第一章 ひゃっはー、神の国のメンバーを紹介するぜぇ!
第一章 ひゃっはー、神の国のメンバーを紹介するぜぇ!
その頃、神の国には国民たちが集まっていた。年もバラバラな四人の少女達。そのうちの一人はなつきを迎えに来ていた園子だった。
「報告は以上よ。あのお馬鹿さんは、やっぱり覚えていなかったわね。減点ね」
メガネのつるをいじりながら、園子は報告を終えた。
「うーん。徹底抗戦するとしたら、備蓄は整えていた方がいいよね?」
クッキーを頬張りながら発現する少女は、エプロンを身に着けたミニおかん、御堂道代だった。ぽっちゃり気味の十二歳はクッキーの甘さに酔いしれている。
「道代。この前みたいに、作り過ぎるのはノーですよ!」
メイド服姿の少女は、本町ジェーン。道代が食べこぼして服を汚しているのを嫌そうに見ている。栗毛色の髪はハーフである証だった。ちなみに十歳。
「おらー。ひゃっはー。神の救いはまだかー」
最後の難波未央は六歳。普段はミドルカットの髪を整髪料で円柱状に立て、顔には白塗り悪魔的なメイク。
「ここは、まさに末法の世ね」
園子は頭痛を感じ、渋い顔になった。
「園子もあの時の印、まだしてんじゃん」
飴玉を頬張りながら道代が茶化した。
「一応団結の象徴ですからね」
園子は自らの右手を見た。
「それにしても、良くサイズがあったものです」
ジェーンはメイド服を着ていると言ったが、一つだけおかしい場所があった。それは右手。彼女は右手を園子の右手に重ねる。
「団結だ! ひゃっはー」
続いて未央の手が園子の下に潜り込む。本当は、上に重ねたいのだろうが彼女の身長ではそれが精いっぱいだった。
「未央、なり切ってるじゃん。はいはい、団結ね」
道代のぷにっとした手がジェーンの上に重なる。
「昔のあんたも似たようなものだったわよ、道代。サイズに関しては、用意した当時、大人用のしか無かったのよ。それより、団結するのはいいけれど、私達が何をするべきか、この行動の意味を覚えているの?」
全員の手が重なる。各々の手は服装からは明らかに浮いているトゲトゲしい鋲の付いた黒い皮手袋によっておおわれていた。
「お姉ちゃんを取り戻すんでしょ!」
道代の、モグモグと常時何かを咀嚼している口がその役割を放棄した。
「アンビリーバブルです。熱はないですか、道代」
ジェーンは道代の額に手をあてた。
「お姉ちゃんを取り戻すぜ! 知らない人だけどな!」
げははと舌を出して笑う未央。
「そりゃ、未央が来たのは、なつきが行ってしまった後だものね。それでも手伝ってくれるなんて、偉いわ」
園子が未央の頭を撫でる。
「うん! お姉ちゃんたちのためだもん!」
一瞬キラキラした子供の目を取り戻す未央。
「未央、プレーンに戻ってますよ?」
ジェーンは指摘した。
「う、ひゃっはー。あいのないかみのくににあらわれるきゅうせいしゅっていうすじがきなんだぜえ!」
すぐにヒャッハーモードに切り替わる未央。
「そうね、偉いわ」
未央の頭を優しく撫でる園子。
「この子、いらない事を言ってしまいそうな気がするんだけど。気のせいかな?」
撫でられてはしゃぐ未央を疑いの目で見る道代。
「同感です。冴えてますね、道代。最近お菓子を控えているせいでしょうか」
皮肉だった。しかしジェーンの表情は凍っていた。
「ごめんね二人とも。私は、進学校を目指していたせいでなつきみたいにあんた達に構う事ができなかった。だからこそこの子、未央には構ってあげたいの!」
園子は、豊満な胸に未央を抱く。
「お菓子好きなのは、園子さん関係ないもん!」
暴食。再びぷにへのデスロードを歩み始める道代。
「メイドなのは、あれです、DNAですから」
ジェーンは顔色を変えずに言った。
「そうね、ジェーンはお母さんがメイドだったのだし、道代は小さい頃からお菓子好きだものね。あの日、なつきは出て行ってしまった。それは私達に試練をもたらし、二年の月日と共に私達は成長したわ。多分なつきもね。これはなつきにちゃんとお帰りと言ってあげるための儀式。だから、私達は容赦せずに行う。思い出とかにほだされたりしないようにしなさい! 危なくなったらシスターか私に言うように!」
園子は未央をあやしながら言った。
「園子お姉ちゃん!」
道代は園子にダイブして抱き着く。
「道代! いけません!」
止めようとするジェーン。
「ジェーンも来ていいのよ」
道代と未央を胸に受け止めながら園子は朗らかに微笑んだ。
「うう、お邪魔します」
消え入りそうな声でジェーンも園子に寄り添う。
「はい、お帰りなさい」
ジェーンをぎゅっと抱きしめる園子。
「明日から。いえ、今から戦いは始まるのよ。涙は捨て去りなさい。世紀末の暴徒、ヒャッハーとして振る舞い、園に暴虐の限りを尽くし恐怖を振りまくの!」
