表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お気軽ショートショート

『理想の人類』

「みんな、図鑑のホモ・サピエンスのページ、開いてー!」


未来の初等教育センター、歴史科の授業。

子どもたちが一斉にページをめくると、そこには勇ましい生物のイラストが載っていた。


「うわー、やっぱカッコいいよなあ!旧人類!」


「すっげぇ! この二本の呼吸管から潮吹くんでしょ?」


「この手、見てよ! 水かきと爪! もう完全に海の王者じゃん!」


図鑑に描かれた「ホモ・サピエンス」は、どこからどう見ても海洋生物だった。

頭の上に二本の管、顔の中央に単眼、大きな口には魚を咥えたまま、波を割って飛び出している。

水かきのついた両腕を広げ、背景には雷鳴と荒波。

迫力満点である。


そんな中、一人の子どもがぽつりと呟いた。


「でも……残念だよなあ。最新の発表、見た?」


* * *


未来科学博物館、ホモ・サピエンス展示ホール。


ホール中央には骨格標本が鎮座し、その横のスクリーンに「最新の復元図」と記されている。

そこに映し出されたのは──


妙に平べったい顔、頭頂部に局所的な体毛。

左右に目があり、中央に鼻。口は小さく一文字に閉じている。

なぜか身体には布を巻きつけ、手には平たい板のようなものを持っていた。


「……なにこれ?」


「かっこよくない……」


「頭の毛、なんかバランス悪くない?」


「ぜんっぜん強そうじゃない」


ざわつく観覧者たちの中、館内放送が穏やかな声で語り始めた。


「ホモ・サピエンス──それはかつて地球上で大繁栄した陸上哺乳類です。最新の研究により、従来の“海洋説”は否定されました」


スクリーンが切り替わり、CGの再現映像が始まる。

人型の生物が、板のようなものを構えている。


「この道具は“スマートフォン”と呼ばれ、彼らの生活には不可欠でした」


場面が切り替わる。ある個体が、別の個体の発言に対して激昂している。


「また、彼らは気に入らない発言をした個体を見つけると──」


CGの人間が、板を振りかざして殴りかかる。


「──このように“叩く”行為を繰り返しました。これを“炎上”と呼びます」


しばしの沈黙の後、どこからともなく、誰かが呟いた。


「やっぱ……初期復元のほうが、夢あったよな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