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繰り返す日々とさよなら

私達は、鴨池はやてのCDを幾度となく、聞いていた。


その曲がちゃんと耳に入るようになったのか、なっこはさらに元気になっていった。


あの日から、私達の家のBGMになっていた。


♪痛みを伴う程の苦しみを♪


♪味わった若き日の僕等♪


♪失う事はこんなにも♪


♪体が引き裂かれる程の痛み♪


♪僕だけが、不幸せで♪


♪僕だけを置き去りに世界は回った♪


『君の形を忘れていく。この体。愛をちょうだい。君を思い出せる程の…。愛をちょうだい。君の感触を味わえる程の…。スルリスルリと消えていった、この手の中から』


「また、静樹も歌ってた」


「なっこも」


私は、なっこを後ろからきつく抱き締めた。


私達の人生そのものを鴨池はやては、歌ってくれた。


それが、私となっこには嬉しかった。


音楽は、時として誰かの人生と重なると言うけれど…。


まさに、【智天使(ケルビム)のぬくもり】は、私となっこにピッタリだった。


そして、元気になったなっこは、彼の従兄弟と弟に会いに行った。私もついて行った。


それからは、ちょくちょく会うようになった。最初こそ、私も春樹の名前に動揺していたけれど…。


次第に、気にならなくなった。


あの日、なっこの世界は一番底の深く暗い場所に叩きつけられた。


そして、戻ってくるのに半年もかかった。


その日々を支えたのは、智天使(ケルビム)が最愛の人に向けたバラードだった。


その曲に、支えられて私となっこは今日までの日々を生きてきていた。


「何が、食べたい?」


「うーん。鮭」


「そうね、それがいいわね」


「静樹、愛してるよ」


「私もよ」


なっこは、あの日から私を凄く求めてくれた。


この世界にいない二人に、遠慮していた私達。


私は、なっこを愛していた。


ずっと、ずっと、出会った頃からずっと…。


失う前に、気づいていた。


なっこなしでは、人生はないのだ

って事を私は、ずっとわかっていたのだから…。



あれから、なっこと私は、キスをしたり、お風呂に入ったりしていた。


「静樹」


「なっこ」


身動きとれない私を、解放してくれたのは、なっこだった。


なっこの世界に私が映った事が、幸せだった。


なっこは、桜の季節がやってくるとあの場所に行った。


その後に、彼のお墓に行くのだ。


なっこの誕生日は、あの日から呪われてはいない。


もうこれ以上の、悲しみはなくていいと思った。


「静樹」


「帰ろうか?」


「うん」


なっこと手を繋いで歩く。


あの日からなっこは、左手の薬指に指輪をはめた。


私も、春樹の指輪を左手の薬指にかえた。


もう、春樹は帰って来ない事をやっと受け入れれた気がした。


春樹の代わりになっこが、私の元にやってきてくれた。


私は、この先は、なっこと、ゆっくり、ゆっくり前に進んでいくと決めた。


愛してる何て、言葉で縛りつけられた。


待っていて何て、言葉で縛りつけられた。


未だに私は、春樹が何故海に飛び込んだのかわからなかった。


両親に理解されなくたってよかったじゃない?


私と一緒に、あのまま生きてくれたらよかったじゃない?


私もなっこも、もう充分な程、愛する人を待ったわ。


だから私は、これから春樹の事をゆっり思い出にしていくわ


でも、ずっと私は、浅川春樹(あさかわはるき)を愛しているわ。


それだけは、一生変わらない。


でもね、ゆっくりサヨナラするから…


だって、春樹は、私に嘘をついたのだから…。






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