氷
扇風機の風が少し生ぬるい。
いつもなら心地いいはずのトラの体温が、今日はちょっと暑く感じて
そっと押して距離を取った。
トラはちらりとこちらを見たけど、そのままお腹を上にして寝ている。
やっぱり暑いんだよね、トラ。
氷水でもあげたほうがいいのかな。
僕はおじさんに声をかけた。
「ねえ、おじさん。
トラに氷水あげてもいい?」
庭の木に水をやっていたおじさんは、ホースを止めて僕のほうに近づいてきた。
「うーん、トラには氷水はやめたほうがいいな。
お腹があまり強くないからね。
どんなに暑くても体温くらいの水がいいんだ。」
僕は少し驚いた。
「暑いのに?」
おじさんは僕の頭を軽く撫でて答える。
「うん、猫と人間は体が違うから。
人間が食べられるものでも、猫には良くないものがたくさんあるんだよ。」
僕はトラの横に寝転んで、そっと囁いた。
「トラ、何がいいかな。
欲しいものがあったら教えてよ。」
トラは寝たまま、両手をぐいと伸ばしてきて、僕の胸にぽすんと置いた。
暑くても、やっぱりくっついていたいみたいだった。