第77話 初めての大規模転移
「ひとまず、ダンジョンに潜るしかないってことだよな」
「ああ。そうなる。準備は済んでるか?」
「ええ。もちろん」
そう言ってマリアは腰に着けたポーチを叩いた。もしかして……
「ねぇ、それってマジックポーチ?」
「ええ、そうよ」
やっぱりそうだった。さすが英雄。
マリアは収納魔法が使えるけど、それより入るマジックポーチをよく使っているらしい。
「欲しいの?フィリアはアイテムボックスあるでしょ?」
「いや、私じゃなくて…」
私はベルにマジックポーチをあげたいということを話した。
「なるほどね…でも、これはあげられないわよ?」
「分かってる。だから今キャサリンが探してくれてる」
「キャサリン…あ、フィリアの友達ね?」
「うん」
「そうね……ねぇ、レビン?」
「うん?どうした?」
「確か学園のダンジョンから出る宝箱の中身に、マジックポーチってあったわよね?」
「ああ。つってもかなり低いけどな」
なんと!ダンジョンで手に入ったのね。知らなかった…
「だから頑張ったら手に入るわよ」
「うん。探してみる」
これはいいことを聞いた。まぁダンジョンが元に戻らないと探せないけどね。
「フィリアちゃんってアイテムボックス持ちだったの?」
あ、そうか。リーナには言ってなかった。
「うん。そうだよ」
「私が言わないように口止めしてたのよ」
マリアが助言してくれた。それを聞いてリーナは納得したらしい。
「それより、フィリアちゃんもいくの?」
そう聞いてきたのはマルティエナさんだ。
「ええ、そうよ」
「ちょっとリーナ?聞いてないわよ?」
マリアが少し怒った様子でリーナに詰め寄った。
「私だって連れていきたくないのよ?でも、多分置いて行ったら勝手に付いてくるわよ?」
ほんとに不本意そうにそう言った。なんかすいません……
「…フィリア、それ本当?」
マリアが私と目を合わせて聞いてくる。お、おう……目がちょっと怖い。
「う、うん」
気圧されながらも頷いて答える。
「はぁ…フィリア、危険だっていうことは分かってるわよね?」
「勿論分かってる」
「なら…」
「だけど、このまま自分だけ待ってるっていうのも嫌!」
しっかりと自分の意志を伝える。キャサリンやベルは今正に危険な状態かもしれない。それなのに自分だけ安全に待つだなんて出来やしない。そもそも私の心が持たない。
「でも…」
「マリア」
ポンとリーナがマリアの肩に手を置いた。
「気持ちは分かるでしょ?」
「……ええ。分かったわ」
それでようやく、渋々という感じで了承してくれた。
「でも、危険だと思ったら迷わずこれを使って?」
そう言いながらマリアが手渡してきたのは、透明な握りこぶしくらいの水晶だった。
「これは?」
「これは転移石。地面に叩きつければ、この屋敷まで転移できるわ」
「え、でも私転移できるよ?」
そう言うとマリアは目を丸くした。あ、あれ?
「転移できたの……?」
あ、そうか。まだ言ってなかった。
「うん」
「そ、そう……でも、魔力が常にあるとは限らないから、とにかく持っていて」
有無を言わせぬ形相でそう言われたので、仕方なく受け取っておく。
魔力……むしろ有り余ってるんだけどね。
「さて、それじゃあダンジョンに向かうか」
レビンの声で全員が頷いた。私も含めてね。
「じゃあ私が転移するわね」
「あ、待って」
私は転移の準備を始めたリーナを止めた。
「どうしたの?」
「いや、これからダンジョン攻略でしょ?魔力は温存しといたほうがいいんじゃないの?」
先程マリアが言ったように、いざってときに魔力が無くなりかねない。
「でも、私たちが街を歩く訳にはいかないのよね…」
……あ、そういう事か。つまりスターが街を歩くことと同義だものね。
「じゃあ私が転移する」
「えぇ?!でも7人同時よ?」
マリアが心配するのも無理はない。転移は一度に転移する人数で魔力が変わる。自分を含めて7人分の転移はかなりの魔力を消費するのだ。
……だけど、私の今の魔力量なら余裕でもある。我ながら化け物だよね…
「大丈夫。手を繋いで?」
私がそう言うと、全員が手を繋いでくれた。転移は触れてないとできないのよね。
リーナが補助する気でいるけど……まぁ問題ない。後で魔力を分けておこう。
「いくよ」
そう言って、私は全員の顔を見て転移を発動した。
グニャリと視界が歪み、一瞬で景色が変わる。
そしていまさっきまでは屋敷にいたのに、気がつくと学園のダンジョンの入口に立っていた。
「う、嘘…フィリア、大丈夫なの?!」
「うん。だいじょ……」
その瞬間、視界が傾く。
「フィリア!」
倒れそうになった私をマリアが受け止めてくれた。
「フィリア!大丈夫?」
「……うん、へーき。ちょっと目眩がしただけ」
魔力を一度にここまで使うのは初めてだったからね。それでも半分も消費していない。ほんと多すぎると思う。
「こんだけのことして汗ひとつかいてないのかよ…」
なんかレビンさんが絶句してる。
「さすが俺の娘だな!」
……ちょっと黙ってて貰っていいかな?いや、間違いではないけどね?今ここで親バカを炸裂させないで欲しい。
「フィリアちゃん……私の補助を必要としなかったわよね?」
……さすがリーナだね。そのことを易々と看破しちゃったよ。
私はエヘッと笑って誤魔化した。はぁってため息をついてたから、誤魔化せてないだろうとは思うけどね……
「フィリア、ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫だって。魔力切れじゃないし」
まさか半分も使ってないのに目眩がするとは思わなかったけどね。
「ほんとに、ほんとに無茶しちゃだめよ?」
マリアが念を押してそう言うので、頷いておく。
……………まぁ、無茶しないとは言ってない。