第78話 ダンジョン潜入
最近更新が4日おきになり気味ですいません……m(_ _)m
予定が大方片付いたので、なんとか更新できるように頑張ります…
「じゃあ行くぞ」
レビンさんの掛け声で、私たちはダンジョンへと足を踏み入れた。ドノバンさんがマジックポーチから大盾を取り出し、先陣を切っていく。
ダンジョンの中は、一見すると何も変わっていないように見えた。
「なにか変わってるとことか、気づく?」
マリアがそう問いかけてきた。
なるほど。私の同行を許可したのは、そういうことを確認するためでもあったのね。マリアも入ったことはあるだろうけど、覚えてないだろうしね。道理で親バカのロビンが何も言ってこないと思ったよ。
「うーん…特には変わってないと思う」
構造が変わってるって言ってたけど、そんなに変わっていないように見える。まぁどこを見てもほとんど景色が変わらないから、変わってても分からないと思うけどね。
「…あ、ただ」
「ただ?」
「気配察知が使える」
そう。以前は曇っているような感覚がして、上手く気配を察知出来なかった。だけど、今はハッキリと分かる。それこそ、気持ちが悪いくらいに。
「え?……あ、ほんとね。そこまで弄られてるなんて…」
マリアがそう言うけど、ちょっと引っかかる。
ダンジョンの中に入れたくないなら、そのままのほうが絶対にいい。今の状態だったら、どうぞ入ってくださいと言っている……
「そうか…そういうことか」
「どういうこと?」
これは…不味いかもしれない。
「本来、入ってきて欲しくないなら、気配察知を妨害するはず」
「ええ、そうね……まさか?!」
ここでマリアも気付いたみたい。
「それで生徒を誘い込んだ…?」
その可能性が高い。気配察知が使えるのなら、たとえ強い魔物が出るようになったとしても、事前に察知して、逃げたりすることができる。
……逆に、気配察知が使えない人たちは、魔物の餌食となる。つまりこれは、
────選別だ。
力を持つ者を選別し、奥へと誘い込むのが、今回の犯人の目的なのかもしれない。
だけど、その後は?誘い込んでどうする?
……だめだ。今は情報が少な過ぎる。とにかく進むしかない。
ベルとキャサリンは気配察知が使える。というか、多分学園でずば抜けていると言っても過言ではないかもしれない。
だから、2人は大丈夫、大丈夫なんだ。
「フィリア?顔色悪いわよ?」
不安をかき消すように、自分に大丈夫だと言い聞かせていると、マリアが喋りかけてきた。
「大丈夫?」
「……私は大丈夫」
そう言うと、マリアは何故私の顔色が悪いのかに気付いたようだ。
静かに抱きしめられた。あたたかい……
「…心配、なのね」
「…うん」
だめだ。鼻がツーンってする。
どうやら私の精神は、私が思っていた以上に疲弊していたらしい。
「ふぇ…うぅ…」
ダムが決壊するように1粒、また1粒と、目から熱いものが流れ落ちた。
「大丈夫、大丈夫だから」
マリアが優しい声をかけながら、私の頭を撫でてくれた。
……うん。撫でたんだよ。私の身長…いや、もうやだ。これ以上自分を傷付けたくない。
「フィリア!?大丈夫か!?」
突然思いっきり大声でロビンが叫んだ。おかげで引っ込んだよ。涙。
「…うるさい」
「そうよ、ロビン。ここはダンジョンなんだからね」
リーナが最もなことを言った。
そうなるとダンジョンで泣いてる私はどうなんだ。
「あ、フィリアちゃんはいいのよ」
あ、そうですか……
「おいおい。話してる場合じゃ無くなったぞ」
ドノバンさんが大盾を構えながらそう言う。視線の先には、曲がり角から出てくるオーガがいた。
……その数、なんと5。
「まじでいたのかよ」
「丁度いいわ。倒してみましょう」
そう言いながらリーナは魔法の準備に入った。
「じゃあやるか」
ロビンが剣を正面に構える。おお、今はカッコイイと思うよ。純粋に。
「どうだ?カッコイイだろ!」
その発言が無ければもっとね!
