鞘木刀拵様、太刀かため、太刀に而鑓に出合心得、軍場之大事
太刀打ちの位で使う鞘木刀の作り方などの記述です。絵は原書がこういう描きぶりなんです。
紐を割るという意味が良くわからずに詳細な説明ができませんでした。布なら六ツ割・八ツ割など布一幅の幅(およそ35.9cm前後。時代によって異なる)を○等分にするの意でしょうが、絵図との整合性が取れないような気がします。
・鞘木刀の拵の仕様
寸法は好みによって作る。おおかた鍔元から切っ先までを二尺から二尺三寸か二尺四寸までとする。鞘は木でも紙で張り抜きにして作ってもどちらでも良い。渋糊で二十四、五枚も張れば大体折れることはない。
漆で拭い又は叩き塗りにすることもある。
・紐(※原文は革へんに丑)は三十二に割る。または十六でも差し支えないが、まずは三十二に割るのである。
・小太刀も同じ数を割る。
(※右から木刀、鞘、紐の図(訳者の模写。以下同じ))
・甲冑を着込む人は色々と刀がふらつかないように固定するものであるが、非常に抜きにくい。そこでよい固定法があり、これを「太刀かため」という。
忍の緒(※兜を締める紐)のように布を入れた苧で縫い包み、長さ六尺くらいに紐を作って具足櫃に入れておく。
固定するときは、刀を腰に当てて、作った紐を右脇で結び留め、その上に帯をし、その上帯で太刀かための見えないように取り繕う。脇差は上帯にいつものように差しておく。そして抜くときは太刀かための結び目を少し緩めると自由に抜き放つことができる。ただし、紐の結び目を緩めず抜くこともできる。
また、切り立った崖や塀などを登るとき、刀を背負うことにも使える。そのまま刀を後ろ引き回して下緒を肩に掛ければ差し支えることはない。この太刀かためは非常に良いものである。
(※太刀かための図。下緒のほか、「クワノコ」と注があるのが紐と思われる)
・刀を使って塀に登る方法
あたりを見回しておおむね低いと思われる塀であれば、刀を塀に立て掛けて下緒の端を帯に括り付け、その刀の鍔に足をかけて登る。下緒を帯に括り付けているので、刀は登ったときにそのまま付いてくるのである。
・太刀で槍に立ち向かうときの心得
敵が槍で打ち掛かってくるときは、こちらは刀を車の構えに取って、敵突いてくるところを払うのだ、などと諸家ではいうが、当流はそうではない。
この絵のようにして入身に入り、そのままかたなを鞘から抜いて薙ぎ切るのである。
(※太刀で槍に〜の図。左手は逆手に持っている)
・「軍場の大事」のいうことがある。刀を抜き、敵を突くか、または夜討ちして突くことが肝要である。平常時もこのように心得ておくべきである。
山川幸雄(印)
文政四年辛巳歳三月十一日これを写す
坪内長順 写す
甲冑を着込んだ時に下緒などを用いて太刀を固定する方法は『本邦刀剣考』などで有名(ブログやYouTubeでも紹介されていますね)ですが、伝書にも工夫された方法がありました。
絵を見るとおよそ六尺の紐を鞘に結び、そこから伸ばして下にもうひと結びし、右腰のあたりで結び止めるような形と思われます。
どこにどういう結び方にするのかなど、より具体的な部分は記載がありませんが、おおよそ太刀を履くような結び方だろうと推測します。
なお、「クワノコ」というと桑の子、つまり絹を想像します。苧で縫い包むという記述と矛盾するようですが、理由は不明です。