第67話 ダンジョンお試し
学園での今日の授業を終え、私たちは今、学園の裏手にあるダンジョンの入口に立っている。なぜ立っているだけで、入らないのかというと…
「アレク殿下!ぜひわたくしも共に!」
「いえ、わたしくしと!」
「わたくしが先ですわ!」
と、入口でなんかカオスになってるから。話を聞く限り、アレク殿下と共にダンジョンに入りたがっているらしい。理由はアレク殿下が強いからか、はたまた2人っきりになりたいのか…おそらく後者だろう。だって、
「あのような格好でダンジョンに挑むなど…」
キャサリンが絶句してるけど、私もそう思う。だってハデハデのフワフワのドレスを着てるんだもの。明らかに戦いにいく服装ではないよね。
「ごめんよ。今日は僕1人で行きたいんだ」
アレク殿下は直接明言はしてないけれど、明らかに足でまといだと思っているだろう。だって私がアレク殿下を見るような目をしてるんだもの。
『それはそれでどうなんだろう…』
うん?なんかだめなとこあった?
『…いや、なんでもない』
うーん…ま、そういうならいっか。
「そうですか…仕方ありませんわね。今日は失礼しますわ」
今日はって言ったよ?明日もこんな場面に遭遇するなんて真っ平御免なんだけど?
「いや、僕はこのダンジョンを1人で攻略したいんだ」
ナイス!アレク殿下!
アレク殿下からそう言われちゃったら、引き下がるしかないよね。渋々と言った表情で、アレク殿下にまとわりついていた令嬢たちは去っていった。
「待たせてしまったかな?」
どうやら私たちには気づいていたらしい。
「いえ、大丈夫です」
「そうか。ここに来たということは、君たちもダンジョンに入るのかい?」
「はい、そのつもりです」
「じゃあお互い頑張ろう。僕は先に潜っているよ」
そう言って、アレク殿下はダンジョンに入っていった。ちなみにこの学園にあるダンジョンは、洞窟のような入口ではなく、扉になっている。
「ではわたくしたちも行きましょうか」
「うん、そうだね」
「頑張ろ!」
扉の取っ手に手をかけ、扉を引く…ひく…
「フィリアさん…押すのですわ」
恥ずかし!!
扉を押して、今度こそダンジョンに足を踏み入れた。そこはまるで学園にあるダンジョンとは思えないほど、広い洞窟が広がっていた。
「広いですわね…それに暗い」
光は今扉が開いているので、そこから入ってきているが、閉めたら真っ暗だろう。
「うーん…魔法使ってもいいけど、もしものために魔道具を使う?」
「それがいいですわね」
私はアイテムボックスから魔法のランタンを取り出した。魔力を注げばオレンジ色に光り、辺りを照らしてくれる魔道具だ。
「ではランタンを持っているフィリアさんを先頭に進みましょう」
「分かった。じゃあいくよ」
暗い洞窟の中を進む。気配察知は反応しているが、反応が薄くて分かりにくい。どうやら妨害されているみたい。
「…っ!来たよ!」
現れたのはゴブリンが三体。目視するまで全く気配が分からなかった。
「じゃあ私がやるね!」
そう言ってベルは弓に三本の矢をつがえ、放った。同時打ちなんてできたのね…
グギャギャ!!
見事に三体の頭を貫いた。
「さ、さすがですわね…」
キャサリンも少し引いている。まぁ私も驚いていたりする。ここまで成長してるとは知らなかったからね。
「あ、ゴブリンが消えてく」
命が尽きて倒れたゴブリンは、まるでダンジョンに吸収されるようにして消えていった。
「ダンジョンで出現し、ダンジョン内で倒した場合、その魔物はダンジョンに吸収されるのですわ」
ほぇー。じゃあ素材とかはとれないのかな?
