二
お風呂を済ませ部屋へ戻るとテーブルの上には朝食?の準備がされていた。
椅子へ腰掛けると温かいお茶が目の前に出される。
「奥様、本日より奥様の専属メイドとなります リズ でございます」
「よろしくお願い致します奥様。リズと申します」
リズと言われたメイドは私と同じか少し上な感じがする、おとなしそうな女性だった。
「よろしくお願いしますリズ。マリエンヌですわ」
奥様と呼ばれてはいるが形だけの妻である私に専属を付けてもらえるとは思っていなかった。
初夜の日以降、旦那様が私の私室へ来ることは無かった。
聞いても「王城へ行かれました」「領地に問題が起き忙しい」と、会う事さえ許されなかった。
私自身も奥様と呼ばれてはいるが、実際に奥様としての仕事を任される事もなく部屋へ閉じ込められている状態だった。
「マリエンヌ様、今日はお庭を散歩しませんか?お天気も良いですし」
毎日部屋に閉じこもっている私を見かねてリズが声をかけてきた。
リズには 奥様 呼びは止めてもらった。奥様としての役割も果たしていないのにそう呼ばれたく無かったからだ。
「でも・・部屋から出ても良いのかしら?」
「えっ?ダメなんですか?私はそんな事聞いておりませんが・・」
確かに言われていない。
そうして私はリズを伴い久しぶりに屋敷から出て、庭園へと足を運んだ。
この屋敷に来てもう直ぐ三ヶ月になろうとした時期だった・・
私は久しぶりに外を歩いた嬉しさから、屋敷から離れた所まで来てしまっていた。
そこはどうやらメイド達の休憩場だったようで・・
「マリエンヌ様、この先はメイド達がおりますので引き返しましょう」
とリズが声をかけてきた。その瞬間、
「それにしても(仮)奥様も不憫な方よねー」
一人のメイドの声が聞こえた。
私の事だと直ぐにわかり、リズを黙らせた。
「なにが?」
「あらアンタ知らないの?表のメイド達から聞いたんだけど・・」
「それ私も聞いたよ!てか今(仮)奥様の部屋を移動する準備をしているのでしょ?」
[えっ?何の話をしているの?]
慌てて後ろを振り向くも、リズも驚いた顔をしている。
「リズさんも可哀想に・・メイド長に睨まれて奥様付きにされたのでしょう?何をしたのかしらね?」
「それよりも何?奥様本邸から出されるの?」
「そうそう、だって旦那様来週には侯爵家のご令嬢を第二夫人として娶られるって・・」
「えっ?侯爵令嬢が第二夫人なの???」
「「「そりゃ奥様出される訳だよー」」」
メイド達の笑い声に気分が悪くなってしまった。
そんな私にリズは優しく抱きしめてくれ、静かに部屋へと連れて行ってくれた。
「リズ・・お願いがあるの・・」
「はいマリエンヌ様。詳しい話を聞いてまいりますわ!ですので、ゆっくり休んでくださいね」
リズは私をソファーに座らせると手早くお茶を淹れ部屋から出ていった。
私はリズが淹れてくれたお茶を一口飲む。
リズのお茶はいつも美味しい。のに・・今日のお茶は何故か塩の味がした。
リズが戻って来たのは夕食の時間だった。
ワゴンからテーブルにお皿を並べていたが、その手は震えていた。
「リズ、あのメイド達が話していたことは本当の事なのね?」
「・・・はい。マリエンヌ様・・」
「・・明日にでもこの部屋から追い出されるのかしら・・」
リズは悔しそうに泣いている。
きっと何か言われたのだろう・・
「リズは付いてきてくれるの?」
私の言葉に顔を上げたリズは、迷う事なく一言
「もちろんですわ!」
と、答えてくれた。
それで充分。たった一人で別宅に行かされると思っていたけれどリズも一緒に来てくれる。
「ありがとうリズ。これからもよろしくね!」
湯浴みを済ませた後リズを下がらせた。リズも本邸を、出る準備が必要だと思ったし、明日には別宅へ移動となるため、もしかしたら旦那様が今夜訪れるかも知れないと思ったから。
初夜の日以来開かない扉。
今夜ぐらい来て欲しいわ・・
そう思いながら旦那様の自室へ繋がる扉を見る。
動かない扉のノブ。どれくらいの時間が過ぎたのだろうか、諦めてランプの火を消そうとした時 ガチャ とノブが動いた。
「起きていたのか・・」
「だんな様」
「・・・」
何か言いたそうにしていた旦那様をソファーへ座るようすすめ、私はその向かい側へ腰を下ろした。
きっと侯爵令嬢との事だろう・・と旦那様からの言葉を待つと、
「君には済まないが明日からは別邸へ移ってもらう事になった」
「・・訳を聞いても?」
「君には本邸での暮らしは退屈だろう?君のために建てたから住みやすいはずだ。この部屋の物は全て運ばせる。他に必要な物があれば言ってくれ」
そう言い終わると旦那様は私の手を引いた。
この人は令嬢の事を話すつもりは無いのかしら?
「私も旦那様に聞きたい事がございます。私をこの部屋から追い出して、どなたを住まわせるのですか?」
旦那様の目を真っ直ぐ見つめる。
旦那様も私の目を見てくる。
「誰から聞いた・・」
「誰からも・・ですが、本当なのですね・・」
「誰から聞いたと言っている!」
「・・誰からも・・いえ、この伯爵邸で知らない者はおりません!なぜ黙っておられたのですか?」
「・・・」
「侯爵家のご令嬢と決まっていたのですよね?だから、私との子供を作らないと・・」
初夜で言われた言葉を思い出し、旦那様の手を振り払った。
旦那様は一瞬驚いた顔をしたが次の瞬間、私を抱き上げるとベッドへと運んだ。
「侯爵家からの縁談が来る前に君との結婚は決まっていた。相手もそれを承知で嫁いで来るんだ」
「ですが侯爵令嬢です。私は後ろ盾も無い男爵令嬢です!誰が聞いても侯爵令嬢が第二夫人なんてあり得ません!」
ベッドに押し倒されたが言葉を止めない。
「今からでも遅くはありません。旦那様、私と離縁してください・・」
最後まで言う前に唇を塞がれてしまい、それ以上は言葉を発することは出来なかった・・




