第93話 ウルフと魔法陣
何となく書いた話。そろそろダンジョンを終わりたい…
翡翠を先頭に進んでいると、どうやら下り坂になっているらしい。少しずつ下に下がっていっている。
「まだ先はありそう?」
「うん。でも、魔物はいないよ」
この狭い通路で魔物とエンカウントしてしまったら大変だろうなとは思っていたけど、出会わないならそれに越したことはない。
体感的にかなり下におりてきたと思う。あの落とし穴で大体10階層まで落ちたと思うから、今は15〜20ら辺だと思う。
そうなると、ゲートキーパーと出会ってないね。まぁそれはそれで有難いからいいけど。
「主、敵」
おっと。とうとう魔物が来たね。ライトの数を増やして、奥を照らす。
暗闇から現れたのは、ウルフ。狼型の魔物だ。速さがあって、広いところで戦うなら厄介な相手。
でも今回は狭い場所だから、楽かな。
「あれ?」
ウルフは私たちの姿を確認すると、奥へと走り去ってしまった。さっきのモンスターハウスと同じように魔力を広げてその先を把握する。
すると、この先が広い空間になっていることが分かった。さらに多くのウルフも確認できた。
…どうやら、狭い場所で戦うことは出来なそう。
「不味いね…」
「また同じのやる?」
確かに部屋の構造は同じなので、出来なくはない。だけど、魔力消費が激しい上に、火を起こす魔道具はもうない。
「乗り込むしかないね」
「分かった」
翡翠は取り回しのしやすい短刀を鞘から引き抜いた。
「翡翠、もう一本いる?」
もう一本っていうのは、短刀のことだ。
「うーん、うん。ある?」
「はい」
アイテムボックスからもう一本短刀を取り出して、手渡した。私も同じようにする。短刀はあまり使ったことがないけど、翡翠が言うにはそこまで変わらないから大丈夫だって。
……ほんとに?
「じゃあ私が行くね」
「分かった」
翡翠がまず突っ込む。ライトは2個付けておいた。
私は魔力を確認する。
「あ、あんまり減ってない」
見てみると魔力消費軽減のレベルが5になっていた。それのお陰かな。
とりあえず身体強化をして、翡翠の後を追う。
グワァァァ!
部屋に着くと、どうやらもともとゲートキーパーの部屋だったらしい。5階層の部屋に似ているからね。そこにウルフが大量に走り回っていた。そして、それを追いかける翡翠。
……何やってるの?
「ひ、翡翠?」
ひとまず追いかけっこしている翡翠を呼ぶ。
「あ、主!主もやって!」
どうやら遊んでいる訳ではないらしい。でも、やるって何を?
そう思っていると、1匹のウルフが襲いかかってきた。
「うわっと」
ひとまずバックステップで躱す。そしてもう一度襲いかかってきたところを少し横にずれて躱し、首に突き刺した。
キャン!
なんとも可愛い声を上げて、ウルフは息絶えた。
「案外簡単?」
突き刺した短刀を抜いて、血を振って払う。
「やぁ!」
翡翠はなんか脳筋プレイしてるよ。蹴り飛ばしてるよ。翡翠ってそんなキャラだったっけ?
グルル…
私の周りにはウルフが10体ほど。とりあえず1匹に一気に近づいて、脳天に突き刺す。すると3匹が後ろから襲いかかってきたきので、短刀を引き抜き左右のウルフ目掛けて振り向きつつ2本の短刀を投げる。真ん中は足で蹴りあげた。
キャン!
短刀は上手く刺さったみたいで、2匹のウルフは倒れた。蹴りあげたウルフは地面に頭から落ちて絶命。
短刀を引き抜きつつ、風魔法で周りの固まっているウルフを吹き飛ばして、そこから1匹ずつ仕留めていく。集まられたら厄介な相手だけど、一体ならそこまで強くない。
「せい!」
翡翠も短刀で首を刺して倒している。脳筋プレイはやめたのね。
しばらく作業的なことを繰り返していると、やっとウルフがいなくなった。
「終わったー」
「お疲れ様」
返り血まみれの翡翠を魔法で綺麗にする。ついでに私も。短刀は少し刃がかけてしまった。まぁ仕方ないかな。
「翡翠の短刀は綺麗だね」
対して翡翠の短刀は刃こぼれなし。やっぱり技量の違いかな。私は一応かけてしまった短刀を収納し、新しい短刀を取り出した。
……うん。何本あるんだろうね。増えてる気がするのは気のせい。そう、気のせいだよ。
「とりあえずウルフは収納したほうがいいかな」
ウルフの死体をアイテムボックスに収納して、ついでに部屋を魔法で綺麗にしておく。すると、部屋の真ん中に魔法陣が書かれているのを発見した。
「なにこれ?」
「さぁ?」
ここがもしゲートキーパーの部屋なら、この魔法陣から魔物が出てくるはずだよね。でも、どうやったら出るんだろう?
魔法陣を見て回る。すると、書かれている床はタイルになっているらしく、そのタイルが1枚欠けていた。どうやらそのせいで魔法陣が動いていないらしい。
部屋を見回す。
「どうしたの?」
「うん?ここが欠けてるから、どこかに落ちてないかなって」
そう言うと、翡翠は呆れた顔をした。なんで?
「一応聞くけど、見つけてどうするの?」
「…はめてみようかと」
すると翡翠は呆れ顔とため息をついた。だからなんで!?
「…はめたら魔法陣が動くかもしれないんだよ?」
「うん。まぁ魔物が出てきたら倒せばいいし」
私だって魔法陣が動くかもとは思ったよ。でも、だからこそ動かしてみたい。
「はぁ…分かった。私も探す」
翡翠も探してくれることになった。でも、なんでそんなに心配するんだろう?
「だって主がいると色々と大変なことが起きるんだもん」
あら、心の声が漏れていたらしい。でも人をトラブルメーカーみたいに言わないでくれるかな!?
そんなにトラブルはない……はず。
少し翡翠の言葉に傷付きながら、私はタイルの破片を探し始めた。