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夢境
"永久の夢 眠りの真底に宿る 夢幻人"
肉体も感情も記憶も魂も
一切を取り込み
自らを喰らい核と成す
決して明けぬ夜を
決して醒めぬ夢を
叶わぬ願いを叶え
理想を実現に 不幸を幸福に
怒気を笑顔に 悲しみを喜びに
憎悪から復讐を果たし
愛しい人と再会し
不死の病から健康となり
凡人が叡智を宿し偉人に
勇者が負けて魔王となり
そこに降りた者たちの
意識に寄り添い 少しずつ喰らい
自らの意識の一部に
幾重にも幾重にも
幾層にも幾層にも
幾万の人々の夢を
紡ぎ 編み 彩なし
世界を形成していく
実在しないようで実在して
触れられるようで触れられない
実に曖昧である
そこを憶えている者は
とても居心地のいい場所として
意識の底に"世界"の欠片を宿す
そこはいつからか
こう呼ばれるようになった
──『夢境』と
"常に壊れ 常に再生される 夢幻と覚醒の境"
その始まりが
たった一人の人間の
現実逃避からきた昏睡だと
誰も知らない
その者は現実世界で
病院の寝台の上で
決して醒めぬ夢を見ながら
静かに眠り続けている