うんこ先生
僕の担任の加瀬先生の頭はうんこの形をしている。
うんこの形の髪型をしているというわけではなく頭の形が立派なとぐろを巻いたうんこなのだ。
だからみんな親しみを込めてうんこ先生と呼んでいる。
先生は病院に頭を調べに行くと、見た目はうんこだが中身に問題無いと言われてほっとしたようだ。
インドには体が木のようになる病気があるそうだが、そういう珍しい病気は症例が少なく研究が進まないので先生の頭も治るのはかなり先の話なのかもしれなかった。
どうしてこんな頭になったのか本人はよくわからないと言っていたが、帰宅すると新聞を穴が開くまで読み録画したワイドショーをアイロンを掛けながら見ると言ってたので僕はそれが原因なのではないかと思った。
僕のクラスではうんこ先生は人気者だが、心ない生徒は先生を見てうんこ頭とか、うんことか言ってバカにしたりする。
僕は怒った方がいいんじゃないかと先生に言うが、本当の事だからしょうがない。それに今はいろいろ問題があるので強くは言えないんだよとたしなめられた。
うんこ先生もうんこ頭も大して言ってることは変わらない。ただ親しみをこめて言うか悪意があるかの違いでしかないんだと僕は思った。
先生はよく授業中に面白いことを投げかけてくる。
この前はうんこ味のソフトクリームとソフトクリーム味のうんこ、食べなければならないとしたらどっちというものだった。
クラスのみんなはソフトクリーム味のうんこがいいと手を挙げたが、僕だけはうんこ味のソフトクリームを選んだ。
見た目がうんこでも目をつぶって食べたらソフトクリーム味なんだからそっちの方が美味しいに決まってるとクラス一丸になって言ってくるので僕は反論した。
「ソフトクリーム味でも実際はうんこなんだから何百兆の細菌や細菌の死骸がおなかの中に入って病気になったり下手したら死ぬこともあるんだ」
僕は勝ったと思った。
その発想はなかったわという顔をしてみんな黙りこんでしまった。
僕は調子に乗って「苦いのさえ我慢すればそれはソフトクリームなんだから何も問題ないんだ」と言うとみんな顔を見合わせて言った。
「苦い?」
先生はとても感動してくれて、僕を褒めてくれた。間違ってないと思ったら自分の意見を貫くのが大切なことなんだと纏めて授業を終えた。
次の日から僕のあだ名はうんこイーターになった。
僕は職員室に行き先生に文句を言いに行った。先生が授業中に余計な事をやりだしたから僕のあだ名はうんこイーターになったんだと怒った。
科目の内容にもっと集中してくださいと他の先生もいたので聞こえるように大きな声で言った。
あの時の先生の決まりの悪そうな顔を、僕は今でも忘れられない。
卒業して二十年たった。まだ先生は教員をしているというので菓子折りを持って当時の事を謝りに言った。
「そんなことあったか?」と先生は素っ気なく言ったが本当かどうか僕にはわからない。
先生のうんこ頭は加齢で白くなりふわふわに柔らかくなっていた。
今担当しているクラスの生徒からはソフトクリーム先生と呼ばれているそうだ。
おわり