二十
「ケビンどうしたの?こんな遠くまで」
「もちろんマリーに会いに来たんだよ?それからついでに両親の墓参りにね」
「そう・・」
ケビンの両親は今から十年前に流行った病で立て続けに亡くなった。その事が原因でケビンはルッツ領から居なくなったのだ・・
「もう、会って来たの?」
「・・はい。神父様から聞きました。ありがとうございます、両親の為にお墓を・・」
「お礼ならお父様に直接伝えて?お父様の意思だから」
そう言うとケビンは優しく微笑んだ。
ケビンは私がずっとお腹を摩っているからか、お腹の膨らみに気が付いた。
「お腹、目立ってきたね」
「ええ、最近は良くお腹の中から蹴ってくるのよ。痛いけど成長がわかるから嬉しくて」
「マリーもお腹の子も元気そうで安心したよ。ジュディ様も心配してたから、また手紙を・・で思い出した!ジュディ様から預かってきたんだ、手紙」
そう言うと後ろで控えている男性に合図を送った。男性は懐から手紙を出すとケビンへと渡した。
「この手紙を受け取るのにもの凄く大変だったんだからな!感謝して読むんだぞ!」
そう言って差し出してきた封筒には、間違いなくジュディ様の判が押してあった。
私はその手紙を受け取ると封を開け読み始めた。始めは季節の挨拶、そして息子のカリス様の事が書かれていた。
「カリス様も大きくなられたのでしょうね」
「ええ、今では一人で座られて遊ぶようになられましたよ。この前は遊びに夢中になり過ぎて、そのまま寝ていたとか」
カリス様には直接お会い出来ないままこちらへ来てしまったから、その事が心残りだった。
その後も手紙を読み進めると・・
「マリーどうした?」
ジュディ様のからの手紙のある一節に思い出したくない事が思い出された。そんな私の異変に気付いたケビンは一番に声を掛けてきた。
「旦那様が・・」
「ロースタイン伯爵がどうした?」
私は口に出す事も辛くなり、ジュディ様からの手紙をそのままケビンへと渡した。
ケビンは始め抵抗したが、私があまりにもしつこくしたからか手紙を受け取り読み始めた。
「旦那さまが・・」
「出産まではこちらで過ごす事になっていると聞いたが・・?」
私は震えながら頷く。
ジュディ様からの手紙にはこう書いてあった。
[旦那様が急きょマリエンヌ様を迎えに行くと言い出しております。わたくしも従者も止めておりますが旦那様の意思は固く、今取り込んでいる仕事が終わり次第そちらへ向かうと言われました。ケビンも伯爵邸への出入りを禁じられ、マリエンヌ様のお部屋も本邸の方に準備が整い、別邸は前伯爵夫妻が住まわれるとの事です。あまりに急な事で連絡も出来ず申し訳ありません]
との内容だった。
「ケビンは伯爵邸への出入りを禁止されたの?私のせいで?」
「マリーのせいでは無いよ。もともと俺は気に入られていなかったから・・それだけだよ」
「でも・・」
旦那様から言われた言葉が蘇る。
正真正銘お腹の子は旦那様の子なのに、最後までケビンとの仲を疑われ自分の子だと信じてもらえなかった。
私の子だから愛す
私が聞きたい言葉はそれでは無い。
信じて欲しかった。
喜んで欲しかった。
それだけなのに、信じてもらえない事がとても悲しくて辛かった。
「この子が旦那様に似てなかったら?本当にこの子を愛してくださるのでしょうか・・」
私はお腹の子を守るように抱きしめる。思い出したくなくて蓋をした感情が出てくる・・
「旦那様が私を連れ戻しに来てしまう・・ケビン、どうしよう・・」
「マリー・・」
「産まれたら戻る覚悟はしていたの。この子が旦那様に似ていたら旦那様も信じてくれるって・・」
あの時の旦那様の顔と声、言葉がフラッシュバックしてくる。
「旦那様は・・どうして私の事を第一夫人にしたのかな・・愛人・・もしくは第二夫人ならわかるけど、なぜ・・」
ジュディ様との結婚話のが先だったと聞いた。それなのに急いで私との結婚を急かしたのは何故?
「旦那様の気持ちがわからない・・」
せっかく王都からケビンが来てくれたのに、私の気分が優れなくなった事でお開きとなった。
ケビンは私を部屋まで送るとき
「せっかくだからマリーが出産するまで男爵領に滞在するよ。隣の領にも用があるし、だからまた顔をだすから」
「だったらこの屋敷に滞在したら?」
私の言葉にケビンの顔が青くなる。
「平民の俺が男爵様の屋敷に滞在など出来ないよ!それに、もし伯爵様と鉢合わせなんてしたら・・」
「・・それは、そうね」
「近くに滞在用の屋敷を購入したから、マリーに何かあれば直ぐに顔を出すから心配しないで」
ケビンはそう言い残すと去って行った。
「マリエンヌ様、何かございましたか?フェルズ卿とお会いしたのに顔色が優れません」
横になる準備をしていたリズが心配そうに言葉をかけてきた。
私はジュディ様からの手紙の内容をかいつまんで話すと、リズもまた顔色を悪くしながら驚いた。
「大丈夫ですよ!今回は男爵様もご母堂様もいらっしゃいます!もちろん私もいます!マリエンヌ様お一人ではありませんから!」
そう言うリズもあの時を思い出したのか、手が震えていたが一生懸命に私を励ましてくれた。
「そうね、私は一人じゃ無いものね!ありがとうリズ。やっぱり貴女がいてくれて一番嬉しいわ」
そう、今回は私一人では無い。
そう思うと旦那様と会うのも怖くない。
と、思っていたのに・・心の準備が整う前に旦那様は王都より来てしまった。




