第94話 合流
軽く周りを見渡してみるけど、それらしいものはない。
「あったー?」
「ないよー」
ただでさえ広い空間なので、2人で手分けしても見つからない。
そもそもあるかすら分からないけどね。
「…っ!主!」
翡翠がいきなり身構える。
翡翠の目線の先には、私たちが入ってきた扉があった。
ひとまず気配を探る……あ。
「翡翠!戻って!」
「え!?わ、分かった!」
刀に戻った翡翠と腰に付けていた刀をアイテムボックスに収納する。そのすぐ後に、見ていた扉が開く。
「ここは…あれ?フィリア?」
扉から姿を見せたのは、マリアだった。
「え、ママ?」
あたかも気づいてなかったような反応をしておく。気配を探って分かってたんだけどね。
ひとまず駆け寄る。
「大丈夫だった?」
「それはこっちのセリフなんだけど…大丈夫よ。フィリアも怪我はない?」
「うん、大丈夫」
「そう、良かったわ」
マリアが頭を撫でる。
「もう、私そんなに子供じゃないよ」
「親にとってそれは関係ないのよ」
まぁいつまでもマリアにとって私は子供だものね。
「この部屋は?」
「分からない」
さっきまでウルフはいたけどね。言わなきゃバレない。
「ここってゲートキーパーの部屋よね?」
「多分?でも、魔法陣が欠けてて、動かないの」
「欠けてる?」
私はマリアに魔法陣を見せる。しばらく見つめた後、マリアが口を開いた。
「これ……本来の魔法陣じゃないわ」
「え?」
何となく予想はしてたけど。でも、見てわかるものなの?
「見てわかるの?」
「ええ。とはいえ、魔物が召喚される魔法陣じゃないってことしか分からないけどね」
なるほどね。マリアは次に欠けたタイルを見つめる。
「この断面……もしかして」
小さく呟く。どういうこと?
私の疑問はそのままに、マリアは何も無い空間からなにかを取り出した。多分収納魔法かな。
「やっぱり…」
マリアが取り出したもの。それは、タイルの破片だった。
それを敷かれたタイルに合わせる。ピッタリとハマったけど、大きさが足りない。
「これ、どうしたの?」
「進んでいると魔物が出てきてね、それを倒した後に見つけたのよ」
…となると、これは仕組まれていると考えたほうがいいね。破片が別のところに勝手にいくなんて考えられないから。
「足りないってことは、ロビン達が持っているのかしら」
その可能性があるね。
「ひとまず、休憩しましょうか」
「そうだね」
ロビン達がここにくるという確信はないけど、ひとまずは待ってみよう。
私はアイテムボックスから敷物を取り出した。前にボス部屋で休憩したときに使ったやつね。
「ありがとね」
座ってのんびりと待つ。アイテムボックスには…あ、炊いておいたお米がある。
「ママ、お腹空いた?」
「え?うーん…ちょっと」
ちょっとか。でも、この世界の人のちょっとってかなり多いのよね。まぁ深く考えないでいっか。
アイテムボックスには炊いたままのご飯が入ってるので、それを取り出しておにぎりを作る。
「フィリア、なにそれ?」
「ご飯だよ……できた。はい」
マリアにおにぎりを手渡す。塩味ね。
「あ、ありがとう」
マリアが少しおにぎりを齧る。
「…っ!美味しいわ。これはなに?」
「えっと…」
こっちでの名前が思い出せない。確か……
「あ、ラース?」
やっと名前が出てきた。
「え?!これラースなの!?」
マリアが驚く。なんで…あ、そっか。飼料だったね。
「うん。炊くと美味しいんだよ」
「そう、なの…まぁ確かに美味しいけど」
パクパクとおにぎりを食べる。ついでに私も。
「遅いわね」
「そもそもくるか分からないけどね」
まぁあのタイルが仕組まれたものなら、来ないってことはありえないんだけど。
「…フィリア、あなたはこれからどうするの?」
唐突にそう切り出してきた。リーナからもそんなこと聞かれたなぁ。
「うーん、とりあえず旅したい」
せっかくなら満喫したい。
「旅、か…いいわね」
「そう?」
「ええ。私、いや、私たちはそんな余裕はなかったからね」
確かに、英雄としてやらなければならないこともあるだろうからね。そこまで暇じゃない、か。
「…フィリアは、英雄の娘ってことを公表する気はある?」
「どうだろ?別に私は気にしてないけど」
これは本心。もし公表したら旅が出来なくなるかもしれないけど、それは……ごり押すつもり。多分大丈夫。
「そう…まぁフィリアの人生だものね。フィリアが旅をしたいのなら、公表はしないほうがいいかしら」
「多分ね。でも、アッシュは…」
学園を卒業して旅に出る前に、アッシュとは仲直りしないと。
「その問題もあったわね…はぁ。まぁ私も協力するわ。というより、私たちが元凶だものね」
「そのときはお願いね」
とりあえずは自分で説明してみるけどね。それでダメなら協力してもらうことにしよう。
「お?ここは…」
しばらくそうやってマリアと話していると、扉が開いてロビンが入ってきた。
「マリア?それにフィリア!無事だったか!」
ドドドと駆け寄ってきたので、サッと躱す。
「なぜ逃げる!?」
「だってその勢いできたら怖いもん」
大の大人が叫びながら駆け寄ってきたらそら怖いよ!
「うっ!すまん…」
「ふふっ。ロビンも大丈夫そうね」
「ああ。他の奴らは?」
「まだ来てないわよ。それと、ロビンはタイルの破片なんて持ってない?」
「え?あぁ、これか?」
ロビンが腰に着けたポーチから破片を取り出した。マリアが出したものより小さい。でもよく持ってたね。
「なんだか持っといたほうがいい気がしてな」
もしかしたらそういう認識操作がされているのかも。
「ここにハマる?」
「どれ…おぉ、ピッタリだ」
まだ足りない。とりあえずあと4人待ってみますか。
終わらなかった…