第83話 遭遇
リーナから魔法について根掘り葉掘り聞かれ、マリアからまたしてもこっぴどく怒られ、意気消沈しながらもなんとか攻略を再開した。
「まったく…魔力は大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫」
そんな会話を交わしながら、さらにダンジョンへと潜っていく。
そして遂に、4階層へとたどり着いた。
「おい。あれなんだ?」
突然先行していたドノバンさんが、暗闇の中を指さしながらそう言った。
目を凝らして指さした暗闇を見てみると……
「あれは…生徒じゃないか?」
制服姿の生徒と思しき人物が倒れているのが分かった。
「とりあえず近づいてみるぞ」
罠や魔物が化けている可能性もあるので、最大限の警戒をしながら、ドノバンさんが近づいていく。
そして十分に近づき、顔を覗き込んだ。
「大丈夫だ。人間だ」
ドノバンさんの声を聞き、私たちはようやっとその人物へ近づいた。どうやら男の子らしい。それも1人ではなく3人いた。
「おい。大丈夫か?」
ドノバンさんがそのうちの1人を揺すって呼びかける。
「うぅ……あ、あれ?ここは…」
「大丈夫か?何があった?」
「あ、えっと…何があったんでしょう?」
おいおい。質問に質問で返してどうする。
「覚えてないのか?」
「はい……あ、でも、確か3階層で宝箱を開けた…はずです」
なんとも自信が無さそうに男の子の生徒はそう答えた。宝箱か…しかもここは4階層だから、転移されてきた可能性があるね。
「その宝箱は?」
「分かりません。開けたら煙が出てきて…」
「気がついたらここにいた、と」
「はい……」
なるほど。記憶を無くす睡眠の煙が出てきて、転移させるの類いの罠なのかな。
「よし。事情はよく分かった。とりあえず立てそうか?」
「はい…あの、ドノバンさんですよね?あの六大英雄の」
「ああ。ついでにここに居るのはその六大英雄だぞ」
「えぇ!?」
心底驚いた様子で、周りを見渡し始めた男子生徒。そして…私に目をとめた。いやまぁそうなるかなって思ってたけどね?
「君は…誰?」
まさかのド直球。思わずマリアのほうを見る。
「えっとね…まぁ色々あるのよ」
いや説明になってないよ!?
「そうですか…」
あ、納得しちゃうのね?ちょっとは疑問を持とうよ!?
……出来るなら持って欲しくはないけどね。
「それより、帰れそうか?」
「あっと…俺は大丈夫です、けど…」
そう言って、自分の後ろで未だに眠ったままになっている男子生徒に目を向けた。あぁ…
「…困ったな。俺たちは出口まで案内は出来そうにないんだ」
「そうなんですか…」
明らかに残念そうな表情になる男子生徒。多分ダンジョンが変わってしまった心配と、六大英雄に護衛してもらえなかったっていう残念さがあったんだろうね。
「なら5階層のゲートキーパーを倒して、帰るしかないわね」
「あぁ。転移門があるからな」
うん?ゲートキーパー?転移門?そんなのがあるなんて聞いた事ないんだけど?
「どういうこと?」
「あぁ。フィリアはまだ行ってなかったのね。ダンジョンには5階層ごとにゲートキーパーっていう魔物がいるの。で、それを倒すと転移門が使えるようになって、次にダンジョンに入る時はそこから再開できるのよ」
ほうほう。確かに何度も1階層からっていうのは大変だよね。
「じゃあひとまず5階層に向かうか。階段はもう見つけてるしな」
このまま攻略すると男子生徒が足でまといだし、危険だものね。まだ4階層の探索は済んでないけど、また戻ってこればいいんだもんね。
「そっちの男の子達は起きれそう?」
「あ、起こします」
「フィリア、回復頼める?」
何故私にやらせようとするんだ?
そう思って、そう言ってきたマリアへと目線を向けると、マリアは私の耳元でこう囁いた。
「あなたがなんで六大英雄と行動してるのかを理解してもらうためよ」
あ、なるほどね。つまり実力を見せろってことか。
「うん、分かった」
「…ほどほどにね」
さすがにそこまで心配しなくてもよくない?
「えっと、どこか怪我とかあります?」
何も言わないで治されるのはいい気はしないだろうからね。とりあえず何処を怪我してるのかは大体分かるけど、問いかけてみる。
「え?えぇっと……腕、かなぁ?」
「腕ね。ちょっと見せて」
男の子の言った腕は骨折していた。ついでに脇腹も骨折しているんだけど、それには気づいていないっぽい。
ひとまず腕を治して、そのついでに脇腹も治しておく。
「はい。これで大丈夫」
そう言うと、男の子は固まってしまっていた。あ、あれ?
「無詠唱…」
………あ。やっちゃった。
「はぁ……」
後ろから深いため息が聞こえる……しかも痛いほどの視線付き。
「さ、さぁ次ね!」
もうやけくそだ!まだ眠ったままの男子生徒に回復魔法を一気にかける。
するとどうやら、眠っていたのは状態異常だったらしい。回復魔法は状態異常も治せるからね。
その結果男子生徒は目をゆっくりと開け、意識を取り戻した。
「ふぃー…これで大丈夫」
全くもって疲れてないけど、それだと怪しまれるかなって思ったからわざとため息を吐いた。
「あ、あぁ…ありがとう…ございます…」
戸惑いながらもお礼を言えるあたり、ちゃんとした生徒だね。
お礼を言われた後、走ってマリアの元へと戻った。
「全く……魔力消費を抑える為にもトリガーワードは言いなさいよ…」
そうなのよ。トリガーワードを言うと、魔力消費が抑えられるのよね。無詠唱もいいことばかりじゃないのよ。
……正直私にとっては大したことじゃないんだけどね。
「ま、まぁ良かったじゃない!」
「……はぁ。まぁ丁度よく実力は見せれたとは思うけどね。とにかくあの3人がいる間、フィリアは魔法で攻撃するの禁止ね」
「えぇ?!なんで?!」
「…これ以上あの視線を向けられたい?」
そう言われて後ろを向くと……男子生徒から尊敬とも取れる視線を向けられていた。
「受けたくないです…」
だって気まず過ぎるでしょ!それに身長差もあるし、なんか勘違いされてそう…
「じゃあ自重しなさい」
「はい……」
はぁ……早く倒して帰ってもらおう。