グァァァァァァ!!
雄叫びをあげて一体のオーガが突進してきた。
「鉄壁!」
ドノバンさんがそう叫ぶと、大盾が一瞬光った気がした。
多分大盾専用の武闘スキルだと思う。
ガギンッ!!
鳥肌が立つような、あまり聞きたくない音が響いたと思ったら、ドノバンさんはオーガの突進を大盾で見事に受け止めていた。す、凄い…
「ロビン!」
「ああ。オラァ!」
大盾に突進した影響で足が止まったオーガに、ロビンが突っ込んだ。
オーガは手に持っていた金棒で応戦する。だけど、それを受け流しつつロビンはその金棒を持っていた腕を切り飛ばした。
グワァァァァ!!
余程苦痛だったのか、耳を劈く叫び声をあげた。うるさいな!
苦し紛れにもう片方の手で殴りかかるけど、その腕も切り飛ばされた。そして流れるように体内の魔石を突き刺した。ほんとに凄い…カッコイイというより……綺麗。その言葉が合うと思う。
「どうだ?」
ドヤ顔をしながら振り向いてきた。うん、それさえ無ければね!
「おいおい。親バカしてる場合じゃないぞ」
おっと。そうだった。まだオーガはあと4体いる。どうやら一体だけでなんとかなると思っていたらしい。現にすこし放心気味だし。
「喰らいなさい!アイスニードル!」
リーナが叫んで魔法を行使する。その数……30以上。多くない?
アイスニードルは、真っ直ぐ迷いなくオーガへと向かっていった。
グワァァァァ!!
オーガは金棒を振り回してアイスニードルを叩き落とそうとする。多少落とせたようだけど、さすがに全ては無理だったらしい。所々に突き刺さり、血が流れ出ている。
「次は私ね!ホーリーランス!」
お次はマリア。ホーリーってことは聖属性かな?
マリアの目の前に4本の光り輝く槍が出現した。おぉ!綺麗。
これも迷いなくオーガへと向かっていった。さすがに2連続は無理だったらしい。
というより、多分叩き落とせない。なんて言ったらいいかな…エネルギーの塊みたいなものなのよね。だから多分無理。
「終わったな」
なんか呆気ない終わり方だったけどね。ていうか最初から魔法でやればすぐだったんだじゃないの?
そう思って尋ねてみると、
「あー、そうなんだけど、あのホーリーランスはかなり魔力を使うのよ」
とのこと。4本が限界だったらしく、一体倒して貰う必要があったんだって。
「あ、なら魔力大丈夫なの?」
「ちょっと使いすぎたけど、大丈夫よ」
そう言うけど、マリアの顔色はいつもより悪い。魔力が少ない証拠だ。
私は黙ってマリアに近づき、手を握った。
「フィリア?」
その手から魔力を渡す。
「ちょ!?フィリア?!」
「大丈夫だから落ち着いて」
「でもフィリアが…」
「大丈夫……半分も使ってない」
もう思い切って言ってみることにした。すると息を呑む音が聞こえた。
「フィリア……本当に?」
「…うん」
一気に静かになってしまった。き、気まずい……
「はい。どう?」
「え、ええ。大丈夫よ」
ほ、よかった。
「フィリア……今どれ位魔力があるの?」
「……少なくとも、ママより多い」
正確な数値は教えない。
信じてない訳じゃない。ただ……怖い。見る目が変わるかもしれないって。
「そう…大丈夫よ。私、いえ、私たちはあなたの味方だから」
「うん……言える時がきたらちゃんと」
今はまだ無理。今は色々とゴタゴタしてるから、落ち着いた時に、覚悟ができた時に言うつもりだと。
そう言うと、マリアは頷いた。その顔は一生忘れることがないほど……優しい顔だった。