二十二 ケビン→アベル
「「「マリエンヌ!!」」」
目の前でマリーが突き飛ばされた。
幸い俺が直ぐに引き寄せたため大事には至らなかったが、一歩間違えていたら大変な事になっていただろう・・
「伯爵様、たとえ娘の主人とはいえ見過ごす事は出来ません。申し訳ありませんが本日はお帰りください」
「なら奴もだろう!」
伯爵は俺を指差しながら怒鳴っている。それもそうだ、マリエンヌは俺にしがみつくように震えているのだから・・
「彼は娘の幼馴染で、以前この屋敷に出入りしていた者です」
「だが!」
「これ以上!我が屋敷で勝手な事をされては困ります」
男爵の言葉にさすがの伯爵もおとなしくなり、マリエンヌへ手を伸ばそうとしたがそれも阻まれ仕方なく玄関へと歩いて行った。
俺はマリエンヌを抱き抱えると私室へと連れて行く。マリエンヌもまさか突き飛ばされると思っておらず、かなりショックを受けている様子だ。
私室のソファーへと下ろすが震えは収まるどころか更に大きくなる。
「旦那様は、本当にこの子の事などどうでも良いとお思いなんだわ・・じゃ無ければこんな事出来るはずないもの・・」
ポロポロと涙が出ている。
俺は優しく抱きしめるとお腹に負担が来ないよう背中をさする。
「私・・王都へ、伯爵邸に帰りたくない。この子を愛してくれない人の元へ行きたくなんて無い・・」
「・・・」
この事が相当なショックだったのだろう・・この日を境にマリエンヌは部屋から一歩も出なくなった。
伯爵はマリエンヌを連れて帰ろうと何度も何度も男爵邸へ足を運んだが、マリエンヌの気持ちを汲んだ男爵が屋敷の中へ入れる事を許さなかった。
「マリエンヌに渡してください」
王都から呼ばれたのだろう、伯爵は男爵へ手紙を渡した。あの日以降会ってくれない妻へ手紙を書いたのだろう・・
「娘が受け取るかは分かりませんが、預かりましょう」
「・・よろくしお願いします」
そう言い残し伯爵は王都へと帰って行った。
自室の窓から覗いていたマリエンヌだが、その表情は晴れてはいなかった。
「挨拶しなくて良かったのか?」
一応声をかけてみた。マリエンヌは振り返りもせず頭を縦に振る。
「もう、旦那様に何の感情も湧かないの・・あの日までは、もしかしたらって気持ちがあったのかも知れない。でも今は・・」
「そうか・・」
馬車が見えなくなったのだろう、マリエンヌはソファーへ腰を下ろすと優しくお腹を摩った。
「でもこの子が産まれたら・・伯爵邸へ戻らないといけないのよね・・」
「戻りたく無いのか?」
「私が住んでいた別邸は、前伯爵夫妻が住む事になっているし・・私は本邸に部屋を用意されているとジュディ様からの手紙に書いてあったわ」
産月まで二月を切った。
産まれて直ぐに戻される事は無いだろうが、俺と男爵との関係を知った以上二度と男爵邸には帰れないだろう・・
「伯爵邸に戻りたく無いか?」
最後の確認をマリエンヌに聞く。
「戻りたく・・無い!」
「そうか・・」
俺はマリエンヌの気持ちを聞くとその足で男爵の元へ足を運んだ。
反対されるかも知れない。
それでもマリエンヌの気持ちを知れば俺の意見に耳を傾けてくれるかも知れない・・
俺は一か八かの賭けに出る事にした・・
マリエンヌに会いに男爵領まで足を運んだのに、会えたのは最初の日だけでそれ以降はマリエンヌの体調がすぐれないからと言っては門前払いされた。
俺の方が格上なのに、義父はあくまでも俺を婿として扱った。
いや、婿以下かも知れない・・
「きゃ〜、カリスダメよ!お手手が汚れるわ」
窓の外からジュディの声が聞こえ覗いて見れば、ジュディとカリス、メイド達が庭で遊んでいた。
最近のカリスはハイハイする様になり目が離せないと報告を受けた。見れば動くスピードも早くなっている。
「カリス様は日に日に健やかに成長され、先日は掴まり立ちもされたとか」
「・・・そうか」
俺の代わりにベルナールが様子を見に行っているからか、最近では俺よりもベルナールの方がカリスは懐いている。
冷たい男と思われるだろうが、貴族の主人とは何処の屋敷もこんなものだ。
後継者の教育は家庭教師を付ける。俺もそうだった・・だから両親からの愛情なども知らない。
本来なら妻も家長である父が決めるのだが、マリエンヌだけは諦められなかった。
マリエンヌさえ側に居てくれたらそれで良かった・・
それなのに彼女は俺を裏切り奴の子を・・
「まぁ良い、この屋敷に戻れば子供は家庭教師に預ければ済むことだから。奴の出入りは禁止してあるし、もう二度と過ちは起こさせない」
あれからもずっと避妊薬は飲み続けているから、誰も俺の子を宿さない。
後継にはカリスもいる、
「二度と手放しはしないよ、マリエンヌ」
ああ、早く俺の元に戻って来ておくれ。
全ての準備は整っているから・・