「素材はとれないの?」
「魔物自体の素材は取れませんが、ドロップ品と呼ばれるものは入手できますわ。ほら、あれですわ」
そう言われて見てみると、さっきまでゴブリンがいたとこに銅貨が3枚落ちていた。え、ドロップ品ってお金なの?
「今回は銅貨でしたが、ドロップ品はその都度変わりますわ」
なるほど。ランダムなのね。
「じゃあこの銅貨はベルのだね」
倒したのはベルだしね。
「え?!いいの?」
「もちろん」
「わたくしも異論はありませんわ」
私は銅貨を拾い上げ、ベルに手渡す。
「ありがと!」
もうハンターとしてだいぶ稼いでいるだろうから、そこまで喜ぶものでもないと思うけどなぁ…まぁお金を大切にするのは、いいことだね。
「じゃあ進もうか」
「うん!」
「はいですわ!」
ゴブリンとの戦闘を終え、先を進む。だんだん慣れてきたのか、気配察知がすこしハッキリしてきた。
「あ!次の角にまたゴブリンがいるよ!数は…5かな」
「ではわたくしがいきますわ!」
今度はキャサリンが戦うようだ。角から出てきたのはゴブリンだったけど…
「数、間違ったか…」
出てきたのは6体のゴブリンだった。
「1体増えたところで変わりませんわ!」
強気だねぇー。まぁキャサリンも強いし、問題はないかな。
「いきますわ!…フレアサークル!」
フレアサークルとは、対象を炎で包み込み、焼き尽くす魔法。6体のゴブリンは全て炎に包まれ、燃え上がる。
グギャャャャャャャャャ!!
炎が治まり、ゴブリンは跡形もなく消え去っていた。
…ついでにドロップ品も。
「ちょっとやりすぎじゃない?」
「た、確かに…やりすぎましたわ…でも、次は大丈夫ですわ!」
その自信はどこからくるのだろうか…ま、さっきので大体の加減は分かっただろうしね。大丈夫…だと思う。
そう言えば洞窟で火を使っても良かったのかな?酸素無くなったりしない?
『主のいうサンソっていうのが何か、分からないんだけど?』
あれ?こっちにはそうやって区別がないのかな?まぁ簡単に言ったら空気だよ。
『なるほど…なら、主が心配してることにはならないと思うよ』
どういうこと?
『魔法の炎って、魔力で燃えてるだけだから』
あー、なるほど。つまり燃焼に酸素…空気を使わないのね。
『そういうこと』
ここでも異世界っていうのを実感するよ…
「フィリアさん?どうしたのです?」
「あ、ごめん。、ちょっと考え事してて」
「そうですの。それで、これからどうします?」
「うーん…」
ダンジョンに入ってから、かなり時間がたっていると思う。明日の授業があるし、今日はここまでかな。
「もう時間もたっているだろうし、出ようか」
「そうですわね」
「さんせー!」
来た道を戻る。キャサリンが紙に簡易的な地図を書きながら進んでいたので、迷うことなく出口に到着した。
扉を開けると、外はもう夕暮れ時だった。
「もう少しで真っ暗になるとこだったね」
「そうですわね。ではまた明日ですわ!」
「うん。またね」
「またねー!」
キャサリンと別れ、屋敷に戻る。
「ねぇねぇ、フィリアちゃん?」
「うん?どうしたの?」
「かけっこしよ!」
ま、街中でか…
「うーん…ま、いっか」
「じゃあスタート!」
「あ!ちょっと!」
私の言葉を聞くことも無く、ベルは走り去ってしまった。
「全くもう…」
そういいつつ、私も走り出す。流石に街中でスピードは出せないし、地面を抉るわけにもいかないので、身体強化なしで走る。
「…で、なんで勝っちゃうんだろう?」
結果私が先に着きました。ベルは身体強化してたのに…
「また勝てないー!」
ベルも加減はしてたみたいだけど、それでも速かったはず。速さのステータスって結構差があるもんなんだね。
その後ご飯を食べ、お風呂入ってベッドに潜り込むと、そのまま意識を手放した。