二十一 父→アベル
マリーから大体の話は聞いていたが、伯爵の気持ちがここまで意固地だとは思わなかった。
伯爵が我が領地に来ると連絡がきたのもほんの数日前だ。格上の方が来る場合遅くても半月前には連絡が来るのが普通だが・・
「突然の訪問すみません。隣の領に用があったので寄らせていただきました。マリエンヌは元気でしょうか?」
「そうだったのですね、あまりに突然だったのでお迎えする準備も整っておりません。ええ、マリエンヌとお腹の子は元気に過ごしておりますよ」
少し嫌味をこめて言う。
義息子と言えど伯爵様だ、対応は間違えない。
「そうですか、マリエンヌからは何の連絡も無いので案じておりましたが、元気ならば良かった。やはりこちらに戻して正解でしたね」
応接室へ案内し対応する。伯爵、アベル様はマリエンヌが気になるのか、扉の方をチラチラと目線を彷徨わせていた。
「マリエンヌは今来ますので少しお待ちください」
「ああ、すまない」
応接室でマリエンヌが来るまでの間、アベル様にお茶をすすめた。
見る限りマリエンヌのために来た感じには見えなかったアベル様。あれほど熱望した為に嫁がせたのに、迎えに行った際の娘の姿は生きているのがやっとな程に憔悴した姿だった。
「私は間違えたのかも知れない」
マリエンヌを迎えに行き、初日のやどでのこと。マリエンヌを寝かしつけた後、私の部屋へと訪れた妻へ告げた言葉だ。
望まれて嫁げば格上でも幸せになれるだろうと、そう思い送り出したのに・・
「貴方は悪くないわ。貴方はマリーの幸せを願って決めたことなんですから」
妻にはそう言われたがマリーの姿を見ると間違いだったと思わずにはいられない。親の意地でアベル様からの旅費は断ったが、用意された宿は貴族でもなかなか泊まれない宿だ。
意地など張らずに受け取れば良かったと思いながら支払いに行けば
「宿泊代はすでに頂いておりますよ?えっ?ロースタイン伯爵?違いますよ、ロータス商会ですね」
「ロータス、商会・・」
次の日も、そのまた次の日も、結局宿泊代は全てロータス商会が前払いしていたと報告を受けた。
不思議に思いながらも何処にお礼をしたら良いか悩んでいると、最近一人の若い男が屋敷に訪れた。何処かで会った事があるその若者はケビン・フェルズと名乗った。
「もしかしてオーエンの?」
「お久しぶりで御座います旦那様。そして両親のお墓を建ててくださり感謝しかありません」
オーエンは昔、屋敷の庭師として夫婦で出入りしていた。ケビンはオーエンが流行病で亡くなる前に家を出た息子だった。
ケビンはとても礼儀正しく、そしてマリエンヌの事をとても案じている様子だった。
(彼が娘の夫だったら・・)
「お待たせ致しました。お嬢様の準備が整いました」
メイドの声で我にかえり扉の方へ目を向けると、妻に付き添われた娘が部屋へと入って来た。
その顔は、久しぶりに会う旦那へ向ける顔色では無かった・・
やっとマリエンヌに会える。
彼女を実家に戻しやく五ヶ月、体調も落ち着きそろそろ王都へ帰って来ても良い頃だと思い様子を見に来た。隣の領は言い訳に過ぎない。
義父の態度には正直不快感しかないが仕方がない、妻を見てくれているのだから・・
正直今でもマリエンヌのお腹の子を愛せる自信は無いが、そんな事を言ってしまえばマリエンヌを失う事になる。それだけは避けたい。
メイドがマリエンヌの準備が整ったと声をかけられたが、そんな準備など要らない。直ぐにでも彼女に会いたかった。のに、会った時の彼女の顔は冴えなかった。なぜだ?実家ならば心が安らかになると思って送り出したのに・・
「なぜそんな表情をしているんだ?」
会った瞬間思わず口から出てしまった。俺の言葉にマリエンヌだけでなく、男爵夫妻も驚いた顔をしている。だが仕方がない、俺にとってはマリエンヌの方が大切だ。
「こちらでは心が休まらなかったのか?だったら直ぐにでも王都へ帰ろう!」
周りの静止を振り切りマリエンヌの手を握った瞬間、俺の手を握る男の手があった。
「貴様が何故ここにいる!」
ケビン・フェルズだった。
フェルズは俺とマリエンヌの間に入るように立つと、マリエンヌを少し下がらせた。
「どけ!貴様に用は無い!それ以前に何故お前がここにいるんだ!」
気に入らない男。
マリエンヌと距離を置かせたくてここへ送ったのに、まさか俺の目を盗んで二人は・・
「伯爵様、落ち着いてください。まずここルッツ領は私の故郷でもあります。なので、俺がここにいても不思議ではありません」
「この屋敷にいる事がおかしいじゃないか!」
怒りで言葉が悪くなる。
マリエンヌは、この二人は俺の目の届かない所で会っていたのか?
「はやり、君をここに戻したのは間違いだったのだな・・」
「!旦那様!それは違います、ケビンとは「ケビンだと?」
「!!」
「ずいぶんと親しげに呼ぶんだな・・」
マリエンヌを見るとお腹を抱えている。まるで愛する人の子を守るように・・
(やはり腹の子は奴の・・!)
そう思ったと同時に俺は、マリエンヌを思い切り突き飛ばしていた。




