
「!父上もお上手ですもんね!」
カリスは旦那様が実の父だと信じているし、私も本当の事を伝える気はない。
見れば旦那様も嬉しそうにカリスの頭を撫ぜている。
「お茶にいたしましょう。旦那様お時間はございますか?良ければご一緒に・・」
「ああ、ではお言葉に甘えて・・カリス手を洗いに行こう」
「はい!お父様!」
カリスは全力で旦那様に甘え、そして旦那様も・・正直こんな幸せが来るとは思いもしなかった。
ただ、カリスさえ無事に産めたら・・それしか無かった。
マリエンヌ様・・マリー様も幸せですか?
私は窓から遠い遠い国に住む友人に向け、幸せを祈った。
それから二十数年後・・
私と旦那様との間に産まれた娘と、ある国の貴族令息との結婚が決まった。
その令息は父の商会の跡を継いだ若き商会長で、そのご両親とも仲良くやっていけそうだと嬉しそうに報告を受けた。
残念ながら私と旦那様は結婚式に出席出来ないが、彼はこちらの国でも式を挙げてくれた。
そしてそこには年老いた彼の母方のご両親が・・
「旦那様?」
親代わりのご夫婦見た旦那様が泣いている。
理由が分からないが相手も泣きながら頭を下げている所を見れば、その理由が分かった。
でもそれ以上何も言わない、いや言えないのです。 言うには時間が経ち過ぎていた。
「あちらのご両親に手紙を書かないとな・・娘を宜しくと・・」
いつかお会いしたいです。お互いの命が消える前に一度・・
最後までお読みいただきありがとうございました。




