十九
「マリエンヌ!こんなにも痩せてしまって・・」
「お母さま・・」
ジュディ様が男の子を産んだ日から五日後、私の両親が領地から私を迎えに来てくれた。
ジュディ様が旦那様に進言してくれたのだろう、ある日旦那様がジュディ様が男の子を産んだと報告をしに別邸へと来た。
私はまた何か言われるのでは無いか!とビクビクしていたが、その日の旦那様はどこか落ち着いていて
「産まれるまで実家に帰るか?」
と言って来た。
「宜しいのですか?」
旦那様は私を見つめると手を握ってきた。
私は反射的に振り払おうとしたが、握られた手は力強く振り払えなかった。
「君を疑った事は謝罪する。だが正直まだ信用は出来ない・・すまない」
「・・・」
「でも父親が誰でも、この子の母はマリエンヌだ。だったら私は愛せるだろう」
「・・旦那様はどうして私を娶ったのですか・・私など娶らずジュディ様を第一夫人としてお迎えになっていれば、私はこんなにも・・」「だから奴と通じたと!?」
私は驚いて言葉を失う。
旦那様は怒りを含んだ目で私を見てくる。
ああ、この方は一生私とケビンの仲を疑っていくのだろう。お腹の子をケビンの子だと信じて・・
「俺がなぜ君を第一夫人として迎えたか?君を想っているからだ、それ以外に理由が?」
私は旦那様の手を振り解き、頭を横に振る。
「私は旦那様に想われるような記憶がありません!」
「憶えていないだけだよ、まだ小さかったからな・・
俺は君に救われたんだ」
「?」
旦那様はそう言うと、産まれた後に話すよと部屋から出て行った。
私と旦那様が会ったことがある?
でも、もうどちらでも良い。いくら私の事を想ってくれたとしても、私を信じてくれない人とは一緒に生活は出来ない。
そうして私は旦那様の提案を受け入れた。
全てケビンの言う通りに・・
「それでは伯爵様、娘を連れて帰ります。産まれましたら直ぐに手紙を差し上げますので」
「よろしく頼みます、義父上」
旦那様はお父様に挨拶をすると、馬車に乗り込んだ私へと目線を変えた。
私は旦那様の視線に気付きながらも気分が悪いフリをして、目線が合わないように目を伏せた。
ゆっくりと馬車は進み気付けば伯爵邸も見えなくなっていく。
お母さまは私に横になるよう勧めるが心のどこかで安堵している自分がいて驚いた。
伯爵様に嫁いで二年。
「幸せだった?」
「え?」
急にお母さまに問いかけられ答えに詰まる。
幸せだったのかしら?
自由も無く、別邸に閉じ込められ、会えるのも決まった人とだけ・・
「幸せだったのかなぁ、私」
もう見えなくなった伯爵邸の方角を見続ける。
「息苦しかったのかも、知れませんね」
「・・そう、今まで頑張ったわね。屋敷に着いたらゆっくり休みましょう」
「はい、お母さま」
そうして私を乗せた馬車は王都から離れて行った。
通常なら二日もあれば着く領地だが、私の体調を見ながらの移動だったので五日も掛かってしまった。旅費も四倍掛かったことに謝ると
「実はロータス商会の会長さんから宿泊券が送られてきてね、今回の宿泊代はすでに支払われていたんだよ。マリーはロータス商会の会長と知り合いなのかい?」
ケビンが先回りしていた事を知り、胸が熱くなる。お父様は旦那様からの好意を受け取らなかったと聞いた。娘の私がこうなった原因を作った人からは受け取れないと言って・・
でもお父様はケビンの事を忘れている様だから、あえて言う必要もないか。
「ロータス会長は旦那様とジュディ様との結婚パーティーを依頼された商会で、その後もジュディ様との縁で私にも良くしてくださっているの」
「・・それだけ?」
お父様は勘が良い。
きっと嘘も直ぐにバレてしまう・・
「実は・・今回の事はジュディ様が旦那様に進言してくださったの。だからきっと、ジュディ様が会長に手を回してくださったのだと思うわ」
お父様は半分疑い、半分信じたような顔をしながら私を部屋へと送ってくれた。
私について来たリズの部屋も、私の世話がしやすいように同じ階に用意してくれた。
「誠心誠意、真心込めてマリエンヌ様のお世話を致します!!」
部屋に案内された後に屋敷の者たちとの顔合わせで、リズは自己紹介の前にこう言ったと教えてくれた。私としては今まで通りでも充分だと伝えた。
季節が一つ過ぎた頃には私の体重も順調に増え、心なしかお腹も膨らんできたように感じる。
最初お腹の中で空気がポンポンと弾ける感じがした時、これが赤ちゃんからのメッセージだよ!と知り感動した。
今ではハッキリ力強く蹴ってくるから痛いくらいだが、ちゃんと育ってくれていると思うとその痛みすら愛おしく感じた。
「早く会いたいわ。男の子かしら、女の子かしら。どちらでも良いわ、元気に産まれて来てくれれば」
最近はお腹を撫でながら優しく語りかけるようにしている。リズが仲良くなった年長のメイドから聞いた話で、お腹の子はお母さんの声を聞き分けるそうで話し掛ければ産まれた後も楽なのだとか。
「ルルルルル〜」
と鼻歌も聞かせちゃう。
「マリエンヌ様、お客様がお見えです。お通ししても宜しいでしょうか」
「えっ?予定あったかしら?お母さまは?」
「奥様は街まで買い物に行かれておりまして・・」
「分かりました、後押ししてください」
誰かわからないが怪しい人なら門番が追い返しているだろうし、リズも何も言って来ないところを見ると大丈夫だろう。
「ご無沙汰してますおりますロースタイン伯爵家第一夫人様」
「!ケビン!!」
少しして部屋に入って来たのは知らないどころかお世話になりっぱなしの人だった。




