なっこと私
「静樹、はやてがCDデビューした」
半年前、なっこはキラキラした笑顔でそう言った。
「えー。嘘見せて」
「これこれ、はやてだって言ってないけど。絶対、はやてだってわかるの」
「聞かせて」
スマホで、なっこは再生した。
♪想像された世界で♪
♪不偏ばっかの世の中で♪
♪ご都合主義の社会で♪
♪君は、何を感じ生きる?♪
「ロック?」
「ロックなのこれ?わかんないけど…」
「何か、でもかっこいいわね」
「そう、絶対はやてなのに」
「四人組ね」
「そうそう」
「智天使って名前なのね?」
「そうそう」
「へぇー。何か、かっこいいわね」
「かっこいい」
なっこは、うっとりしながら見ていた。
鴨池はやてのバンドの曲は、鴨池はやての世界そのものだった。
「あー。絶対、ライブ行く」
「でも、ライブなんかやってないわよ」
「そうなの、ライブは予定がありませんって書いてある。」
「そうね」
それからは、毎日なっこはその曲を聞いていた。
あの日ー
なっこに、一本の電話がかかってきてなっこの世界が壊れる瞬間を私は、目撃した。
犯人からの言葉は、なっこの心をバリバリと壊していった。
私に、夢中でキスを繰り返すなっこの柔らかな温もりが私の事も夢中にさせた。
もっと、繰り返していたかったのになっこのスマホが私達を引き離した。
その手紙と指輪が、さらになっこを苦しめた。
そんな時だった、CMから流れる智天使が出したバラードが、まさになっこや私にピッタリだった。
次の日に、CDを買いに行った。
帰宅したなっこは、すぐにTVをつける。
しかし、NEWSは何も報じなかった。
次の日の朝のNEWSに、なっこの世界は完全に崩壊した。
私は、それをハッキリと感じた。
「なっこ、仕事いけないわよね」
なっこは、私と話さなくなった。
ただ、毎日泣いていた。
私は、なっこのスマホから職場にかけた。
「もしもし、若宮夏子の従兄弟なのですが…。」
私は、なっこの職場に病気になってしまった事を告げた。
何とか理解していただき、次の日私は、なっこの荷物を取りに行った。
「なっこ、ご飯食べましょう」
なっこは、頷く。
私は、なっこの口にいれて食べさす。
私は、なっこをお風呂にいれる。
「脱がすわよ」
なっこは、頷いた。
私は、なっこの服を脱がした。
初めて、なっこの裸を見た。
とても、綺麗で、私は、なっこにより一層惹かれたのを感じた。
「なっこ、洗うわよ」
頷くなっこの頭を洗う。
なっこの声が、聞こえない事が寂しくて苦しくて、押し潰されそうだった。
それでも私は、なっこに生きていて欲しかった。
丁寧に、体を洗ってお風呂を終えた。
「また、三日後ね」
なっこは、頷いた。
そんな日々を繰り返しながら、仕事をする。
私は、すごく満たされていると思っていたし…
なっこに、寄り添っていられるだけで幸せだと思っていた。
なのに…。
なのに…。
その生活から半年後…
「じゃあね」
「お気をつけて」
「さあ、今日ちょっとだけ飲みに行きましょうよ」
「私は、すぐに帰らなきゃならないのよ」
「静樹さん、いいでしょ?」
ゆっこちゃんの行きつけのbarにママと二人で行く
二階にあがる階段で、フワッと眩暈がした。
「しー静樹さーん、ママー」
ゆっこちゃんの声が、頭に響いた。
私は、意識が遠のくのを感じた。
目覚めたら、変な格好のなっこが立っていた。
「静樹、静樹」
半年ぶりのなっこの声に、涙が流れた。
「静樹は、生きていて」
その日から、なっこは水を得た魚のように私の介抱をしてくれていた。
「はい、静樹。あーん」
「あーん」
「美味しい?」
「うん、上手くなった」
なっこを独り占めできる事が、堪らなく嬉しかった。
「静樹、もう一口どうぞ」
「ありがとう」
なっこの笑顔を見れるだけで、私は幸せだった。
満たされていく。
あの半年間と違った。
あの日々は、満たされていなかったのに気づいた。