小石
……コンっ!!
散歩をしていたら、小石を蹴飛ばした。
……ころころと転がる小石。
少し欠けた、丸みのあるフォルム…白と茶色と灰色に混じる黒。
ひょいと指でつまんで、まじまじと見つめる。
これは…砂岩だな。
なんだ、珍しくも何とも、ない。
……僕は、ポイと小石を投げ捨てた。
……じゃりっ!!
散歩を続けていたら、小石を踏んだ。
……足の裏で踏まれた小石。
小さな石が固まった、ごつごつとしたフォルム…色調の違う黒に灰色が混じり合っている。
ひょいと指でつまんで、まじまじと見つめる。
これは…礫岩だな。
なんだ、珍しくも何とも、ない。
……僕は、ポイと小石を投げ捨てた。
……ぼりっ!!
散歩をさらに続けていたら、小石を踏みつぶした。
……踏まれて粉砕してしまった小石。
パラパラと崩れる、儚げなフォルム…薄汚れた外側の色で中身の白さが際立つ。
ひょいと指でつまんで、まじまじと見つめる。
これは…生物の骨だな。
石のふりをした、命の忘れ物だ。
わりと珍しいけど、壊れちゃったから、な。
……僕は、ポイと骨を投げ捨てた。
……ごりっ!!…どたっ!!!
散歩をさらにさらに続けていたら、小石を踏んで…転んでしまった。
……なんだ、この小石は。
足元にふてぶてしく転がっている、忌々しいフォルム…どす黒く輝く憎たらしい色。
ひょいと指でつまんで、まじまじと見つめる。
これは…なんだ。
僕の、欠片じゃないか。
石のふりをした、破壊の名残。
胸をよぎるのは、苦い思い出。
……あーあー、ミスったよなあ。
海のど真ん中に落ちるつもりだったのに、……目測を誤ってしまった、あの日。
僕は……、文明の最先端をぶち壊してしまったのだなあ。
……あれがなければ、今頃、この星は。
他の星からの移住者を迎え入れて、次元に囚われない交流を楽しみながら……もっともっと派手に繁栄していたはずだったんだ。
人が人として、誇りと喜びを満喫していたはずだったんだ。
人の揚げ足をとり、人をからかい、人に影響され、人が人であることを簡単に放棄する、この、世の中。
……こんな燻った命が溢れてるはずじゃ……なかったんだ。
失敗したよなあ……。
ちょっと好奇心が押さえられなかったせいで、こんなつまんない星になってしまった。
宇宙とつながる瞬間を、間近で見ようとしたのがまずかった。
宇宙の彼方から見守っていたら、こんな事にはならなかった。
まあ、今さら悔やんだところで……、起きてしまった事は、変えようもない。
今はただ、この星に生きている人間が、変わることを願うしか、ない。
たまに発生する、消えた大陸の魂を持つ人間が、燻る人に潰されて…なかなか世界が変わらないのが残念でならない。
……いつか、変わるかな?
……変わると、いいんだけど。
……変われるかなあ?
……変わってほしいんだけど。
どうせ変わらないかと、くさくさした気分で、足元の小石を、蹴り飛ばした。
カッ……ザ、ザサッ!
……コツン!
小石は、道行く生命体に接触して、動きを止めた。
「……おいっ!なにすんだよ?!石が当たったじゃねーか!」
「あ、すみませ…
……ガツン!めきょ!ぼりゅっ!
「ぎ、ぎゃあああああ!」
あーあ、いきなり殴りかかるから……。
……血気盛んなのは、いいけれど。
なぜ状況を考えて言葉を発しようとしないのだ。
せめて相手が人か人じゃないか見分けができてから攻撃したら、どうなんだい。
右手が粉砕してるじゃないか。
ただの肉が隕石に叶うはずないのになあ。
「な、なにしやがった!?ぶち殺すぞぉおおお!!あ、あが、アァアアアアア!イテェ、ぐ、ぐぉおおおお!」
破壊された手から、全身の崩壊が始まった。
……まあ、つまんない種類の生き物だし、ほっとくか。
明らかにこの星に不要な人間だからな。
しばらく痛みでのたうちまわったのち、肉は溶け、骨も崩れ、大地に混じる事だろう。
「な、なんだこれは…た、たすけっ…う、ぐ、ぅぎぃいいい、あ、あ、あ……。」
僕は、呻いている無駄な生命体をスルーして、歩きだしたのであった。