二十四 アベルの過去
「レイン・オットーに安らかな眠りを」
「嘘だ!!」
思わず口から出た言葉は参列者の注目を浴びた。俺は男の静止を振り払い棺の元へ駆け出す。
「君は誰だ?」
「俺はアベル!アベル・ロースタイン!レインは俺の乳母だったんだ!」
俺を引き止めに来た男と俺の前に立ち塞がったのは、オットー男爵だった。
男爵は俺たち二人を見下ろすと拳を震わせながら今にでも殴りかかりそうな形相をしていた。
「貴方様は?」
「私は坊ちゃんに頼まれて一緒に来た馬屋です。ここで静かにしておりますので・・」
男爵夫人だろう女性は男爵を宥めるように背中を摩ると、お辞儀をして神父様の元へ戻った。
神父の言葉と共にレインの棺へ土が被されていく。
なぜ?なぜレインは死んだんだ?
この環境のせいか?だったら男爵はなぜ俺を殴ろうとしたんだ?
結局俺はレインの姿を見る事もできず、ただその場で泣き続けた・・
「先ほどは申し訳ありませんでした。まさかロースタイン伯爵家のご子息が、こんな所まで来られるとは・・」
「・・なぜレインは亡くなったのですか?」
「?」
「レインは再婚するんじゃ無かったのですか?」
「・・・ここでする話ではありません。良ければ屋敷へお越しください」
俺は不安になり男にも着いてきてもらいたかったが、これ以上は巻き込まれたく無いと思ったのか・・別れを言ってきた。
「坊ちゃん、悪い事は言わない。明日にでも屋敷へ帰るんだ。あの目は・・」
「何?僕はレインが死んだ理由が知りたいだけなんだ!知れば直ぐにでも帰るよ」
「でしたらこれを、肌身離さず持っていてください」
そう言って男が渡してきたものは短剣と、巾着に入れられた金貨二枚だった。
その金貨は俺が男に渡したお金の全額だった・・
「最後に坊ちゃんと思い出が作れて幸せでした。どうか、どうか坊ちゃんも幸せになってくださいね」
その男とは二度と会う事は無かった。
俺は夫人に手を取られながら屋敷へと向かうと客室へ通された。夫人に聞くと
「ロースタイン様もお疲れでしょう。夕飯の準備が整いましたらお声を掛けさせていただきますので、それまでお休みください」
俺の言葉は聞く気もなく、言いたい事だけを言うと部屋から出て行ってしまった。
ここは夫人の言う通り呼びに来るまで休ませてもらおうとベッドへ横になると、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
目が覚めると窓の外はすでに真っ暗になっており、今が何時なのかも分からなかった。呼びに来ると言ったがその気配も無い。仕方なく俺は自分から男爵の元へ向かおうと部屋から出て、一階へと降り立った時
「あの子供は本当に何も知らずに来たのか?」
男爵では無い男の声だった。
「そうだろう・・知っていたら来ないだろう。こんな所まで」
「もし知ったらどんな顔になる?話すか?」
男爵では無い男は楽しげに言っている。俺が知ったらダメな事なのか?
「子供には酷な話よ!黙っていなさい」
「でも!言ってやりてーよ!確かに子供には罪は無い!でも、それじゃぁ姉さんが浮かばれないよ!!」
「どおゆう事ですか?僕に関係あるんですか?!」
この時の俺は本当に子供だったと思う。
あんなに殺気立ってる中に、何も考えず飛び込んだんだから・・本当にバカだった。
いないと思っていたのに突然現れた俺に、レインの弟であろう男は子供といえど格上の俺を睨みつけてきた。
「何しにここまで来たんですか?」
「だからレインに会いに・・」
「それだけですか?貴方の父親から何か言われたのではなくて?」
「お父様は関係ない!僕の意思だ!」
弟は大笑いすると だろうなぁ・・と呟いた。夫人は自身の息子を落ち着かせようとしていたが、男爵がそれを止めた。
嫌な空気になる・・
「ご子息は、ご自身の父親が娘・・レインに何をしたかご存知で?」
「あなた!」
俺は頭を横に振り
「レインは俺の乳母で、ずっと側にいてくれた。お父様もそれは知っていること・・」
「ええそうです。子爵家に嫁いだ際、無理がたたり子は死産となりました。やっと授かった子を・・」
男爵は目の前のグラスを取ると一気に中のものを飲み干した。
「子爵家もこの先レインに子が出来る可能性が低いと判断し、帰されました。何日か泣いて暮らしていたある日、伯爵家の乳母を探していると聞いた私はダメ元で娘に話しました。それがロースタイン伯爵家です」
「・・・」
「娘は自分で産めなくてもお手伝いは出来る!と、決めました。行ってから届く娘の便りはいつも貴方様の成長や我が子のように可愛いと、そんな内容のものばかりでした」
僕はレインがそんな風に家族に話してくれていた事が嬉しくて、思わず微笑んでしまった。
それがいけなかったのか・・
「娘は一生懸命だったと思います。真面目で口数も少なく・・でもそれがいけなかったのでしょう。まさか伯爵様に手籠にされていたなんて・・」
「・・・てご・・め?」
意味が分からず夫人を見れば、聞きたくないと両耳を塞ぎ泣いている。
そんな俺の態度に弟がハッキリと告げた
「お前の父親が姉の身体を好き勝手してたんだよ!分かるか?この意味!」
全身が震え出す。
あの日の出来事が頭に浮かんで・・
「突然帰ってきた娘からは、奥様が留守の夜を狙って呼ばれていたと・・行き場のない娘にとっては断れないですよね。そして事もあろうか娘のお腹には伯爵様の子がいたのです」
頭の中であの夜の母の言葉をやっと理解した。
裏切り者!
ドロボウ猫!
もともとそれが目的だったのだろう!
汚らしい!
今すぐこの屋敷から出て行け!と言った、本当の意味を・・
後一話でアベルの過去編終わります!




