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第三章 ゴッドランドクルセイダー2 愛を忘れた聖戦士

 第三章 ゴッドランドクルセイダー2 愛を忘れた聖戦士



 「みんな、敵襲よ!」


 神の国に駆け込みざまに園子は叫んだ。


 「来たんだ、なつきお姉ちゃん」


 道代はスコーンをモグモグする合間に言った。


 「道代、行儀がバッドですよ」


 指を立てながらジェーンが道代のスコーンを取り上げる。


 「何すんのよ!」


 腰に手をあてて怒りだす道代。


 「ひゃっはー、俺たちの食料はそこにあるだけで全部なんだぜえ!」


 舌を出しながらエキサイトする六歳児の未央。


 「御堂さん、辛いだろうけれど聖戦中は我慢して」


 園子はテーブルの上に山盛りに積まれた焼き菓子を見た。


 「でも、園子さん。これ全部私が作ったのよ。ちょっとぐらい、間食してもいいじゃない!」


 たわわな道代のほっぺがゆれる。


 「園子さん。ここは、私がキープしておくというのは?」


 ジェーンが少し首を傾げながら園子の顔を見る。


 「ジェーンさんが管理するなら問題はなさそうね。私は賛成だわ」


 何と神の国では議会制で意思決定がなされていた。


 「どうせ、私だけ反対なんでしょう。いいわよ、好きにしなさいよ!」


 年にしては丸みを帯びた道代の胸が威嚇するが如くユッサとうごめいた。


 「俺は棄権するぜ!」


 中指を立てる未央。


 「わざわざそんな事を宣言するのは、何か言いたいことでもあるのかしら?」


 園子は未央の方を見た。


 「道代がヒャッハーするためには、モグモグパクパクが必要! ヒャハりたい時にヒャハれない、そんな世の中じゃ、ポイズン」


 何故か遠い目をする未央。


 「なるほど、この中で一番の戦闘能力がありそうなのは道代で間違いないものね。ジェーンさん」


 園子がメガネを全反射させる。


 「はい、適量をサーブすればいいのですね」


 ジェーンは園子の顔をじっとみつめた。


 「さすが園の家政婦ね。量はジェーンさんに任せるわ。それでいいわよね?」


 再度の評決。園子の提案は全員の賛成票を得られた。


 「ねー。でも、そんな事やってる場合なの?」


 道代が神の国の入り口をチラチラと警戒する。


 「多分、近付いてくればわかるわよ。ふふふ」


 なつきの鎧姿が頭によぎり、園子はこらえ切れず笑い出してしまう。


 「どうした、姉御!」


 園子の背中をさする未央。


 「大丈夫よ。でも、どんなにおかしくても聖戦は聖戦よ。これは私達のなつきを取り戻すための戦い。わかっているわね!」


 園子の表情はひきしまっていた。


 「初戦を未央に任せるのは、正直まずいかなーとも思うんだけど、私達も事情があるのよね」


 道代が未央の手をとる。


 「ゴッドブレスフォーユー」


 その手の上にジェーンの手が重ねられる。


 「さすがのなつきでも、六歳児相手に手を出す事はないと思うわ。好きなマンガのシーンに関係しているにもかかわらず思い出せないなんて私達を軽んじているとしか思えない! ちゃんと思い出してもらう必要があるのよ」


 園子が最後に手を重ねた。



 「ガチャ、ガチャ。カツーン、カツーン」


 そして廊下の方から聞こえてくる金属鎧で歩行する音。


 「来たわよ」


 園子は少し声をひそめた。


 「俺様、超がんばる!」


 未央は鼻息をはきながら重ねられた手を払いのける。そして二分後、運命の扉は開かれる。 

 

