初めて叱ってくれた人
「その頬はどうやって説明するつもりですか?」
とうまが聞いてきた。
まだ少しヒリヒリする頬を撫でながら「ぶつけたわとでも言いますわ」と返す。
今日から護衛してくれるクロメさんに昨日叩かれた。
護れるか試しただけだった。が、それがいけなかったよう。
使用人の命は主のために捧げるもの、そう思っていた。
だから、自分を護れるのかを試すために使用人を使った。
護れないなら意味がない。使用人も護衛も。誰一人、私を護れそうになかった。
一人目は、屈強な男性だった。だけど、彼は逃げ出した。
どんなに素晴らしい身体でも、所詮見た目だけだった。
そこから、私は試すようになった。
二人目と三人目の護衛候補は、銃を使える人だった。二人目は、窓が割れると悲鳴を上げ、銃を乱射。逆に危なくなった。もう一人の方は、果敢に外に出て、使用人と相打ちになった。使用人と同じくらいの弱さなんていらない。
何人やっても何回やってもだめだった。
すると、お祖父様が、「私の知り合いに、護衛も受けてくれる組織がある。彼らの本業は殺しだが相談するかい?」と提案してくれた。
もう誰でもいい。殺し屋と言っても、所詮名ばかりであろう。
その護衛に期待はしない。どうせ逃げる。
そう思っていた。
いつも通り、合図を送る。
窓が割れた。
さぁ、あなたはどうするの?クロメさん。
逃げるの?それとも動けなくなるかしら?
見た目的に私と同い年か少し上。怖くて泣いちゃうかしら?
そんなことを考えてたのに、彼女は素早く指示を出した。
「ショウハは執事さんを、ツキサは桃華嬢を、ボスは屋敷の人を!」
逃げるわけでもない。冷静に指示を出し、動いた。
いや、まだわからない。
部下であろう人たちに押し付け、自分だけ逃げ出したかもしれない。
「桃華お嬢様、私から離れないでくださいね」
ウサギの仮面をつけているツキサさんがそう言ってきた。
ここまで真剣である彼女やもう一人の様子を見ると、クロメさんはそうとう信頼されてるのかもしれない。
だが、逃げたかもしれないと考えると笑いが込み上げてくる。
「ふふっ」
やっぱりクロメさんも今までの人たちと変わらなかったのかもしれない。
が、彼女は戻ってきた。使用人も連れて。
こんなことは初めてだった。
「クロメ様っ!よくぞご無事で!」
話が入ってこない。
「それはないよ。感覚的にだけど。」
彼女にバレたの?なぜ?
「え?だって…今日、お嬢様は狙われたから打たれたんですよ。今回は警告だけだったからこの程度で…」
あぁ、もう駄目ねと察した。
「いいや、彼女は今日、狙われたフリをしたんだよ。だって、今日がDOGAの仕業ならもっとひどいはず。なんだったら、執事さんが死んでるかもしてない。…それにこの男、弱すぎるし、ずっと桃華嬢に弾が当たってないか心配してるし。多分、使用人の一人でしょ。ね、お嬢様?」
「ふふっ、そこまでお見通しなんて流石ですわね。」
「今回はウチらを試しただけかな?」
「ええ、そうよ。こんな子供がどれくらいすごいのか、ちゃんと私を守れるのか」
「……それは今まであなたを護れなかった人にもやったの?」
「もちろんですわ。桜樹家の一人娘である私を護れないなんて、護衛の意味がありませんもの」
全て言った。彼女はなんというだろうか?
「…そうか」
ただ一言だけだった。
その瞬間。
_バチンッ!
「なっ、何やってんだ!クロメ!!」
叩かれた。なんで?
疑問がいっぱいだった。
「この男はお前に弾が当たってないか心配して動けずにいた。もし、こいつが本気で殺されていたらどうするんだっ!もし、お前に当たって死んでたらこいつは刑務所行きだぞ!」
涙が出てきた。
痛いから?怒られているから?
「それに何人か死んでいるんだろ、死ぬまでいかなくても大怪我してるな。試したことにより。…じゃなかったら、こいつはこんなに怯えていない。」
何人死んだかなんて考えたこともなかった。
そんな彼女は使用人に、
「言ったろ、お前は殺せない。だから、もう泣くな。」
使用人は「ありがどぉ…」と言っていた。
クロメさんは使用人に優しそうな表情をしていた。
「お前は知らないだろ?知らないから試したんだろ?誰もがお前のために命を差し出すと思うな。こいつのみたいに恐れるやつもいる。お前に命を捧げれないやつもいるんだよ!他の人の命を使ってまで試すな!!」
胸ぐらを掴まれ、クロメさんは怒ってきた。
あぁ、なにか間違ってたのかも。そう思えた。
「これに懲りたら、もうこんなことはするな。当たり前だが、死んだ人は戻らない。また使用人の命をかけるようなことをしたら…」
クロメさんは一度止まって、
「護衛とか関係なく殺す」
と言った。冷たい目をしていた。
仮面越しでもわかる。
そんな目で見られたのも、誰かに怒られたのも初めてだった。
いつの間にか涙は止まった。
私は「はい」と頷いた。
初めて怒られた。
間違っているであろうことを。
お嬢様としてじゃなく、彼女はきっと桃華として正してくれたのだろう。
初めて桃華として見てもらえた、嬉しかった。
これから彼女が護衛をしてくれる。
あぁ、とっても会うのが、
「楽しみですわね。」




