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愛されない妻は夫の気持ちを理解できない  作者: おつかれナス


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二十五 アベルの過去 二

「貴方様にお父様の罪を償わせようとは思っておりません。娘が我が子のように接しておりました貴方を・・ですが」


 この場を離れなきゃ・・そう思うのに身体が思うように動かない。


「貴方様のご両親には我が子を失う悲しみを、少しでも味わっていただこうかと思います」


 男爵の言葉が終わる前に弟が俺を押さえつけた。


「なっ!はな・・せ!」

「ジル、丁寧に扱いなさい。レインの代わりにお金を運んでくる子なのだから」

「はは、本当良いタイミングで来たな?見ただろ?我が領地を。姉はな、領地を!領民を救うため再婚する予定だったんだ!」

「はな・・せ!!」


 俺は力の限り抵抗するが相手は大人、直ぐにまた押さえ込まれてしまった。


「身重の女なんて誰が引き取ると思いますか?それどころか、約束が違うと逆に賠償金を請求され・・娘は・・自分の命を代償に・・」

「姉は・・お前の父親が殺したようなもんなんだよ!イテッ!!」


 俺が子供だと油断した隙に思い切り急所を蹴った。弟は痛みで手を緩めその隙に俺は全力で屋敷から飛び出した。

 方向も道も全く分からない、でもあの場にいたらただでは済まない事を感じとにかく森へと逃げ込んだ。




 どれくらいの距離を走ったのか、どこに向かっているのか・・

 ただ俺はレインに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 物心が付いた時から側にいた人。

 俺にとっては母親よりも身近で大切な人。

 そんな人に・・よりによって父親が・・


「う・・ふぅっっ・・う、ごめ・・ごめんな・・さい。ごめんな、さい・・」


 自分のせいでは無いと分かっていても、自分の乳母にならなければ起きなかった事。

 俺はレインに謝りながらもひたすら走り続けた・・





「ねぇ、ねぇ生きてる?」


 誰かが俺の身体を揺らしている。

 お願いだからもう少し寝かせてくれ・・


「ねぇてば!あなた何でこんな所で寝ているの!?」


 あまりにしつこく起こされ、不機嫌な顔で目を開けると一人の女の子が覗き込むように俺を見ていた。

 俺は一瞬オットー男爵領の人と警戒し・・


「ここは?」

「ここ?私のお父様の領だよ!ルッツ領って言うの」

「オットーじゃなく?」

「?オットー領はとなりだよ?」


 良かった・・何とか逃げれたと安心した瞬間、また身体から力が抜けてしまった。


「貴方は誰?どうしてここで寝てたの?どこから来たの?」

「ぼ、僕は知人を探しに来たんだ!」

「・・一人で?」


 黙って頷くと


「うっそだぁぁぁ!お父様はいつも言うもの!あの森には一人で入ってはいけないって!あなた、捨てられたんでしょ!」

「へっ?」


 あまりに違う事を言った娘に一瞬呆気に取られたが、いーからいーから!と言いながら手を引かれ連れて行かれたのはルッツ領主邸だった。

 娘は屋敷に向かう間も


「時々いるの、捨てられちゃう子が・・その子たちは領内の孤児院で生活してもらうんだけど・・」

「?なっ、何?」

「あなた汚れてるから屋敷のお風呂に入れてあげるわ!」


 そう言って連れて来られたのだ。

 もちろん屋敷の人たちは驚いた。お嬢様がまた拾って来たと・・

 でも怒る人は一人もいなかった。

 娘はマリエンヌと言って、男爵家の一人娘だった。

 何だかんだでルッツ領で過ごしたのは一月程だったが、伯爵家では得られない遊びや学びをした。良く来る庭師の息子が憎たらしくて、良くマリエンヌを取り合った。

 何て名前だったかな・・あいつ。

 本当に楽しくて、帰りたくなくて、ずっとここで暮らしたいって言ったのを覚えてる。

 

 そしてそんな生活を俺に与えてくれたマリエンヌと必ず結婚するんだと誓った。


 でもそんな生活も俺を探していた王都の警備隊が、連れ戻しに来たんだ。

 ここへ来る間に通ったオットー領内が問題となり、オットー男爵家は爵位返上の上お取り潰しとなったと・・俺がもう少し大きくなってから聞かされた。




「旦那様!旦那様?大丈夫ですか?」

「ん・・何?マリエンヌ」

「申し訳ありません、ベルナールです」


 俺は飛び起きた。

 いつの間に眠ったんだ?と・・


「馬が限界だったのです・・突然走るのを止めてしまい、その勢いで旦那様は・・」


 思い出した・・そうだ、馬が突然止まりその反動で投げ出されたのだ・・


「馬は?」

「あちらに、しっかり休息を取れましたのでいつでも出発出来ますが、その前にお食事を・・」

「いただこう・・」


 馬のおかげで懐かしい夢を見れた。

 良かったのか悪かったのか分からないが、今から向かう所はあの妻のいる場所。

 手紙など信じない、彼女は必ず生きている!

 そう信じてまた馬の手綱を握った。



次回から元に戻ります

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