第80話 ママ怖い
「とりあえず、場所移動しねぇか?」
私がマリアに掴まれていると、レビンさんがそう提案した。
確かにここはまだネズミの死骸が残ってるし、また魔物が来るかもしれないね。だけど、何処に?
「そうね。近くのセーフティーエリアに行きましょうか」
あー、なるほど。
セーフティーエリアっていうのは、魔物が入ってこない場所のこと。いわゆる休憩所だね。私も何度か使ったことがある。
だけど、ダンジョンの構造が変わってしまっているらしいし、あるのかな?
「あるの?」
「ああ。この前ここで確認した」
どうやら前に確認していたらしい。それなら安心かな。
……また変わってなければだけど。
場所を知っているレビンさんを先頭に、ダンジョンを進む。
………だけど
「マ、ママ?そろそろ下ろしてくれない?」
そうなんです。私首根っこ掴まれたままブラブラされて運ばれてるんです。いや、苦しくはないよ?アンクルの効果だとは思うけど。
ただね、私もう12歳なんですよ?なのにぶら下げられて運ばれるって……
「だめよ。目を離したらなにするか分からないもの」
いや、信用ないな!?自覚あるけど。
「諦めなさい。自業自得よ」
リーナまで薄情……
結局下ろしてもらえることなく、ダンジョンを進んでいく。なんか気持ち悪い……おぇー…
「よし。ここだ」
なんとか吐くのを堪えていると、到着したみたい。
セーフティーエリアはでかいホールみたいな場所。4つの出入口があって、中央には水が湧き出ていて、天井にはクリスタルみたいな光源がはまっている。だから通路より明るい。
「さすが学園のダンジョンよね…」
マリアからそんな言葉が聞こえた。確かに凄いよね。
というのも、普通のダンジョンのセーフティーエリアはこんな感じではないのだとか。ここは生徒の安全を考慮しているから、明るかったり、水があったりするのよね。至れり尽くせりとまではいかないけど、明かりがあるだけで安心するんだよね。
「お、下ろしてーー」
「あら、ごめんなさい」
物凄いわざとらしい謝罪を口にしながら、マリアは私を下ろしてくれた。
「じゃあお話しましょうね?」
怖い!マリアの顔が物凄い怖い!
しかもお話っていうのが別の言葉に聞こえたんだけど!?
「フィリア、頑張れよ。マリアのお話は…な?」
恐怖倍増なんだけど!?
「さてと。じゃあまず、フィリアは約束を覚えているかしら?」
や、約束……
「も、もちろん」
「じゃあ言いたいこと分かるわよね?」
マリアとの約束。多分ダンジョンに入る前に言っていたことだろう。
……無茶しちゃだめっていうやつね。
「な、なに?」
分かってるけど、わざと問い返す。
「無茶、しちゃ、だめ、って言ったわよね?」
「うん。(ママが)言ったね」
実際言ったら余計大変なことになるのは分かりきってるから、心の中でしかそう言わないけどね!
「じゃあどうして?」
「なにが?」
わざとらしく首を傾げる。
「フィリア、可愛いぞ…」
…そこの親バカはちょっと黙っててもらおうか。
「無茶したでしょ!?」
「うーん…私にとって無茶ではないよ?」
そうなのよ。私にとってあれが無茶だとは思っていない。だって魔力ほとんど使ってないからね。さらに言うなら、魔力を消費したそばから回復しちゃうのよね。
「あれが無茶してないの…?」
ちょっとマリアが絶句してる……
「…だって、魔力多いもん」
「いや、多いって言ってもあれは…」
「……2倍」
「え?」
「ママの魔力の2倍あるって言ったら信じる?」
そうなのよ。私の魔力そんくらいあるのよ…
マリアの魔力量も昔より増えてるみたいだけど、私の魔力量はそれを超えている。それも……2倍どころじゃない。だけど、今それを言う覚悟はない。
……いつかは言わないといけないのかもね。でも、今は、まだ言えない。
「2倍…本当に?」
私は静かに頷いた。
「そう…ごめんなさいね、言うのは勇気がいったわよね」
そう言いながら、私の頭を優しく撫でてくれた。やばい、また泣きそう…
「フィリアー!ゴフッ!」
大号泣しながら飛びついてきたロビンは、結界で押し返してもらった。ちょっとは空気読もうよ……
「さてと。嘘泣きはやめてもらおうかしら?」
「…てへ?」
「そんな顔しても誤魔化されないわよ。さぁ、あの契約獣はなんなのか教えてもらうわよ」
うっ!やっぱり誤魔化されなかったか…確かに泣きそうではあったのよ?だけど、またしてもロビンのせいで引っ込んじゃったのよ。
「実は…色々とあって」
「その色々を教えて欲しいんだけど?」
「えー…」
「えー、じゃない」
えー…。なんて言うよ。
「リーナ〜、説明してー」
事情を多少知っているリーナに助けを求める。だって説明するなら森が壊れたとこからしないといけないし…
「はぁ…まぁ仕方ないわね。私から説明するわ」
よかったー…じゃあ私はこの辺で…
「どこ行くつもりかしら?」
そう言いながら、ガシッとまたしても首根っこを掴まれた。
「ちょっとそこまで…」
「どこまでかしら?」
凄みのある笑顔で聞いてくる…怖いです!!
「いや、やっぱりいいです…」
「そう?じゃあ契約獣を出してもらえるかしら?」
「は、はーい…」
ガルマを呼び出す。
『む。主よ。何用だ?』
そう尋ねてきたガルマに、用事を指さして伝える。
ガルマは私が指さしたほうを見て…また私に向き直った。
うん、分かるよ。怖いよね。絶対逆らったらだめって…
「これがフィリアの契約獣?」
「うん…フェンリル」
「へー…って、フェンリル!?」
お、おう…いきなり目を見開いて叫ぶもんだからビックリしたよ。
「フェンリルって神獣…よね?」
「そうだよ?」
なにか不味いことでもあったっけ?
「マリア。フィリアちゃんはこういう子よ」
「…ええ、そうね」
え、どういうこと!?
『そういうことだよ…』
『そういうことだ』
なんか翡翠とガルマまでそんなこといってくるんだけど?!
…解せぬ。