園子は三人を抱いたまま叫んだ。
「ひゃっはー!!」
叫ぶ三人。
「んん、いいわね、その調子よ!」
園子の胸に叫ぶがバイブレーションとして伝わる。
「ぼす! 何をすればいいんだ?」
未央がちゃんと手をあげて発言する。
「そうね、まずは……」
こうして神の国は動き始めた。
翌朝。
「皆さん朝やで! 今日も一丁祈りを捧げまひょ!」
なつきは、子供達を礼拝堂に集合させるために、各自の寝室をまわっていた。
「うーん。誰もおれへんなあ。ああ、例の神の国か?」
こうしてなつきは、もと遊戯室現神の国に赴くことになった。
「うっわ。なんやあれ?」
神の国の入り口の扉前に来たなつきが見たのは
「なんや、っすっぞおらああ」
なつきの身長の半分に満たない女の子が悪魔的メイクをして訳の分からない言葉を投げかけてくるという世紀末的光景だった。
「知らない子やね。未央ちゃんやな。そんなマンガみたいな格好してどうするん? 学校に行かれへんのと違う?」
なつきは、未央の顔の高さに合わせるようにしゃがんで話しかけた。
「学校には、ひゃっはあするって連絡してあんだよ!」
中指を立てる未央。
「むむ。喧嘩売る気? ……いやいや相手は子供。え、学校行かへんのはまずいんちゃう? お姉ちゃんみたいにバカになってまうで!」
挑発に乗りかけるも、なんとか軌道修正し話を続けるなつき。
「はあ、誰が学校に行かないって言った? だからひゃっはあのまま勉強するんだよ!」
実に楽しそうに舌を出す未央。
「ここら辺の小学校って制服だったはずやけど。これを制服と言い張るのは無理があるんやない?」
目をパチクリさせるなつき。
「心配してくれてありがとうよ!」
当てつけがましく首を左右に揺らしながら叫ぶ未央。若いのでコキコキと音は鳴らなかった。
「何なん、この子! ええ子なんか、悪い子なんか、ようわからへんわ!」
なつきは、かためかけた拳をどうすればいいか分からずワキワキさせてしまう。
「聞いていた通りだぜ! そんなんじゃ、この世紀末を生き抜く事なんてできやしねえ!」
舌を出しながら鋭い高音を出す未央。
「世紀末も随分前の話やで。ああ、そうか! この子、例のマンガに感化されてもうてるんやな!」
なつきの巡りの悪い頭は、やっとの事で思い出した。
「へっへっへっ。うまそうな姉ちゃんだぜ!」
舌なめずりをする未央。
「いやあ、すごい演技やね! こんなに小さいのに、えらいわあ!」
なつきは未央の頭を優しく撫でる。
「え、ほんま? うれしいわ!」
未央の表情から険がとれ、にぱっとした笑みが広がる。
「おお、やっと笑ろた」
つられてなつきの顔にも笑みがこぼれた。
「あ、あかん。か、髪に触んじゃねえよ!」
なつきの手から逃れるために数歩後退する未央。
「確かに時間かかってそうやもんね、その髪。ごめんね!」
両手を合わせて謝るなつき。
「ふん。俺の機嫌が悪くなくって、良かったな!」
未央は本人史上では最大限に完全なヒャッハーに戻っていた。
「ありがとな。それで、他のお姉さんはどこにいはるん?」
なつきはチラリと神の国の方へと視線を向けた。
「他のお姉さん? 知らねえな?」
未央は胸を張った。
「ちょっとごめんね」
なつきは未央の後ろにある神の国に通じるドアをカラカラという音を立てて開く。
「な、何しやがる。って、別にええか」
怒声の後の柔らかい声。どちらも同じ女の子から発せられたものとはにわかに信じがたい程の落差があった。
「ここにもいないかあ。未央ちゃん、知ってる?」
なつきは部屋の中に誰もいない事を確認した後未央に問いかけた。
「礼拝堂に行ったぜ」
未央は簡潔に答えた。
「そっか。じゃあ、うちが遅れるわけにはいかんし、行ってくるね」
なつきは、礼拝堂に向かい歩き始める。
「待ちやがれ!」
未央がなつきの背中に向かって叫ぶ。
「どしたん?」
なつきは歩みを止めた。
「その、なんだ、世紀末に一人歩きは危険だぜ。俺がついて行ってやる!」
未央はなつきの方をじっと見つめる。
「ぷっ、なんやの? さっきから世紀末連呼やし、悪魔が再び蘇りでもするんかいな。ほんまおもろいなあ、未央ちゃんは!」
未央のせりふがかった言葉に思わず吹き出してしまうなつき。
「それで、どうなんだ?」
未央の方は、大まじめだった。
「一緒に礼拝堂に行くんよね? もちろん歓迎するわ。未央ちゃんも連れて行かへんとあかんし。恰好は、まあ、神様も許してくれるやろ!」
なつきは白い歯を見せて笑いながら未央の方に手を差し出す。
「バカヤロウ! ひゃっはーは手なんか繋がねえんだよ!」
未央はそう言って礼拝堂の方へと歩き出す。
「この子、もしかしてむっちゃ可愛いんとちゃうか?」
シスター見習いは目をキラキラさせながら未央を後ろから眺めながらついて行く。