 「ガラッ」


 神の国のスライドドアは最大限に開かれ、向こうから銀の鎧に身を包んだ長身の女性が姿をあらわす。


 「やっぱりここにいたんか」


 少しの疲労感をにじませたその声はなつきのものだった。


 「ここは、神の国だぜえ!」


 なつきの前に立ちはだかる未央。


 「うちは、ここで何をすればいいん?」


 なつきは目の前にいる未央ではなく、部屋の奥にいる園子達に話しかけた。


 「聖戦中に喋るのはヒャッハーだけと相場が決まってるんだぜー!」


 アニマルダンスでヒャッハーする未央。


 「少なくとも日本の相場やないわね。うちに思い出して欲しい事の重要なヒントがここにあるはずなんやけど」


 なつきは園子たちを順番に見回した後、部屋の中も探っていく。


 「姉御……」


 未央が促すと、園子は無言でマンガ本を取り出した。


 「これが、神の国の経典だぜえ!」


 未央は、コンビニの店員ぐらいの丁寧さでなつきにマンガを渡す。


 「読ませてもらうでえ」


 なつきはゆっくりとマンガを読みだした。


 「神の国! ってこれかあ!」


 頭をポンと打って顔をしかめるなつき。


 「それだあ! どうして忘れていたあ!」


 未央は、江頭ポーズで指をさす。


 「いや、無理やって! この神の国って明らかに嫌な奴らの集まりやん! そんなんにあんたらを重ねるなんて、神さんが許してもしとうないわ!」


 なつきは、頭をポリポリ掻こうとするが兜に阻まれる。


 「忘れてない、のかよ!」


 ちらちらと園子の方を見る未央。


 「いや、忘れてたんやけど。ああもうこの兜邪魔!」


 話しにくくなったのか兜を脱ぐなつき。


 「やっぱり忘れてたんだなあ。ぎるてぃだぞ、この野郎」


 なつきに詰め寄る未央。


 「忘れてたけど! そんなの思い出す方が無理なんやって!」


 六歳児に何かあってはいけない。なつきは未央から少し距離をとるしかない。


 「なんだと、やっぱり忘れてたんだな!」


 尚も詰め寄る未央。


 「ちょっと、みんな。こんなちっちゃい子盾に使って。卑怯だとは思わないん? 得え加減にせんとうち大暴れしてしまうで?」


 なつきの、園子たちに向けての言葉は届いたのか届かなかったのか。少なくとも返事はなかった。


 「許さねえ!」


 なつきの胴体にしがみつく未央。


 「ああ、もう。母性すら感じるわ! これ、どうすればええんや!」


 必死にしがみついてくる未央に、なつきは困惑する。


 「全く。全くなってないわ!」


 部屋の奥から切れ味の鋭い声が響く。


 「園子!?」


 なつきは声の主の方へと顔を向ける。


 「何よ、その期待半分のパッとしない表情は。当ててあげましょうか。怒られると思ってるんでしょ!」


 肩を怒らせて腕組みをする園子。その胸は、寄せてあげられ、たゆんと変形した。


 「だって園子! うちが、ちょっと勉強でけへんだけで鬼みたいになるやん!」


 なつきは指を頭の上に立てて角をつくる。


 「そりゃ、あんたの事を思ってよ! どれだけ努力して勉強しても、あんたがアホなだけで同じ施設にいる私まで同レベルに見られるって言ってたでしょ!」


 悔しさに顔を歪ませる園子。


 「それ何回目?」


 なつきも負けじと仏頂面になる。


 「じゃあ、4×3は?」


 園子は目を細めながら言った。


 「4を3回足すんやな、12やね」


 勝ち誇った笑みで園子を見るなつき。


 「その分だと、割り算はまだ除算でしか考えられないみたいね。それだけで一概に悪いとはいえないけれど。じゃあ、ルート2はいくつ?」


 本当に勝ち誇る事ができるのは園子の方だった。


 「るーと? ああ、国道二号線のことね。大きい道路やね」


 うんうんと頷くなつき。


 「アホか! なんでいきなり地理の問題になってんねん!」


 身長差のあるなつきの頭をジャンプしてはたく園子。


 「痛っ!? どつかんといてや!」


 なつきは長身を屈ませて、両手で頭をかばう。


 「うっさいわ。あんたは頭で覚えられへんって、わかってるねん! なら、体で覚えるしかないやろ!」


 園子の目がらんらんと輝く。


 「怒った時だけ関西弁になるのやめて! めっちゃ怖いねん!」


 なつきは、完全に屈んだ状態で体を丸くする。


 「ここは神の国だぜ! ひゃっはー以外の発言は無しだぜ!」


 突然未央が叫び、なつきと園子の間に割って入った。


 「そんな取り決めだったわね。でも未央、あの取り決めはうっかり口を滑らせて正解を言ってしまわないためのもの。もう無理する必要はないのよ。私達は、あんたに問題を背負わせてしまっていた。でもこのアホを任せておくのは、色々な観点から無理がある気がしたのよ」


 園子は未央の肩に手を置く。


 「でも、うちもあほやもん。なつきお姉ちゃんが石でもって打たれるなら、うちも打たれんとあかん」


 手を広げなつきをかばう未央。


 「未央ちゃん!」


 なつきの目からぶわっと熱い涙が流れる。


 「なつきお姉ちゃん!?」


 なつきの両腕が未央のわきの下辺りに挿される。


 「未央ちゃんをやるんなら、うちをやり!」


 なつきは未央を持ち上げて横に置き、再び園子と対峙した。


 「いい根性ね。それでもまだ思い出さない? 子供達に向けてそれだけの愛情を持っているというのに!」


 園子の髪がゆらゆら揺れ、メガネは全反射モードになっている。


 「何やねん! なんや分からへんけど、未央ちゃんは関係ないんやろ? これ以上巻き込まんでやってや!」


 なつきは上背から園子の顔を覗き込む。


 「それに関しては同意ね! こちらも悪かったわ」


 園子もただの一つも悪い所はないとにらみ返す。


 「やったら、未央ちゃんだけでも神の国から抜けて、普通の生活に戻って来て欲しいんやけど」


 なつきの顔が園子の顔に急接近した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒャッハーが脳内でオーバーフローを起こしそうに。こんなにも、尊いヒャッハーがあっただろうか。 神の国に在る天使の、何と愛らしいことか。
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