地獄の公爵と、少年の奇妙な友情
僕の名前は健太、小学校で使う彫刻刀を探しに家の物置に入ると、そこで、古びた召喚の書を見つけたんだ。
「これ、本当に使えるのかな?」好奇心で呪文を唱えると、炎とともに現れたのは、地獄の悪魔公爵ヴァルザークだった。
「人間の子供よ、何の用だ?魂でも差し出すか?」
「え?いや、そんなつもりじゃなくて…。ええと、そう、暇だから一緒にゲームでもしない?」
ヴァルザークは困惑した表情を浮かべた、でも、少し考えた後、ニヤリと笑って頷いた。
いまなら分かる、きっとヴァルザークも、誰かと遊びたくなったんだって。
「では、契約だ。だがゲームを選ぶのは私だ。何がいい……ああ、これだ!」
召喚したのは、地獄特製のすごろくセットだった。
このすごろくゲームから、僕とヴァルザークの奇妙な友情は始まったんだ。
—☆—
ヴァルザークが説明を始めた。
「恐れるが良い…このすごろくには、普通のすごろくとは違う特別なルールがあるぞ。サイコロを振り、マスに止まるとミッションが課される。そのミッションを成功させれば前進、失敗すれば罰ゲームだ。ゴールした者が勝利し、敗者は相手の言うことを一つ聞かねばならない」
「罰ゲームって何?」と僕が恐る恐る聞くと。
「ふむ、人間の子供なら……唐辛子を10本丸かじり、だな」
「地獄の刑罰かるっ!」
そうして、僕とヴァルザークのすごろく勝負は始まったんだ
1ターン目、僕が最初のサイコロを振った
「5!」
止まったマスにはこう書いてあった
”数学問題:72×5=? 制限時間30秒”
「えーっと、72×5……ニゴジュウ…シチゴ…あ、360!」
「クックック…正解だ。なかなかやるな、人間の子供よ」
ヴァルザークが感心して拍手を送る。次はヴァルザークの番だ。
「いくぞ!」
彼が振ったサイコロは「6」。止まったマスにはこう書かれていた
”日本の学校給食を食べてみよう”
「給食とはなんだ?地獄では聞いたことがないな……」
召喚された給食のトレイを手に取り、ヴァルザークは慎重にひじきを口に運んだ。
「……うむ、意外と悪くないな」
—☆—
中盤に差し掛かり、僕が止まったマスには世にも恐ろしい指令が待っていた。
”地獄のカラオケで90点以上を取れ”
健太は地獄のカラオケマシンの前に立たされた。
「これ、ぜんぶデスメタルだ」
一方、ヴァルザークも苦戦。彼が止まったマスにはこう書かれていた。
”人間の子供の手伝いをする:宿題サポート”
「なぜ私がこんなことを……」と嘆きつつも、意外と算数の説明が上手いヴァルザーク。少し、お父さんみたいだなって思った。
—☆—
ゴール目前、僕とヴァルザークはほぼ同じ位置にいた。最後のミッションは、お互いに挑戦し合う内容だった。
健太の指令は、
”地獄の伝説料理を完食せよ”
ヴァルザークが召喚した料理は、明らかに湯気が黒いし。ピーマンとニンジンがゴロゴロ入っていた
「こんなの……人間の食べ物じゃないよぉ、本当に食べられるの?」
僕は涙目になりながらもなんとか食べ切り、ヴァルザークは嬉しそうに手を叩いた。
ヴァルザークの指令は、
”人間の子供に負けを認め、謝罪せよ”
ヴァルザークは大きな溜息をついた。
「よかろう。人間の子供よ、そなたの根性には敬意を表する。すまなかった」
子どもを相手にあやまるヴァルザークは、なんだかちょっと、楽しそうだった。
—☆—
勝負が決着し、ヴァルザークは契約通り、健太の願いを一つ聞くことになった。
「また、いつか遊びに来てよ!」
ヴァルザークは少し驚きながらも笑みを浮かべた。
「そなたのような相手も悪くない。もしも、次も暇だったら召喚に応じてやろう」
そして、炎とともに地獄へ帰っていった。
僕の部屋には、彼が忘れていったすごろくセットが残されていた。
いや、忘れていったんじゃない。きっと、また遊ぶときのために置いていったんだ。