表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/158

第59話 国王と神器

 

 ユーリの後をついて行って、城の中を歩いていると、重厚な扉にたどり着いた。


「ユーリ…ここって…」

「ここは謁見の間だよ」


 謁見の間?!そんなとこいったら心臓破裂するよ!?


「こ、ここに入るの?」

「ふふふっ。大丈夫だよ。お父様に会うのは執務室にしてもらったから」


 ほ、よかった…ユーリも元日本人として、私のことを考えてくれたのかな?


「そう言えばユーリのお父さんは()()知ってるの?」


 あれ、とはつまり、転生者であることだ。


「うん、話してるよ。だからこそ、こうしてフィリアちゃんを連れてこれた訳だし」


 確かに今考えれば、例え友達だったとしても、一国の王に会うのは容易いことではないよね。


「なんて呼べばいいかな?」


 さっきはユーリのお父さんと言ったけど、流石に本人の前でそれはだめだよねぇ…


「別にさっきの呼び方でもいいと思うよ?」

「いや、流石にだめじゃない?」

「うーん、そうかな?そこまで堅い訳じゃないし…まぁ会ってみたら分かるよ」


 なんかそう言われてロビンが頭でチラついたけど、気のせいだよね!


「あ、ここだよ」


 着いたのは謁見の間の扉より豪華ではないけど、社長室みたいな厳かな感じがある扉だった。え?社長室の扉なんてみたことないだろって?…まぁ見たことないですよ、ええ。でもこんな感じってイメージぐらいあるじゃない?


「入らないの?」

「あ、こめん」


 私が心の中で自問自答している間に、ユーリは扉を開けて待っていた。ノックとか要らないの?


「お父様、私と()()、友達のフィリアちゃんです」


 中に入ると、ユーリが私のことを説明した。中には男の人が1人だけいた。この人がユーリのお父さんだろうか。


「初めまして、フィリアといいいます」


 そう言って私は頭を下げた。


「いや、そんなことはいい。ユーリの友ならば、快く歓迎するよ」


 低く、でもどことなく安心する声が響いた。口調からして、ユーリの言う通り話しやすそうだね。


「で、そちらは?」

「あ、こちらは六大英雄のカトリーナさんです」

「六大英雄か、まさか会えるとは…」


 うん?確かに六大英雄は凄いけど、一国の王が会えないものなのかな?


「ええ、私たちは貴族が嫌いだからそこまで接点がないのよね」


 な、なるほど…。


「ならばなぜ?」

「このフィリアちゃんのためよ」

「保護者という立場か?」

「まぁそう捉えてもらって構わないわ」


 するとユーリのお父さんは私のことを探るような目で見ていたけど、途端に納得したような表情になった。


「(なるほど…六大英雄の娘か…)」


 小声でそう聞こえた。その事はユーリにしか言っていないから、多分念話で話したんだろう。まぁ国王だし、秘密は守れるだろう。


「(そのことは内密に…)」

「(ああ、分かっている)」


 私になんも相談せず話したユーリには少し怒りがあったけど、ごめんね、と目で訴えていたので、多分断ることが出来なかったんだろう。それならば仕方ないと思って、ユーリを許すことにした。


「で、魔力内包症を治すために、この国の神器を使いたいという要件だったな」

「はい、使えるでしょうか?」

「無論だ。ユーリの友なのだからな。ただ…」

「ただ?」


 そう聞き返すと、顔を近づけて小声で聞いてきた。


「(ユーリの前にいた世界について、少し教えて貰ってもいいだろうか?)」

「それは構いませんが…何故です?」

「(…少しでもユーリと仲良くなりたいのだ)」


 そう言って照れくさそうに顔を逸らした。…ユーリ、愛されてるね。私もロビンにこういう程よい距離感を持って欲しいよ…


「では神器のところに行こう。ついてきてくれ」


 ユーリのお父さんはそう言って部屋から出ていったので、その後をついて行った。


「そういえば名前を聞いていませんでした」

「うん?そういえばそうだな。私の名前は"ガルシア"だ。それと、別に普段ユーリと話す感じで話してくれて構わないぞ?」


 ガルシアさんからそう言われたけど、まだ無理そうかな…


 しばらく歩くと、謁見の間の扉とは違う、豪華な扉の前にたどり着いた。


「ここに神器がある。入ってくれ」


 …なんか軽いな。神器ってかなり特別なものじゃないの?そんな疑問は心に仕舞い、部屋に足を踏み入れた。そこは明かりの魔道具で明るく照らされた、とても広い部屋だった。そしてその真ん中に台座に宝玉が鎮座していた。あれが神器だろうか?


