病院で目が覚めるというテンプレート
あるはずの無い月明かりは落下し、まぶたの白さに染み込んで朝に混じり入った……
はずも無いのに、隣のカーテンに覗く少女を多少長く見て、仕方無く納得してしまった。というのは、彼である。
彼は、金縛りをこじらせて、目を覚ました位置が多少ズレていたということの他には全くいつも通りで、劇的ではないところの彼である。いつも通りの自殺願望も、何の変哲も無い生きたがりのそれである。
結局事故で死ねなかった。死ぬなんて彼にはキツ過ぎた。というよりは、難しかった。面倒臭かった。
やはり月の光も無臭ではあり得なくて、今のこれはといえば、フランスの臭いであった。
しかしフランスなんて別に行きたくはない。正確には、行ってしまいたくない。行ってしまえば疲れてしまうから、彼はここで、このとおりの仰向けで、既にどこかに行っていたというのであれば、どれ程良かったか。と。
もっと言えば、知らぬどこかが良い。と、なんと陳腐で、単純に美しいか。ただそれだけ。美しいだけ。それ以上は何もしてくれぬのであった。
隣の少女も結局彼を見ないのであったし、別にそれ以上のことは何も無いから、つまり何も起こらないのであった。
ただちょっとばかり、彼女を驚かそうとして、例の金縛り特有の痙攣の途中、眠り込んだらどうなるかと、バンジージャンプ程度の勇気を以て試みた結果、既に彼女はいない。頭の吸盤もとっくに剥がされて、普通の、寝ることを強制されもしないただのベッドで寝ているのである。
このベッドはもう既に知ってしまった。つまらない。例の実験用のゴタゴタとした機械はそれでもまだ劇的であったが、ただそれのある部屋で気絶して、ちょっとばかり移動しただけであった。どうせなら全く知らぬ部屋で目覚めたいが、彼は、彼の死のリアクションを嫌でも見届けたいタイプの人間であった。
結局この音楽も、フランスも、それ特有の臭いというのが駄目であった。フランス臭いというのは以ての外で、だからといって、恋人にするならばその程度のことは許容出来た。ただ彼は、それを手に入れるべきシーンにおいて彼が、……違う。その手に入れるべきシーンが、彼が写ってしまっている為に我慢ならなかったのである。
であればあの少女も、彼が手に入れること自体が徒労であった。それを彼は悲しんだりはしないが、少しぐらい死んでやろうという気にはなったのであった。