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生死の境
わたしは向こうに逝きたいのです
光と熱の灼熱が滾る世界で
燃やされ焦がされ
争いと人が生んだ
故郷に落とされた
負の地獄だったとしても
あそこに
わたしの家族がいるのです
父と母と兄と姉二人、弟と一番幼い妹がいるのです
学校の先生や友だち教室のみんな
近所のおじさんおばさん
どこかですれ違ったかもしれない人たち
みんなあそこにいるのです
みんなあそこにあるのです
あそこは
わたしの生まれ育った
唯一の故郷なのです
思い出がたくさん
つまっているのです
わたしだけ本当に
遠い場所にいたのです
遠い親戚に用事があって
たまたま離れていたから
だから
わたしはたった一人
生き残ったのです
「いやだ、みんな置いていかないで!」
だというのに
この薄っぺらな壁が
何もかも遮断して
見ているだけ
家族や大切な人たちが
苦しむ姿だけを
繰り返し見ているのです
見ていることしかできないのです
わたしも地獄に落ちて
一緒に苦しみますから
どうか壁の向こうに逝かせてください
この薄っぺらな壁さえなければ!
何度殴りつけても蹴りつけても
何度身体ごとぶつかっても
決して罅が入ることはおろか
壁が消えることはありませんでした
それが──生死の境
そして苦しむ中でも
全員がわたしを見ながら告げるのです
声がなくても分かります
『あなたは生きなさい』と
……
……
……
これほどの無情がありましょうか