「いきなりで済まないが、さっそく始めて欲しい」

「それはいいんですけど、なんで急ぐんです?」

「やはり森があのままでは、魔物が街に出てきてしまうからな。早く直したいのだ」


 と言われてしまっては断れない。いや、断る気なんてなかったけど、なまじ原因が私であるから余計に、だ。


「分かりました。普通に触れて魔力を込めればいいんですか?」

「ああ、それで構わない」


 私は宝玉に近づく。近づくにつれ、ただ綺麗な丸い水晶ではなく、繊細な模様が彫られていることが分かった。ここまでの技術はこの世界にはないだろう。

 宝玉に手を触れ、魔力を流す。すると、前に使った板より強力に吸われる感覚がした。体に溜まっていた熱いものが、するすると抜けていく。次第に宝玉から光が漏れ出す。それはとても優しい光だった。


「凄い…」

「ああ…さすがユーリの友だな」


 いやそこ関係ないと思う。

 心の中でツッコミを入れつつ、魔力を流し続ける。だんだん吸う力が弱まってきたので、流す量を少なくしていく。流石にこれを割るのはヤバい。


「ふぅ…」


 吸う力が完全に無くなったので、手を離す。最初のときより、なんだか体の中にあったつっかえみたいなのが無くなって、気持ちが良くなった。


「大丈夫なの?そんなに流して」


 リーナが心配してくれた。けど、私が流したのは、体に溜まっていると感じていた魔力だけ。だからまだまだ魔力は残ってる。


「大丈夫だよ?」


 だから私は笑ってリーナに答えた。


「そう…で、溜まっていた()()は無くなった?」

「うん。スッキリと」

「良かったわ…」


 リーナがそう言って涙を流した。そこまで心配させていたんだね。


「大丈夫?」

「…ええ。もう大丈夫よ」


 リーナが笑ってそう言うので、私も笑い返した。


「今回は助かった」


 ガルシアさんが頭を下げる。けれど、私は自分も責任があるって思ってるから、とても気まずい。そんな気持ちを察してくれたのか、ユーリが部屋に戻ることを提案してくれた。


「では()()()はその時に」

「あー…それなんですけど…」


 流石にリーナに聞かせる訳にはいかない。そんな気持ちでリーナを見ると、リーナは察してくれたのか、ため息をつきながら


「はぁ…分かったわよ。外で待ってればいいんでしよ?」

「うん。ごめんね」

「いいのよ。誰にだって一つや二つ聞かれたくないことだってあるもの」


 リーナの場合は年齢…いえ!なんでもないです!!

 リーナから睨まれたので、そそくさとガルシアさんについて行った。


「では話してもらえるかな?」


 執務室に入ってそうそう本題に入ったガルシアさんに苦笑しつつ、答えた。


「何が知りたいんです?」

「そうだな…あのユーリが作る料理のことが知りたい。私もユーリを驚かせたい」


 ガルシアさんは微笑みながら、すこし顔を逸らした。恥ずかしいんだろうね。ちなみにユーリはお店に戻った。もう混み始める時間だかららしい。

 さて、料理か…私は両親を亡くしてそこから自炊はしていた。だから色々作れるけど、それはユーリも同じだと思う。むしろユーリはそれが本業だったんだから、素人である私は到底及ばない。ならばどうするか?ユーリが知らない料理を教えればいい。どんな料理を知らないのかは無論分からないけど、色々出せばそのどれかは食べたことがない料理だろう…っていう力論。まぁ再現できるかわかんないけどね。


「じゃあ色々な料理を教えますね。驚かせたいのなら、ユーリが知らない料理のほうがいいですし」

「確かにそうだな…分かった。それを教えてくれるか?」

「分かりました。うーん…ユーリが食べたことが無さそうな料理は…ボルシチやムサカ、ケジャリー…」

「ま、待ってくれ!そもそもどんな料理なんだ?」

「あ、すいません…えっとボルシチはビーツを…」

「びーつとはなんだ?」

「あ…えっと赤いカブみたいな?」

「赤い?かぶ?どれくらい赤いんだ?かぶとはなんだ?どんな形なんだ?」

「え、えっと…」


 …うん、説明大変でした。そうだよねぇ…この世界に同じ食材があるとは限らないよねぇ…頑張って探してください、愛娘の為に…ついでに私の為にも。




 執務室を後にして来た道を戻り、城から出る。するとリーナが眠って待っていたので、体を揺すって起こした。


「リーナ、終わったよ」

「うぅぅん…あら、ふぁ…終わったの?」

「うん」

「じゃあもう用はないわね」

「ないよ。ユーリにもお礼言ったしね」


 ユーリがこの城から出ていく時に、お礼はしておいた。それとまた来るっていう約束もした。転移魔法を覚えたらすぐ来れるしね。


「じゃあ帰りましょうか」


 行きと同じくリーナと手を繋ぎ、転移する。まだ感覚が慣れないから、目をつぶった。そしてリーナに言われて目を開けると、そこはいつもの屋敷の前だった。


「じゃあもう疲れたでしょ?ご飯食べてお風呂入って寝ましょうか」


 そう言われた途端に疲れがどっと出てきたので、その言葉に甘えることにした。屋敷に入るともうベルが帰ってきていた。なんでも今日はシリルとランクアップの依頼を受けてきたらしい。大した問題もなく、お昼すぎには戻ってきたんだって。私も久しぶりに依頼受けようかなぁ…


『明日は特訓だからね!』

「はいはい」


 どうやら依頼はまだ受けれないようです…翡翠と明日の約束をして、私はベットに入り、意識を手放した。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓他の執筆作品はこちら!↓↓↓

『異世界転移は定員オーバーらしいです』

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